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折れた剣、折れた心

 シルバ含め、エデット、フィン、レクサは信じられないモノを見た。聖剣が折られるなどということは想像だにしたことがない。魔王を退けたとされるアルスの剣が折れている。人類の希望の剣ともいえる代物だ。


「あら~。あらあらあらあら~ん♪ どうしたのぉ。それだけで絶望? つまらない つまらない つまらないっぃいぃ」


こともなげに折れた刃をポイッとその辺に捨てる。まるでゴミでも捨てるように……。


「もう飽きちゃったわ。死ねばぁ?」


 呪文を唱えると巨大な火の玉がベグイアスの頭上に現れる。エデットがベグイアスに殴り掛かるが、蜘蛛の前足で魔力の盾を召喚し、その一撃をあっさり止めたかに見えた。が、盾は粉々に砕け貫通してベグイアスの体に拳が届く……寸前で退く。


「凄いわね、凄いわね、凄いわね~。なにその力? 気になるぅ、ベグイアス、気になるっぅうぅ!」


 エデットの力を試すために巨大な火の玉をエデットに投げつける。これを砕くか防ぐか出来る力なのか知りたくて仕方がないのだ。しかし、それは試すことが出来ない。フィンがドラゴンブレスでエデットに当たる前に破壊してしまう。


「厄介!ドラゴニュートはいつも、そう」


 イラっとしたように飛んでくるフィンを睨み付けると、大量のマジックミサイルを浴びせる。ドラゴンの鱗でも傷つき吹き飛ばされてしまう。フィンにばかり気が回っていたせいで、エデットを見逃していたのか至近距離にいることを許してしまっていた。


「ゼロブリット!!」


 拳をベグイアスに接触させたかと思うと、オーラを一点集中で爆発的に開放する! ベグイアスの蜘蛛の腹の部分が湾曲し血飛沫が舞い散る。


「ぐがっぁあっぁ!! 痛い!! 痛い! 痛い痛いいたいいたいいたいっぃぃい!!」


 素早く後ろに飛び退くベグイアス。オーラが勝機に繋がることを確信したエデットが畳み掛けるため、足にオーラを乗せ、飛ぶように間合いを詰めようとしたが、ベグイアスは人間の方の腕を前に突き出し呪文を唱えていた。咄嗟に左へとエデットは旋回する。


「素早い動きっぃ! 嫌いじゃないわっぁ! でも、でもでもっぉ、アルスの生まれ変わりは避けられるかしらっぁあ!!」


 エデットが回避したかなり後ろの方に放心状態のシルバが膝を付いたまま、アルスの剣をいまだに眺めていた。


「しまった!」


 初めから、狙いはシルバだったのだ。いや、どちらでも良かったのかもしれない。ベグイアスの手に集まっていく魔力は目に見えるほど大きく、そこから黒い閃光が放たれた!

エデットは最大まで脚力にオーラを乗せて戻ろうとするが間に合うわけがない。

 だが、黒い閃光はシルバの手前で大爆発を起こした……。

 

 そこで、シルバは自分の手前で巨大な爆発が起こったことで意識を取り戻した。

何かが、魔法を遮った。


「レクサノス……姉さ……ん?」


 自分の前に立っているのは第一王女レクサノス・フルルーレ・デ・ブロッケム。

 全身焼けただれ、肉の焦げるにおいがする。彼女の血が地面にしたたり落ちる前に蒸発していく。おそらく、骨もあちらこちら折れているのだろ。肩から手はだらりと垂れている。腕の一部からは骨も見えている。だが、彼女はまだ意識があった。


「まった……く。……そんな剣一本でいつまでウジウジ……してるんです……の。……そんな……安物……私が…いくらでも……買ってあげ…………。」


 そこで膝を付き倒れる。すぐにシルバはレクサを抱え上げる。意識が無い、呼吸をしていない。生きているのか死んでいるのかもわからない。早く治療をしなければならない。ゼディスがいなければレクサは間違いなく死んでしまう。レクサの顔は部分的に骨まで露出している。普通に考えれば生きているはずがない。

 さっきまで、ベグイアスに恐れをなして全く動けなかったのに……彼女は恐怖よりも妹を助けたいと思う気持ちが上回ったのだろう。


「ゼディスっぅ!! お願いっぃい!! 助けてっぇえ!!」


シルバは悲鳴をあげていた。


「あら~。生まれ変わりちゃん、死ななかったじゃないっぃい? なんか変なのに引っかかったみたいっぃい?」


 エデットが怒りに任せて、オーラを乗せ殴り掛かっているが、ベグイアスはもう一発も当たらないようヒラリヒラリと躱し、ときたま魔法の盾でタイミングをずらして反撃しエデットを追い込んでいく。フィンもドラゴンブレスがほぼ無効化されるので接近戦を仕掛けている。もちろんフィンもオーラを使えるがそれ以上にベグイアスは体術も魔法も長けていた。まったく当たる気配が見えない。

 しかもさらに喚いているシルバに巨大な火の球の魔法を作り始めている。それなのにエデット、フィンの二人がかりでも詠唱を阻止することが出来ないのだ。その間にもドンドン魔法が完成していってしまう。


「いや~。落ちた、落ちた。危なかったよ。まさかマンティコアが最後の……どーなってんの?」


 ゼディスが崖を何とかよじ登ってきて、現状を理解できない。

 そこにベグイアスの魔法が完成する。巨大な火の球の魔法がシルバに襲い掛かるのが見えるが、シルバは何かを抱えて泣いているだけだ。この距離ではゼディスも、エデットもフィンも間に合わない。

 ゼディスが叫ぶ。


「シルバ! まずはそれをどうにかしろ! そのあとは俺がどうにかする!」


 自分でも無茶を言ってるな、と思いながら叫んだ。あんなに巨大な魔法をどうにかできるとは思えない。がその言葉を聞くとシルバは、黒く焦げている『何か』をそっと置き、目の前の巨大な火の球を見つめ折れた剣を構えた。

 ゼディスはまさか、アルスの剣が折れているとは思わなかった。そんな剣であの魔力量の火の球をどうにかできるとはとても思えない……が、どうにかするしかないのである。

 シルバは折れた剣に強化の魔法を唱え、さらに切れ味と距離の魔力を乗せる。


「あら~ん。あらあらあら~ん。足りない、足りないわよっぉぉお。私の火の球(ファイアーボール)を切るにはそんなチンケな魔力じゃぁ全然ダメぇ!!」


 蜘蛛の足でエデットとフィンに雷撃を飛ばしつつ、チッチッチと人差し指を振って注意する。シルバに火の球が襲い掛かる。

……。

だが、火の球はベグイアスの予想とは反し、真っ二つに切られた。


「!?」


 その場にいた全員が驚いた。魔力量からいえば圧倒的にベグイアスの火の球の方が上のハズだった。だがシルバはそれを打ち破ったのだ。

 すかさずゼディスが駆け寄っていく。シルバが何を必死になっていたのか理解できた。焦げた『それ』がレクサだとわかるのには時間はかからなかった。


「お願い! 姉さんを……。レクサノス姉さんを助けてください!」


 シルバはわかっていた。もう死んでいるのだと……。だが、それを認められない。ゼディスが首を横に振る。シルバは叫ぶ! 認めない、認めるわけにはいかない。


「お願い!! 何でもします!! だから、だから!!」

「なら、俺の奴隷にでもなるか?」


 意外な答えだった。蘇らせることが出来るのか、という疑問があったが、今は藁にもすがる思いだ。


「なる! 奴隷にでもなんにでもなります! だから!」

「なら、まずは2つの命令だ! 1つめは俺がレクサを回復させるまで誰にも邪魔させるな! もう1つはお前が死ぬな! わかったらさっさとあの蜘蛛女を足止めしろ!」

「はい!!」


 シルバはエデット、フィンに続き折れた剣でベグイアスに戦いを挑む。


 ゼディスが回復できるなら初めからやれ、という話だが、出来ればやりたくなかったのだ。レクサはほぼ(・・)死んでいる。この状態を復活させるにはそれなりの代償が必要だ。できれば魔力だけで何とかしたいのだが、そんなうまい話はない。完全に死んでいたら、復活も不可能なので急がざるを得ない。

 レクサの胸のあたりに手をかざし呪文を唱え始める。レクサの体を淡い光がつつみだした。


「なに? なになになに? なにしてるのかしらっぁ。まぜて、まぜて、まぜてっぇん。私とも遊んでちょうだっぁあいいい!!」


 アラクネのベグイアスは身体を深く沈めこむと、3人を飛び越えレクサを回復しているゼディスへと向かおうとする。だが、エデットが空中で蹴飛ばし地面に叩きつける。すかさず他の2人が追撃を開始しようとする。


「面倒! 面倒面倒面倒っぅうぅ! 邪魔しないでっぇ、遊んでもらうんだからっぁ」


 彼女が呪文を唱えると30個の楕円形の白く人間大の物体が現れバキバキと音を立てて割れていく。卵のようだと思ったが、どうやらそのまんま卵だ。中からリザードマンが出てくる。トカゲ人間……ワーではないため人間体もなければ、属性も魔族に属する。


「さてさて、神官ちゃんんんん。私と遊びましょっぉおぉ!!」


 シルバはすぐにベグイアスの前に立ちはだかる。すでに2、3匹リザードマンを真っ二つにしている。


「エデット! フィンそっちは任せます!」


「無茶はするな!」

「こっちを片付けたら、すぐにそっちに行く!」


 リザードマンをエデット、フィンは倒していくが数が多い。むしろシルバがどうやってベグイアスの前に立ちはだかれたのかわからないほどだ。


「うううんんん? 戦える? 戦えるのぉっぉ? そんな剣で? 魔力で? 体力でっぇえぇん?」


 ベグイアスから見れば、シルバが満身創痍、立っているのもやっとに見えた。しかし、それはシルバの能力を低く見ていたからだ。素早いフットワークで瞬時に右へ左へと移動し間合いを詰める。目ではおえないほどのスピードだ。が、剣を振り下ろした瞬間、魔力の盾に防がれる。


「速っぃぃい! でもっぉその剣はもうおしまいっぃいぃ!」


 剣から魔力が失われていく。ベグイアスの対勇者用能力は魔力殺し(マナキラー)。どんな魔力攻撃も無力化し吸収してしまう。もちろん勇者の魔力すら例外ではない。そしてその魔力で魔族を生み出す、半永久機関ともいえる魔物製造魔将なのだ。そしてアルスの剣の魔力も吸収されていく。

 はずだった……いや、魔力は吸収したのに魔力の盾が破壊され、剣がベグイアスの体をかすめ、血が噴き出す!


「なにっぃいぃ!? なんでっぇ!? なんでなんでなんんでっぇえ!?」


 慌てて後ろへと飛び退き、両手に黒い魔力をためる。レクサを焼き殺した黒い閃光呪文だ。


「きゃはははっはあはっは! 回避したら、神官ちゃんんがっぁ死んじゃうかもよっぉお!」


 直線状にゼディスが並んでいた。エデットとシルバを狙ったときと同じ方法だ。物凄い怒号とともに魔力が解き放たれる。シルバはもとより避ける気などなかった。魔力を吸収されたアルスの剣に再び魔力を送り込むと、黒い閃光に剣を振り下ろす。空気の振動が大地を揺らしながら、黒い閃光の呪文は真っ二つに裂けてき、誰ひとり傷つけることが出来ず、山の中腹に巨大な洞窟を二つ作っただけに終わった。


「ウッソ~ん♪ ちょっと、ちょっと、ちょっと、ちょっとっぉぉ! さっきまであんなに死にそうな顔してたのにっぃい! まぁいいわ、いいわいいわっぁあ。今回は帰ってあげるぅうんん。」


 先程の呪文で崩れてくる岩の上を身軽に、ピョンピョンと上へ上へと登っていく。追うか迷ったが、この場を死守する方が遥かに大事だと思いだし、リザードマンを片付ける方を優先した。ゼディスが安全にレクサを治せるように……。

 魔力を吸収されても攻撃できたのはオーラを覚醒したからだった。そしてレクサもオーラを多少覚醒させていた。だから消し炭にならず、呪文が貫通してシルバに届くことがなかった。エデットが見せたのは正解だったのだといえる。


 あとはゼディスがレクサを呪文で助けられるかどうかにかかっていた……。

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