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彼女の名はレクサノス・フルルーレ・デ・ブロッケム

ゼディスは両膝を付き、四つん這いになり心が折れそうになっていた。


結局、王宮ご一行パーティーとなったわけだが、彼らは冒険者という職業をしたことない人間だったため基本から教えなければならない。

エデット、シルバーニ、フィン、第一王女……名前はレクサ。

冒険者なので全員が全員、呼び捨てにするようにする。そうしないと、いちいち連絡が面倒である。

これに反対したのはレクサのみだったので、不承不承で納得する。


次にレクサの荷物量


「多すぎだ。」

「なんでですの!? どれもこれもいざって言う時には必要ですわ!」


傘やテント、小説や洋服に下着その他もろもろ、料理道具もある…引っ越しか?


「誰が持っていくんだ?」

「それは力の強い男性陣にお任せいたしますわ!」

「俺は運ばんぞ……レクサ殿」


呼び捨てのハズなんだが……と思うが、すぐには無理だろうと判断。


「俺もパスだ。運ぶならお前が運べ」

「女性に荷物を持たせるなんて、それでも冒険者ですの?!」

「いや、冒険者は自分の荷物は自分で運ぶ」

「む~ぅ」


頬を膨らませ、怒っているがどうにもならないと判断したのだろう、仕方ないと荷物を執事に片付けさせた。


「レクサはまだいい…」

「他に誰か問題が?」


シルバが小首をかしげる。


「いやいや、お前含め、レクサ以外の全員だ」

「俺のどこが問題だ」

「まったくだ、レクサのように荷物も持っていないぞ」

「荷物を持っていないのが問題だ!」


シルバ、エデット、フィン……こいつら、手ぶらだ。どこに散歩に行くつもりだ。

シルバはアルスの剣を腰に付けているだけ、エデットとフィンは武器すら持っていない。


「なーに、オーガが出ても素手で倒してやるさ!」

「そう言う問題じゃなーい! まずは、最低でも水袋は必要だろ。水なしで冒険するつもりか? それにバックパック、小袋、ランタン、火口、保存食、ナイフにロープ」

「男なのに、いちいち細かいなぁ」

「細かくない! レクサほどじゃなくとも必要なモノは多いんだ!」


冒険者ギルドに行く前に、城の中で準備が出来たら会う約束をしておいて正解だった。

会議が終わった翌日に、朝食後、ゼディスの仮の病室に集まることにしていた。

レクサが多すぎたときに『王女様じゃ世間知らずか』と思ったが、将軍や男爵も冒険とは程遠いようだ。

この調子だと金銭感覚もおかしいだろう。

とりあえず、国から予算が出るがゼディスが財布を握ることにする。


「これから冒険者用具を買いに行くことにする。お前たちにはこれだけの予算を渡しておく。これでやりくりして最低限の冒険用具を整えるように……」


一からだ……一から教えなければならんのか。と、すでにお疲れモードである。

そんなわけで、まずは道具屋へ、レッツゴー。

なんとなく町の人の注目を集める……なんとなくじゃないね~、当然だね~、お姫様や将軍が知られてないわけがないわ~。あと、ワードラゴンは希少種だし、ゼディスだけが浮いていわけだ。

町人が駆け寄ってきて、大騒ぎになる。普段なら遠征やパレードでしか見られない人たちだ。握手の一つもしたくなるってもんだ、ゼディス以外は……納得いかんが納得いく。


町の人に声をかけ、道具屋の場所を聞く。人だかりで聞くと色んな情報が入ってくる。

どこが質が良いだの悪いだの、安いのならどこだだの。

ただ、ほとんどは冒険者ではないのでどこまで当てになるかわからない。


総合評価で道具屋『鷹の目』に行くことになった。

野次馬がそこそこついてくる。結局、ゼディスのパーティーがなんなのか気になっているのだろう。

中に入ると冒険者用の道具がそろっている。悪い店ではなさそうだ。

店員のおっさんが異様な光景に何事かと出てくる。


「あ、あのー、何かご用でしょうか?」


おっかなびっくりエデット将軍に尋ねる。ゼディスに尋ねるわけもない。


「ここは道具屋だろ。当然、道具を買いに来た。」

「どんな道具がよろしいのかしら? 冒険者用の道具を取り揃えてちょうだい。」


レクサはすでに命令している。


「待て待て、お前ら何で高圧的なんだ! とりあえず自分で選べ! その後、俺が判断する。

店員に頼むな、自分の命を預ける道具は自分で選べ」

「なるほど、至極当然の意見です」

「まずは、バックパックから選ぶか……」


シルバとフィンはすぐに納得するが、レクサは自分で選ぶという行為に戸惑っている。

エデットは選ぶのが早い。そして想像通り大雑把だ。

みんなも、選ぶが基準がわからないため、どう選んだらいいかわからない。

店員が口出しするべきか悩んでいるが、ゼディスが彼らに教える。

残念ながら店員では、将軍や王女に強く出られたら言いくるめられてしまう。

それでは彼らの為にならない。


「まずは、丈夫なモノ、大きさから基準にする。丈夫なモノに越したことはない。

大きさは大きければいいというモノでもない。大きければ嵩張るし、動きづらいだろ?」


バックパックの基準から教えていく。一つ一つ丁寧に教えねばならないため、時間がかかる。

だが、彼女らは頭がいいため呑み込みが早い、エデットも将軍としても経験があるため要領はわかってくるのは時間の問題だった。

全ての道具を選び終わる頃には、冒険の経験がないにも関わらず、イメージが掴めるようになっていた。

ランタンに必要な油の時間で必要本数と値段の割合。ナイフの大きさや形。往復の保存食の量。

だんだんと遠足前の子供のように、あれこれと考え値段内で収める。


買い物する姿を野次馬たちは、初めはハラハラ見ていたが、徐々に言葉が少なくなり、最終的には初めてお使いできた子供よろしく、拍手喝采である。

「どんな状況だ……」と、ゼディスは半ばあきれていたが、王女ご一行はご満悦である。

まだ冒険者ギルドにも到着していないのに……。




時は少し遡り、レクサが冒険の準備であれやこれやをバックに詰め込んでいる時の話。



私の名前はレクサ。

レクサノス・フルルーレ・デ・ブロッケム。

父は国王のカロン・デ・ブロッケム。

要するに私は王女なんですの。


色々ありまして、エデット将軍とフィン男爵、それと妹のシルバーニとよくわからない男と冒険をすることにしました。


「後学のため」と、言いましたがお気づきの皆さんもいるでしょうが目的は別ですわ。

実は今回の冒険の目的はマンティコアという魔物を退治するモノになるはずですの。

まずはマンティコアという生き物ですが身体はオスのライオンですが、顔は老人、背中にコウモリの羽が生え、サソリの尻尾があるという魔物。この魔物の毒を頂こうというのが今回の私の目的なんですの。もちろん、彼らに知られずに……。

なんでも、超強力な毒で、無味無臭、無色透明だとか……こんなに暗殺向きな毒は珍しいですから是非とも手に入れたいと……いいえ、違いますわよ。誰かを暗殺するのに使おうというわけではありませんわ。

ただ、間違えて使ってしまう場合もあるかもしれませんが……おほっほっほっほ、と、誰も聞いていませんわよね?


さてと、あの生意気な冒険者の言うことを聞くのは癪ですが、これも目的の為、我慢せざるおえません。なんであんな貧相な冒険者に呼び捨てにされた上、自分で冒険の用意などしなくてはならないのか、意味がわかりませんわ。とりあえず、必要そうなものをカバンやバックパックに詰め込んでいきます。冒険者ですもの、おそらく穴を掘ることもありますわよね? スコップは必要ですわね。それと虫眼鏡、これで植物を観察して食せるか確認も必要じゃないかしら? 時間が空くこともあるかもしれませんから読み物も持っていきましょう。紅茶のセットは……割れ物ですから置いていきましょう。それから……。


少々荷物が多くなってしまいましたがどれもこれも冒険者に必要と思われる道具を持って、あの何とかという神官冒険者の元へと行ってみましたわ……シルバも含めまして、すでにエデットにフィン男爵と皆さんお揃いでしたが荷物が見当たりません。ひょっとしたら、この部屋に入らず、すでに荷馬車へ移動されているのかと思いましたら、皆さん手ぶらでしたわ!冒険というモノを完全に舐めきっていますわ。

ですが、真っ先に私が注意されました。あの小生意気な神官の男性に……!


「多すぎだ。」

「なんでですの!? どれもこれもいざって言う時には必要ですわ!」


断固として、これは抗議ですの。いざという時に命を守るのが冒険者だというのに……ですから、彼はいまだにBランクなのだということがわかっておられないんでしょう!

しかも、誰が荷物を持って行くですって? どう考えても女性じゃ持てないということもわからないのかしら? しかし神官やエデットは持たないとか言いやがります! どうしろというのですか!? だんだん言葉使いが荒くなってきてしまいましたわ。落ち着いて、私。


手ぶらのシルバをはじめとする面々も結局は神官に怒られていましたわ。「荷物は必要だ」と。いい気味ですわ。むしろ私の方が正義(ジャスティス)ですわ。


そのあと、私の荷物は没収され執事に片付けさせ、街に出て揃えることになりました。これはかつてない新鮮な感覚! 少し……少しですがウキウキモードです。

城の外に出ると民衆が私たちに寄ってきますわ。私の美貌に男性陣はもうメロメロ……なんですがぁー、シルバの方が多いのですよ。えぇ、わかっていますわ。剣神アルス様の生まれ変わり、という点でほんのちょっと私より人気があるでしょうから……。それは良いですわ。でもエデットも私ほどじゃないにしても男女問わず意外と人気がありますのは何で? ……あぁ、将軍ですものね、武勲もかなりあげてますもんね、そうですわ、そうですわ。……ワードラゴンは? 希少種だから? ま……まぁ男爵で希少種で珍しいですし、国の中枢にもいますし、長寿ですもの。それであの男、神官が大人気だったら、私、立ち直れませんわ。

……。

どうやら、私の人気は上々のようです。さすがに一般冒険者とは雲泥の差! これで冒険でも活躍し、武勲も上げ、国の中枢に籍を置ければ、この場の誰よりも人気を取り時期女王も……女王は無理ですわね。

兄たちがいますし、シルバもおりますわ。……シルバはおそらく女王になる気などないでしょうけど……。昔から無欲だというか、なんというか無頓着ですからねぇ。自分に王の座が回ってきても誰かに譲ってしまうでしょうね。勿体ない。


それで、人気のない神官は町人に媚び諂い、道具屋の場所を聞き出していましたわ。

私としましては考えるまでもなく、道具屋は『ランタンオブビューティー』なんですけど、どうやらそこでは駄目らしいですわ。ドワーフという最高レベルの細工師が作った最高級の道具が取り揃っていますのに「高い」とか言ってますのよ? 第一お金は国が出します。

それなのに、ちゃんとした金銭感覚が無いと冒険者じゃないみたいなことを、おっしゃって『鷹の目』とかいう道具屋に入ることになりましたわ。ゴチャゴチャしていてまるで物置小屋みたいな場所で、正直ゲッソリいたしました。

どこに何があるのかも、道具が所狭しと並べられており、優雅さの欠片もない道具屋ですわ。


すでに、フィン男爵やシルバは色々と手に取り、モノの良し悪しを確認しているようですが、「餅は餅屋」、ここは道具屋の店員におススメを一通りそろえて頂くのが手っ取り早いですわ。


「あ、あのー、何かご用でしょうか?」

「ここは道具屋だろ。当然、道具を買いに来た。」

「どんな道具がよろしいのかしら? 冒険者用の道具を取り揃えてちょうだい。」


こんなところでノンビリしているわけにはいきませんわ。道具屋の店員に急ぐように言おうかとした時、あの厭味ったらしい神官がまたも私の邪魔をしますのよ! 信じられます?


「待て待て、お前ら何で高圧的なんだ! とりあえず自分で選べ! その後、俺が判断する。

店員に頼むな、自分の命を預ける道具は自分で選べ」


シルバは「自分の命を預ける道具は自分で選べ」という言葉にしきりに納得していましたわ。当然、私は文句の一つも言ってやろうと思いましたが、道具屋にはやけに人が多かったので、私が「心の狭い人間だ」と思われるのは納得できませんので堪えました。エライです私。

でも、道具の選び方なんて習ったこともないのに、どう選べと言いますの? 適当に手に取って広げたり伸ばしたり……。

そうしていると神官が道具の選び方のウンチクを始めましたわ。なるほど、丈夫なモノなどはいいものなんですね。壊れたら買いかえればいいかと思っていましたわ! 大きさも重要と……。

そうすると、ランタンは丈夫で明かりが長持ちしそうな方がいいのかしら? ロープは着れやすいのはダメよね? あらあら、ひょっとしたら私は冒険者の才能があるのではないでしょうか? どんどん道具について理解してきましたわ。その中でも可愛いモノを選ぶことも忘れません、キリッ!


初めは他のお客だろうと思われる人たちは静かでしたが、最終的には私の完璧な冒険者道具買い物術に拍手喝采でしたわ。やっぱり私は何をやらせても天才なんですわ! 自分が怖いくらいに!


なのに、なぜかあの神官は頭を押さえておりました。

頭痛持ちなのでしょうか……。

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