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新・7魔将

ゼディスはまだ知らなかった。新しい7魔将のことを……。




ダークエルフのルリアスがゴブリンの洞窟から出たばかりのときの話になる……。


彼女は洞窟から出て、すぐに転移魔法陣に乗り魔族が滅ぼしたエールーン王国へと帰っていた。

城のところどころは壊れていたが、人間やドワーフ、獣人を使い、補修させている。

白く品格のある王城だ。門番はミノタウロス2匹を使っている。正面門から入っていく。

ミノタウロスたちは当然、ダークエルフを止めない。前回、勘違いした門番がいてルリアスを止めてしまい、炎の矢でコナゴナに弾き飛ばされたのを見ているからだ。


城の中には魔族が人間たちに修復を急がせている。休もうものなら槍で突き刺し殺してしまう。見張りで立てているのは獣人に近いコボルト……ハイエナと狼を足して2で割ったような獣人ぽい魔族だ。言葉も巧みに操れる。ただ人間にはなれず、そんな獣もいないのでワーの特徴はない。狡猾で強い者にはひれ伏し、弱い者には手を上げる。

ゴブリン、オークと並ぶ魔族で最も多い種族の一つだ。オークはコボルトの豚、イノシシ版と考えれば大体間違いはない。


「むやみに人を殺すな、人手が少なくなる」


ルリアスが今、一人殺したばかりのコボルトに注意する。


「へぇ!すいやせん」


全く悪びれていない。ルリアスが去ればまた一人殺されるだろうが、そこまで面倒を見ていられない。さっさと先へと進んでいく。とりあえずは、他の7魔将に自分の失態を話さねばならない。幸運なことは、7魔将同士、中が悪くないことだ。

すぐに、近くにいたコボルトに7魔将を会議室に呼ぶよう命令する。命令されたコボルトは何人かで手分けして大急ぎですっ飛んでいく。少しでも遅れると自分の首が危ない。


ルリアスが会議室に着いた時にはすでに、五人が揃っていた。


「ベグイアスはいないのか?」

「あぁ、彼女? 彼女はテビンバー王国と戦争中よ。ゴブリン数万、連れて行ってこの前、負けて帰ってきたから、今度はゴブリンとオークとコボルトをそれぞれ二万ずつ持っていくって……」


ベグイアスは上半身が女性で下半身が蜘蛛の魔族だ。身長は普通の女性よりちょっと高い程度で好戦的で鎧を常に纏っている。鎧フェチという噂もあるほどに、戦闘に出るたびに新しい鎧のお披露目をしている。

ちなみにベグイアスの行動を語った女性はワードラゴン……ドラゴニュートの女性。

ブラックという名前のレッドドラゴン種。

レッドドラゴンなのにブラックだということに、特に誰もツッコまない。


ベグイアスが戦争を起こしているが、本気でないことはルリアスから見れば明らかだった。

魔族の編成が、下級魔族しかいないからだ。おそらく、弱い軍勢で、永続的に攻め続け精神を疲弊させていくのを楽しんでいるのだろう。長い戦争は心を腐らせていく。そのうちテビンバー王国国内で内乱も起きかねなくなるだろう。勝利に喜んでいられるのは今の内だけだ。

彼女の能力は魔族を大量に『生む』ことなのだから、兵が尽きることはない。とくに下級であればあるほど大量に生め、上級になるほど数体しか生めなくなる。

ゴブリン程度なら一日に万単位で生めるだろう。ただ、それだと時間と体力を使い過ぎるので、適度に間隔を開けて戦争を楽しんでいると思われる。


「彼女にはテビンバー王国で楽しませてあげてください。それよりもルリアス、あなたの到着が一番最後ですよ?」


単眼の美女……サイクロプスと呼ばれる単眼の巨人の一族……だが、身長はとても低い。160cm強といったところ。黒髪のおかっぱで、飾りの多いローブを着ていて、指輪とサークレットの装飾品を身に着けている。サイクロプスは基本、粗暴で頭が悪く暴れ者で手が付けられない。が、彼女のイメージは真逆で聡明にして沈着冷静、7魔所の中ではブレイン的役割を果たしている。

今現在も空中に黒い光を放っている魔導書を5冊ほど広げて、指でポンポンと叩きながら何かをしている。おそらく、過去の記録と現在状況と未来想定の3冊と、戦況状況と現行の魔法体系についてとかそんなことの魔術書だろう。当然、魔導書なのでタダの記録だと思っていると痛い目を見る。


「スアック、さっさと、報告しましょうよ~。あたし、遊びに出かけたいんだから~」

「そうね。あまり7魔将としては芳しくない状況ですしね」

「芳しくない? まさか7魔将が圧されているのか?」


ルリアスは耳を疑った。

スアックはサイクロプスの彼女だ。そしてそれに語りかけたのはテーブルの上に置かれている少女の生首だ。その生首がルリアスに答える。


「違う、違う。むしろ面白くなってるって感じじゃん?」


彼女の胴体は机の上に手を伸ばし、ダラけきっている。彼女はデュラハンである。

デュラハンは自分の生首を持っている騎士の亡霊といった感じのモノだ。大抵が強さを極めんとし、陰謀により命を落とした者がなる可能性が高い。彼女の場合どうだったかわからないが……。


「面白く? どういう意味だ、グファート?」

「そのまんまの意味よ~。とりあえず、テトの話聞いてみな~」


頭のない体で一番奥に座っている女性を指さす。そこにはテトといわれる女性が机の上に足を乗せ、帽子で目隠しをし、スーツ姿で寝ているような格好をしている。耳の上に二本の角があり、背中には黒い大鷲のような翼をもっている。上級悪魔(グレーターデーモン)が彼女の元の生まれだ。魔界貴族と言ったところだろうか……。

帽子を持ち上げ、テトはルリアスを見ると語り始めた。


「私からの報告だ。私は東の人間の国を滅ぼしてきた。名前は忘れた……どっちにしろ滅んだからどうでもいいだろう? 知りたければスアックに聞いてくれ。」


おそらく、彼女一人で滅ぼしたのだろう。部下とか仲間とかを面倒くさがるが、自分の仕事だけはきっちりとこなすのが彼女のやり方だ。ルリアスと似ているが、ルリアスは人間たちを巧みに使い細工を施していくが、テトは正面から行くという違いがある。


「『芳しくない』または『面白』理由は何だ?」


テトが人間の国を滅ぼすこと自体は何でもない。2、3日で落したのだろうと思った。


「まずは、1週間かかったことだ」

「なんだと!?」

「ね~、面白いでしょ~。テトが人間ごときに1週間もかかってんだよ?」

「それは本気を出してか?」

「さすがに本気ではないがな……のんびりやっていたさ。それでも2、3日で終わると思っていたんだが人間を少し舐めていたようだ。」

「彼らはただぼーっと7魔将や魔王を待っていたわけではなかったのですよ。」


サイクロプスのスアックが言う。そしてテトに何があったか報告を進めるように促す。


「彼らは私を傷つけることが出来た。」

「!?」


それはルリアスからすれば信じられない出来事だった。

千年前ではありえないことだった。7魔将は勇者と呼ばれる存在以外は傷つけられない。それが常識だったからだ。


「勇者の力を受け継いだ奴がいたからとかではないんだな?」

「いたとすれば、大変な数だ。百人はいたからな。もっとも一人残らず潰した。」


スアックがサンプルを回収しているとのことだ。

それによると、利き腕だけが武器に変化する魔法のような力で7魔将を傷つけたとのこと。


「彼らは新しい力を『ブラッケン』と呼んでいた。人間全員が使えるわけではないらしい。

訓練したか、才能かはわからないが、新しい発見をしたことにはかわりはない。」


7魔将最後の一人、ゴーレムの少女が口を開く。


「超~面白そうだろ! ワクワクしてくるよな! 俺ん所も凄かった。

人間の『成長』は楽しいぜ!」


全身が白銀で出来ている。さらに魔法でコーティングもされている彼女。赤髪でクセっ毛で髪がピンピン跳ねているが、気にしている様子はない。もっともその髪の毛も特殊な金属で出来ているのだが……。


「ゼロフォーもちゃんと報告なさい」


スアックがゴーレムの少女ゼロフォーに説明するように注意すると、嬉しそうにニヤリと笑い自分に起こったことを話しはじめる。

彼女はドワーフの王国に様子見で攻め込んだらしい。だが、壊滅に失敗した。指揮はゼロフォーがとっていたが、攻め込んだのはガーゴイルとマンティコアを中心として、あとは下位のゴブリンなどを編成した部隊。もちろんゼロフォー自体もこの構成でドワーフ王国を滅ぼせるなど思ってはいなかったらしく、あくまでも偵察がてらの攻撃だったらしい。

しかし、思った以上の被害が出たのでゼロフォー自体が動いたら傷つけられたとのことだ。


「そいつらは、ぶっとばしたがな! 凄いぜ! 今回の人間たちは!」


心底ワクワクしているようだった。

彼女の話によると、テトのときとは違い、利き腕が武器になることはなかったが、武器がすごかったらしい。新しい金属と魔法を組み込まれた『ガイナ式ブリット』とかいうアタッチメントを取り付けるタイプの武器らしい。一時的に重さと速度、魔力が飛躍的にアップするとか……。

話を聞いているとルリアスの闘争心が湧いてくる。

デュラハンのグファートがその様子を見てにやりと笑う。7魔将が好戦的なのは当たり前。敵が強ければ強いほど楽しめるしゾクゾクする。


ルリアスも自分のところで起きたことを報告する。


「私の所は、7人の勇者の力を受け継ぐと思われる奴らに遭遇した。」

「!?」「!?」


7魔将の最大の敵である。それに遭遇したことは喜びと怒りが入り交じった感情になる。


「だが、今のアイツラ自体は問題はない。」

「なんだ? まだ弱いのか?」


ゼロフォーが椅子に寄りかかり、弱い奴に興味なしと、ギィギィとゆりかごよろしく椅子をゆする。


「アイツラはな……」

「含みを持たせるいい方ね? 勇者以外に面白い人間がいたの?」


そんなにポンポン新情報があるのかと、ドラゴニュートのブラックが訝しげに尋ねる。


「そのパーティーの中におかしな魔力の男を見つけた。

私のプロテクションを貫通する呪いか精神攻撃をうけた。それに私の炎の矢(ファイアーアロー)が肩にかすめたけど、肩しか(・・)壊せなかった」


7魔将たちはビックリして、椅子に座っていた者も立ち上がる。


「何だと!?」

「お前の炎の矢で……肩だけで済んだというのか? 人間が?」

「たしか、あれって、この城の城壁を一発で粉々に砕いたんじゃなかったっけ?」

「人間なら……いいえ、並みの魔族でもかすめただけでほぼ即死なのに……。」


そう、ゼディスが肩を吹き飛ばされたが、むしろ7魔将にとってはその程度で済むはずがないと考えるほど、凄まじい攻撃力を持った一撃だったのだ。


「それと、魔力の色が普通じゃなく、量も私たちに匹敵する」


それを聞くとサイクロプスのスアックが何か思い当たるのか頷く。


「そいつは勇者か魔将のどちらか……じゃないかしら? それならば魔力量も防御力も納得がいくわ」


新しい魔導書を空中に発生させ、パラパラと指で勢いよくめくっていく。

確かにそれならば……と、他の7魔将も頷く。が、そうするとそいつが何者なのかが気になる。

それに、ルリアスが受けた攻撃も気になる。

どうやら、スアックはすでにルリアスの体を調べていたらしい。


「異常は……見られないわ? 魔力量も若干、増えているだけ。魔力の色も変化なし。精神に混乱も疲労も幻覚も見当たらない。毒物も検出されない。どんな攻撃だったかわかる?」

「おそらくは魅了系の攻撃だったと思われる。ただ、魔力を矢の形に変え、私の心臓を撃ち抜いた。外傷はなかった……」


出来るだけ、詳細に思い出そうとするが、それ以上は無かったような気がする。


「問題はみられないわ。とりあえず保留ね。ただ、行動を他の7魔将とした方がいいかもしれないわ。」

「そこまでじゃないと思う。今は何とも感じられない」


多少ウソが入っている。あの男のことを思うと、身体が火照ってくる。だが、それだけで人間と闘いたいし、戦争もしたい、人間たちの新しい能力や武器なども確認したいという好奇心が勝っている。


「ま~いいんじゃない。やることいっぱいいあるし~。魔王様が出てくるまでに人間を色々、試して楽しみましょうよ~。」

「まったくだ! 俺たちを傷つけられるんだぜ? これを楽しまない手はないだろ。」


7魔将の中でもデュラハンのグファートとゴーレムのゼロフォーは戦闘狂だ。

ドラゴニュートのブラック、サイクロプスのスアック、グレーターデーモンのテトは慎重派といえよう。

ダークエルフのルリアスはその中間、アラクネのネベグイアスは策略家と言ったところだろうか。


彼女たちは元々、その魔族の種族のものたちと大差ない力しかなかったが、魔族同士の殺し合いや、魔族を魂を食らったり、多くの魂を捧げたりすることで、突然変異的な巨大な力を得ていた。

得ていたが……全て女性だった。




ゼディスはまだ知らなかった。新しい7魔将のことを……。

もし知っていたら、7人の勇者の力を引き継ぐ者を探さずとも済んだかもしれない……。

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