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鍵が無い

ゼディスはやってきた2人の衛兵に起こされる。

地下にあるため、日の光は入ってこない。


「起きろ、えーっと名前なんだっけ?」

「知らん。昨日入れられて、『呪いの牢獄』で生きながらえた奴」


どうやら2人ともゼディスの名前は覚えていなかったようだ。

ハルバートの裏の尖った部分でつつく。槍のような形状をしているので痛い。

というか、槍として使用する場合もあるような本格的な作りになっている。


「いたたたた! 容赦ないな、お前ら!」

「本来なら死んでるんだから、むしろこれくらいで済んで良かったじゃないか。」


と言って衛兵はチラリっとデンギの方を見ると体育座りのような恰好のまま寝ているようだった。

衛兵たちにとっては都合がいい。ゼディスだけ釈放するのだから、起きていないならデンギを見張らずサッサとゼディスだけ出そうと考える。


「お前は本当に運がいいな。『呪いの牢獄』から生きて帰れるだけじゃなく、一日で釈放なんて……。

あーしかも、お前…『ゴールデンタワー』に行ってたんだっけ?

もう一日、この牢獄でも過ごしてもいいんじゃないか?」

「ちょ!?それって職権乱用でしょ!!」

「俺もこいつはもう一日ココにいてもいいように思えてきたぞ!」


鍵の束から『呪いの牢獄』の鍵を探しながら、ゼディスをからかう……からかっていると思う……まさか本気か?


「あぁ……この鍵だ。チッ!」

「ちょっと、アンタ、見つかんなかったふりして、本当に閉じ込めておくつもりじゃなかっただろうな!?」


イヤそうに牢獄の扉の空ける。

瞬間だった。

ゼディスが壁に叩きつけられ、衛兵の前に黒い影が躍り出る。

それがデンギだと衛兵はすぐに気付いた。少し気を緩めすぎていた。

慌ててハルバードを振り上げるが、すでに腹から血が流れている。黒い尖った石のようなものが深々と刺さり、横に切り裂かれ内臓が出そうになっている。

ハルバードを振り上げたままの態勢でその場に膝を折り、初めの衛兵は倒れる。

それにより後ろの衛兵は、デンギがなんらかの刃物を持っていることを察知する。さすがに鍛えられた兵士である。だが、不意をつかれたアドバンテージは大きい。

ハルバードなどの長いものは接近戦では使えないと即座に判断し、投げ捨て腰のショートソードに手をかける。

その動作は素早いが、それでもワンテンポ間に合わなかった。

黒曜石の刃物が衛兵の腕を切りつけ、剣を握れないように手首から肘までを綺麗に捌く。


「ぐあっぁあっぁ!!」


骨までは達しなかったが、筋肉がズタズタに切り裂かれ、左手で切れた右手置押さえしゃがみこむ。

戦意を失った衛兵に用はなく、デンギは初めの腹を掻っ捌いた衛兵の腰にあるショートソードと鍵の束を奪って逃げる。

ショートソードは当然武器として、鍵は途中扉が閉まっている可能性があるからだ。


焦ったのはゼディスだった。

この状況じたいは理解できたが、鍵を全部持っていかれてしまうのは想定外だった。

別に衛兵に義理はないから、死んだところでさほど悲しくもない。

もっといえば、ゼディスの作戦の範囲内である。ただすっかり忘れていたのは首輪だ!

あの鍵の束の中に首輪の鍵があった場合、非常に困る。


慌てて、開けっ放しの扉から出ると、倒れている衛兵の身体を探り、笛を探す。

緊急時に鳴らす非常用のモノを持っているはずだ。

見つけると、すぐに大きなビー!という音を響かせる。


「ゼディス! 貴様!」


デンギが一瞬振り返り怒りながら睨み付けるが、出口へと駈け出す。

だいたい、ゼディスはデンギを助けてやるとは言っていない。しかも鍵まで持っていかれては堪らない。


もう一人の見張りの兵が緊急事態が起きていることを察知し、休憩室から武防具を身に着けでてくる。

デンギを見つけ、パイプ管に叫び声で連絡を入れる。


「緊急事態! デンギが脱走! 兵士2名負傷!」


それだけ言うのがやっとだった。

距離が近すぎて、それ以上の伝達は不可能だと判断する。


衛兵VSデンギ


一見すれば、装備が脆弱なデンギが不利に見える。

衛兵もかなりの訓練を積んでいる。

だが、何人も殺してきたデンギにとって衛兵の構えは隙だらけに見えるようだった。

一太刀で袈裟掛けに切って捨てる。

防具を身に着けているが、緊急時だったため兜は被っていない状態。頭が最大の弱点になる。

死にはしなかったが、叫び声を上げ顔を抑え、その場に倒れ込む衛兵。

道を塞いでいた衛兵さえどければ、トドメなどデンギは必要ないと判断する。それよりも一刻も早く、ここから出なければならないのだから……。

だが、デンギの考えるより早く援軍が来ていた。

しかし、走ってきているわけではない。ゆっくりとコツッコツッと階段を下りてくる。

音からして一人……。姿を現したのはシルバーニ王女だった。


デンギは判断に迷う。

目の前の王女の噂を知らないわけではないが、身長でいえばデンギより頭一つ分小さい。

力なら押し切れるだろうが、その隙のなさに歩みを止め、顔を抑えていた衛兵を人質に取る。

デンギが交渉に入る前にシルバーニは剣を抜く。青白く光り魔力を帯びているのは一目瞭然だった。


「おおっと、王女様! 道を開けてもらおうか! 下手な真似したらこの男のっぉおおぉ!!」


デンギの右手が飛んでいた。

かなり離れた距離だったが、剣を振るい腕だけを正確に切り落としている。

シルバーニは自分の剣に魔力を乗せることで見えない刃を伸ばすことが出来た。


事態を把握できなかったデンギは人質が、刃物を持っていたのだと勘違いし慌てて人質を解放してしまう。

シルバーニは長距離だが、胴のがら空きになったデンギをさらに横一文字で切り飛ばした。

デンギの下半身だけが地に足を付き立っている。上半身だけが別の場所へグシャリと叩きつけられた。

その際に、デンギが腰に付けていた鍵が転がり、排水溝へと落ちてしまう。


「なっ!?」


ゼディスが慌てて駆けだしたが間に合わなかった。


「マジかよ……。」

「首輪の鍵ですね。申し訳ありません。しかし、後で衛兵が探しますのでご安心ください。」

「後じゃアイツ、死んじまうだろ。」


腹から内臓が出ている衛兵を親指で指し示す。利き腕を切られた衛兵が必死に止血しているが長く持たないことは明白だ。

シルバーニ王女は悔しそうな顔をする。


「アナタなら治せたんですか?」

「俺、神官だって……。アンタじゃ治せないよな?」


切羽詰っている状況なのでゼディスは女王相手にタメ口で話している。

もっとも、敬語とか丁寧語など面倒で出来れば使いたくないので、いい機会だから使ってないという理由なのだが、それは棚上げにしておく。


「残念ながら……私が使えるのは通常魔法です。」


神官も救援に駆けつけているはずだが、神殿からここまでは距離があり来るまでには彼は持たない。

「自分の配慮が足りなかった」とシルバーニは嘆く。

本来なら嘆く必要はない。この場に首輪を付けた神官がいること自体イレギュラーである。

その中で、人質を救い素早く事件を解決しているのだ。


ゼディスは嫌そうな顔をする。

別に王女が神聖魔法を使えないからではない。


「なぁ、王女様……他人の肉体を強化する魔法はあるか?」

「使えます……ですが、それで止血はできませんし、生命力が上がるわけでもありません。」

「攻撃力と守備力は?」

「当然ですが上がります。というかそれだけの魔法ともいえます。」

「……やりたくないな。……他に思い浮かばんし……。」


迷った挙句、時間もないとゼディスは諦める。


「シルバーニ、その強化呪文を俺にかけてくれ。」

「何でですか?」

「かけてくれたら、アイツに回復魔法をかけられるからだ。」


的を射た回答だとは思えないが、今はこの男を信じるしかないと、呪文を唱える。

魔法使いほど強力な呪文ではない。

ゼディスにとっては心もとないが、今の状況じゃぁこれが最善の策だろうと腹をくくる。

みんなに、出来るだけ自分から離れるようにいい、自分も周りを確認する。


「おい!?」

「まさか!?」

「無茶だ!!」


首輪に手をかけ、無理矢理引きちぎった!


ドォーン!と凄い音がする。天井まで一瞬火柱が登り黒い煙があたりを立ち込める。

周りで見ていた衛兵や王女が呆気にとられる。


「あぁ……本当に爆発するんだ……。」


本当に無理矢理、首輪を外そうとしたものがいなかったため、宮廷魔術師がでっち上げているという噂もあった。だが、目の前での爆発のすさまじさから、何の呪文もかけていない生身の身体なら死ぬだろうと思われた。呪文をかけたゼディスはどうなったのだろうか。


煙が晴れると首を中心に皮膚の皮は跡形もなくなり、筋肉が剥き出しになり血だらけだ。

すぐにゼディスは首の動脈と静脈を抑え、回復魔法を唱える。

もし、数秒でも遅れたら意識を失い出血多量であの世行きだ!

一部の筋肉もズタズタになっている。多少それも回復魔法で治すが必要最小限で、それ以上の魔力を自分には注がない。

まずは倒れて、内臓が危ない衛兵を治していく。

その魔力量は物凄いものだった。シルバーニでなくとも、ゼディスが唱えている回復呪文の光の強さに圧倒される。自分を顧みず、他人を治すことを優先している。

深い傷を負っていた衛兵は呼吸が落ち着いてくると、様態は安定したのだと、みんな安心した。

ゼディスの判断の速さが彼の命をつなぎとめた。


「次は、アンタだ。」


手首から肘まで切られた衛兵の傷を治そうとする。


「俺は大丈夫だ! それよりアンタの方が……かなりグロいことになってるぞ!」

「ゴタゴタ抜かすな! そのまま放っておいたら剣が握れず働き口を失うだろ。」


有無を言わさず、傷をいやしていく。傷口はふさがり中の筋肉がつなっがっていくと衛兵は感じる。

神官による神聖魔法の凄さに感心する。だが、7、8割程度、治りかけたころでゼディスは膝を付く。


「おい!」

「あぁ、疲れただけだ……それに、この国の神官もやってきたみたいだ。スマンが、そっちで治してもらってくれ。」

「いや、今度こそ、あんたからだろう!」


階段からゼーハーゼーハと息を切らせながら、5人の衛兵と3人の神官が入ってくる。

衛兵にはシルバーニが説明をし、神官はそれぞれ怪我人の治療に入る。

ゼディスは壁に寄りかかりながら、その様子を見る。

3人の神官はドワーフの男性と人間の男性と女性だった。


(女性に治してもらうのがベストだよなー)


っと、ボーっと見ている。

実際のところ、ゼディスには余裕があった。体力的にも魔力的にも……。

なら何故、途中でやめたか。ただの演技である。

自分が必死に衛兵たちを助けている……ということを印象付けるための、そして、魔力に限界があるということを見せつけるためである。

これだけやれば、衛兵や神官、さらにはシルバーニ王女には好印象だろう。


さすがに首輪を無理矢理外さなければならなかったのは誤算だった。

が、想定の範囲内のダメージだった。もし、予想以上だった時のことなど考えていなかった。

ゼディスは自分の『死』に対し無頓着なところがある。


初めに入ってきた男性の神官は近くの頭から切られた男の回復を図った。

次にドワーフの男性と人間の女性の神官が駆け寄ってくる。女性神官よりドワーフ神官の方が足が速い。

ゼディスのところに来たのはドワーフの神官。


(くっ!お前じゃない。)


女性の神官は可愛いのに……。


「俺はまだ大丈夫だが、あっちの男の内臓がヤバいかもしれない。

先に見てやってくれ。俺はその後で構わない」

「わかった。エメファンダ! この男を頼む。」

「はぁはぁ……わかりました!」


ドワーフの神官は内臓をやられた神官を見に行く。作戦成功!

エメファンダと呼ばれた女性が息も絶え絶えで、なんとかゼディスの前に辿り着く。


「あー、まずは呼吸を整えてからお願いしようかな。」

「はぁはぁ……す、すみません。」


手が大体治っている衛兵は、首の周りの筋肉が剥き出しの男を「意外と冷静だなー」と思っていた。

こんなに酷い怪我なのに周りの様子が良く見えている、と、良いように解釈してくれる。

これだけ色んな人を自分の命を顧みず助ければ、良い方に解釈しないわけがない。


もちろん、ゼディスはシルバーニに気づかれないようにエメファンダに通常の魔力供給(トランスファー)をかけ、さらに自分の好感度を上げることも忘れない。


そこにやっと、赤く輝く鎧を着た将軍がのんびりとやってきた。


「酷いありさまだな……。」


ツカツカとゼディスに向かって歩いてくる。

王都の謁見のときはあまり見ていなかったが茶髪でもみあげが長い男性。

年のころは40~50といたところだろうか。

気になることは、こんな状況なのに武器を持ってきていない。

バカなのか、素手に自信があるかの二択だ。さすがに将軍だろうから後者と考えるのが無難だろう。


「貴様。首輪を無理矢理外したな! 脱獄を考えたのか!」


赤い鎧の将軍がまだ完治していない首根っこを掴み、無理矢理立たせる!


(バカの可能性もあるな……。)


まさか将軍なのに、前者の可能性があるとは、世の中意外なことがある。

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