表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/100

マンティコア

やっと 道具を買い終える……これから冒険者ギルドかと思うと気が重い。


レクサなんかは、よっぽど上手く買い物ができたと思っているのか、何度もシルバに見せては説明している。シルバも同じものを買っているのだが……微妙にデザインと色が違うらしい。


冒険者ギルドに着く前に体力が無くなりそうだ。


「大丈夫か? ゼディス。冒険前から疲れてるみたいだぞ?」

「意外と体力ないなぁ、お前は」


ギルドへの道すがら、エデットとフィンが絡んでくる。

パーティーのリーダーは大体、胃を悪くするらしい。でも、意味合いは人間関係じゃないかと思うのだが……。

それに、エデットとフィンは結局、武器はいらないということだった。

と、いうかエデットは鎧の籠手を武器として使う、鉄甲術という格闘技と籠手を使った全く新しい武術……いや、結構古い。なにせ、それを教えたのがフィンらしい。フィンは鉄甲もいらない。自分の竜の鱗を使った武術で殴るらしい。あと火が吐けるとか……ワードラゴンの生態はあまり知られていないので本当なのか冗談なのか判別付かないことを言うのはやめてもらいたい。

レクサは杖を使用するとのこと、どうやら魔法使いらしい。宮廷魔術師の何人かとは仲がいいとか。「魔術師長は?」と尋ねると「そこそこですわ」との回答。それほど親しくもないようだ。


パーディー構成で考えれば、前衛、エデット、シルバ、フィンの戦士系

後列はゼディス、レクサの魔術師系で配列が考えられる。

もっとも、洞窟内では後ろから攻撃も考えられるから、少しいじらなければならないかもしれないが……。


王都だけあって冒険者ギルドもいくつもある。だが、王宮御用達のギルドがあるのでそこに行かなければならない。エデットが道案内をしている。さすがにその道は知っている……というかゼディスの評価が低いだけで彼自身は意外と内政にも取引を行っているのだ。

御用達ギルドもいくつかあるが、今回適任と思われるのは『鉄の守護者』という冒険者ギルド。

王都内では2番目に大きいギルドだ。なぜ一番大きい所じゃないのかと聞いたら、Bランクに上がるのが目的でデカい仕事をやるのが目的じゃないからだと言われたが、どうやら宮廷魔術師関係が絡んでくるらしい。


冒険者ギルドに到着して中に入ると、数人の冒険者がいるだけだった。さすがにギルド内まで野次馬が入ってくることはない。

エデット以外は、始めてくるギルドなので中をきょろきょろと見渡す。

中は丸テーブルが5台、広めの幅でとられている、掲示板がありそこには仕事が貼られている。受付は一人だけだが、受付場所は4つある。忙しいときに開くのであろう。

現在受付はバッファローの獣人の男……勘違いされやすいが、ミノタウルスではない。牛の魔物ではなく獣人。具体的にはワーバッファローは人間になれるし、足も蹄ではない。ただ見分けづらいのは確かだ。

ミノタウルスの方が大体の場合は大きいし、凶暴である。大抵はそれで区別するが、小柄で好戦的じゃないミノタウルスがいたらわからないだろうなー、とか考える。


「これは、これはエデット将軍じゃありませんか! いったい何用で?」

「ギルドマスターは?」

「総ギルドマスターですか?」

「いや、『鉄の守護者』のだ」


『総ギルドマスター』はその都市の全ての冒険者ギルドを仕切る者の総称である。

大抵は一つの都市に一人だが、大きい所では複数人いる場合がある。

が、一介の冒険者が会うことはまずない。

それに今回は、王宮からすでに総ギルドマスターに連絡がいっていて、Bランク進級のためのクエストが用意されているハズだ。ココのギルドマスターにその仕事をもらえばいいだけの手はずになっているのだろう。

ワーバッファローは奥へとギルドマスターを呼びに行く。金目のものは置いていないのだろう、躊躇ない。その間も、今いる冒険者たちはこの王宮ご一行様パーティーに声をかけようか悩んでいるようだった。

そりゃー有名な人物がいるパーティーが何の用だという話よ!

その視線に気が付いたシルバが話しかける。


「何かご用でしょうか?」

「えっ……いや……その、本物のシルバーニ王女様ですか?」

「『本物』の? 私の偽物がいるのですか?」

「あ、いえ、そういうわけではなく……」


まさか、シルバーニ王女に会えると思わずしどろもどろになっている冒険者A。

同じパーティーの冒険者Bがシルバーニ王女を自分のパーティーへと誘い出した。


「どうでしょう、王女様。私たちのパーティーに加わってみては?

もちろん、レクサノス王女様もご一緒に……。」


明らかにナンパであろう。


「お前らいい度胸だな。俺の前で……」

「いやっ! 将軍そういうわけでは!」「お、おれは違います!」


だいぶ恐れられているようだ。さすがに色気よりも恐怖の方が勝ったのだろう、そこからは一言もしゃべらなくなる。ちょうど良く中からギルドマスターが出てきて冒険者たちは、気付かれないようにそっとギルドの外に出ていく。


「お待たせしました。エデット将軍。

こちらが今回受けて頂く仕事となります。これが終われば、そこの神官をBランクと認める証明書を発行いたしましょう。」

「すまないな、面倒をかける。」


そう言って、仕事の内容を確認する。

近くの山にマンティコアが出現するので退治して欲しいとのことだ。

マンティコアは大喰いで、人間を好んで食べる。あまり仲良くできる感じではない。

しかも、かなり強力な魔物に分類される。冒険者ギルドでもBランクに分類されているが、場合によっては国が介入しAランクになる可能性もある。


「マンティコアか……全員知識は?」


念のためある程度知っているか確認を取る。「確か魔法を使う」だの「毒がある」など、この場にいる人間はとりあえず最低限の知識はあるようだ。そして、この依頼を受けることにする。

普通の兵なら10人がかりだろうが、エデットは一人でも倒せないことはないか……と思っていたので、姫様たちを守る余裕もあるだろうと考えていた。


そのまま、マンティコア退治に出発する。休息も取っているし、道具も揃っている。急ぐに越したことはない。倒した証拠にマンティコアの部位を持っていくことになっている。大抵は爪や牙になる。ギルドマスターが詳しいのでその辺の狼の牙とか持って行っても誤魔化せない。

それをやって追放される冒険者も毎年そこそこいる。


マンティコアが住むという山までは遠くない……遠くないと言っても、往復で一週間ほど。

馬車という手もあるが、管理者が必要だし、確実に戻ってくる時間もわからないのに馬車に乗っていくわけにはいかないので、どうしても徒歩になってしまう。

ゴブリンの洞窟での待ち合わせまでそんなに時間が無い。早めに言ってシルバを仲間にして戻りたい。

他にも行かなければならない所がる。7人の勇者の力を受け継ぐ者が足りていないのだから……。






出発しておよそ3日で目的地の山まで来る。

それまでも、かなり大変だった。おもにレクサが……。まぁー喚く喚く! ビックリするくらい文句も出る。罵詈雑言も浴びせられる。自分で付いてきた癖に、酷い言われようだった。

山に入ってからは、比較的おとなしくなっている。マンティコアがいるかもしれないと思うとビクビクしているようだ。どれに比べてエデット、シルバ、フィンの堂に入ったこと。全く動じることがない上に、少しの気配も見逃さない、と言った感じだ。おかげでゼディスは警戒しないでみんなの後を付いていくだけ。


「ちょっと、アンタも警戒しなさいよ! みんな注意してるでしょ!」

「こんだけ注意してるなら、俺が注意してなくても大丈夫だろ?」

「念には念を……よ! あんたは死んでもいいけど私に怪我でもあったらどうするつもり!」


理不尽に聞こえるのはゼディスだけだろうか?

そんな2人のやり取りを先頭を進む3人は相手にしていない。


「気になりますね」

「あぁ、何の気配もしやしねぇ」

「かなり、喰われているな」


物騒なことを言っている3人にレクサが震えあがる。たぶん彼女が一番まともな感覚だろう。ちょっと石が転げ落ちただけで大きく身体を震わせている。

何もない岩肌の山道が続く、木も枯れ、草もほとんど生えていない。元からこういう山道なのか、マンティコアが住むようになってから、こうなったのかはわからない。

山の中腹あたりの広い場所に出ると、レクサが限界とばかりに叫んだ。


「とりあえず、休憩っぃい!! ダメ! こんなに緊張しっぱなしじゃみんなが持たないわ! 私は大丈夫だとしても!」

「いや、お前が一番ダメだろ!」


みんなが思っていることを、ゼディスが代表して言う。

レクサが「なんだとぉ!」と、言おうとした時……。


「おいでなすった……。」


黒い影が一瞬、空を横切ったと思ったら、すでにゼディス達の目の前にゆっくりとコウモリの羽をはばたかせ、ゆっくりと着地する。醜い老人の顔にタテガミがなびいている……目的のマンティコアだ。

老人の顔なのに長い牙が生えているし、爪が黒く光っている。


「ギャワワワワワッァアァ」


威嚇か雄叫びかと思ったが違かった。マンティコアの周りに無数の魔法の矢が形成されていく。


「マジックミサイルよ! それからは逃げられない! 防御して!」


レクサが叫ぶ。

マジックミサイルは回避不可。魔力量に応じて魔法の矢の本数が増える。

回避はできないので、致命傷にならない所に当たるしかない。

魔法の防御か回避なら可能だが、今からでは当然間に合わない!ただし、全員にマジックミサイルが飛ぶわけではない。1人だけに形成された魔法の矢、全てが飛んでいく。

食らったのはエデット。魔法の矢が光の軌跡で弧を描きながら、何本も突き刺さていく。

両手でガードしているが血飛沫が飛び散る。が、ガードしながらニヤリと笑い駆けだす。

魔法を放ったことで隙のできたマンティコアの顔面に正面から正拳突きを食らわせる。

マンティコアの想像より早かったのだろう、まったく回避行動が取れなかった。


慌てたマンティコアは空へと逃げようとコウモリの羽を広げたとき、ドスンと右翼が切り落とされもがき苦しむ。

シルバが遠距離からアルスの剣を魔力で伸ばし、空に逃げられないようにしている。


「グゲゲゲゲッェエエ!!」


耳をつんざくような、声を上げ怒りに任せエデットに爪を振り下ろすが、鉄甲で受け止めると空いた腹に拳をめり込ませる。フィンはエデットの後から背中を蹴り登り踵落しで、マンティコアの額を割る。

悶絶打って転げまわるマンティコアにレクサがマジックミサイルをお返しする。もっとも本数はマンティコア以下だが……。ズブズブと魔法の矢が刺さり、叫び声をあげる。

羽を失っているマンティコアが崖を駆け下りようとしたが、それより早くシルバが間合いを詰めていた。

剣に魔力を乗せている。長さではなく切れ味に特化させているようで白く輝く刃が、布でも切るようにスーとマンティコアに入って行く。通り過ぎた後……ドスーンとマンティコアの体が別れ血が噴き出す。


ゼディスは何にもしなくて楽だったと思っていた。あとは、白い目で見られないようにしつつBランクアップだ!

倒れたマンティコアを改めて見るレクサは恐る恐る近づく。


「も、もう動きませんわよね? 触っても大丈夫かしら? それにしても気持ちの悪い生き物ですこと。

たしか、冒険者ギルドに体の部位の一部を収めるんでしたわよね? 私がやりますわ」


遠くから杖で突いて、死んでいるのを確認してから近づいていく。レクサが進んでやっってくれるタイプだとは思っていなかったので意外だった。

エデットはその場にしゃがみ込む。面倒だと思いながらも仕方ないのでゼディスが回復魔法を唱える。


「楽な仕事だったな」

「このメンバーなら……って限定だな。他のパーティーじゃもっと苦戦してるだろう。尻尾を使われる前に倒せたのがよかった。」

「私もそう思います。一対一でしたら、翼を切り落とせず空へ逃げられていたかもしれません。」


シルバが翼のある魔物に対する場合、このような広い場所では不利だと主張する。たしかに、空から魔法を使われれば戦士系では太刀打ちできない。だから、冒険者はダンジョンの魔物を退治しに行く傾向になりがちなわけでもある。今回のマンティコアでも、本来なら巣穴のダンジョンを探して闘うのがセオリーだろう。山の中腹で闘うことになったのは想定外だ。


「なら、それを学習し、地上に降りず空から攻撃してくるマンティコアがいたらどうする?」


腕を組んだまま空を見上げているフィンが尋ねる。

フィンの見ている先には黒い影が……。部位の回収をしていたレクサが震えあがる。


「まさか、マンティコア!? それも10体以上も!!」

「1体じゃなかったのか?」


山に動植物が極端に少なかったのはこの数がいたからだろう。

地上に降りたつこともなく、こちらを狙うように空を旋回している。

これはどうやって闘えばいいのか……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ