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王宮

馬車から降りると、すぐに城内を案内するためのメイドがやってくる。

その者にフィンは要件を話すと、王の用意ができるまで貴族用の部屋を案内しようとする。

が、「その必要はない」とその場で待つことにする。


普段なら男爵レベルが、アポなしで急に用件を言いに来たなら、王様への面会は次の日になる。

どうしても緊急の場合でも、その日にあえるのは宰相までとなっている。

だが、フィンは男爵でありながら、緊急時のみ強い権力を持つことが許されていた。

剣神アルスの時代からこの王家に使えている。本来なら宰相であってもおかしくはない。

だが、本人は『能力の有る人が、それに相応しい地位に着くべきである』ということで男爵の地位以上を拒んでいた。


しばらくすると白銀の鎧をまとった城内兵が小走りでやってきて、メイドに何か言うと入れ替わる。

たぶん、特別であることをメイドに言い伝えたのだろう。


「おまたせしました。フィン様。そちらの冒険者もご一緒でよろしいでしょうか?」


どこの馬の骨ともわからない冒険者を王の前まで連れて行っていいのか確認する。


「構わん。責任は私がとる。」


城内兵は頷くと正面の大階段へと案内をはじめる。

登り始め中央の踊り場付近で、上から王女がおりてくるのが目に留まる。

金髪のロングヘアー、瞳は青。体つきはしなやかだが、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。年齢は十代後半だろうか?見方によってはもっと若く見える。

美人と可愛いの中間に位置し、笑えば幼く、怒れば凛々しく見えるのであろう。

ゼディスは一目でわかった。この女性が剣神アルスの生まれ変わりと呼ばれている女性なのだと……。

その後ろに従者兼護衛の男が2人付き従っている。

1人は獣人ワーウルフ、目つきが鋭い。1人は人間、体格は並みだが隙がない。


階段の踊り場ですれ違い会釈をする。

フィンに確認しようと口を開こうとした時、シルバーニ王女が呼び止める。


「お待ちください。フィンバロンネス……その冒険者は何者ですか?」


そう問いただすと、シルバーニの従者は慌てて振り返り、剣の柄に手をかける。

が、2人に収めるよう言う。

ただ、ゼディスから目を離さない。


「彼は情報を頂いた冒険者です。重要な事柄なのでここではお話しできないため、面会を緊急にお願いいたしました。」

「確認したいのですが……その冒険者は人間(・・)ですか?」

「どういう……ことですか?」

「そうですね。私の能力をフィンバロンネスも知らないのでしたっけ? 面識自体少ないですからね。」


互いに存在は知っている。相手は一国の勇者の生まれ変わりだ、面識がなくとも男爵が知らないわけがないし、王女もドラゴニュートが国の中核を担っていることを知っている。

ただ、互いがどこまでの能力や役割を持っているかまでは、派閥も違うことから探り探りになってしまっている。


「私は魔力を『見る』ことが出来るのです。敵意を黒く、好意を白く……大抵の人間は灰色です。

私の従者たちは白に近く、私への敵意は感じられません。逆にユニクス王国の兵などは限りなく黒く見えます。この国に害するモノも同じようにわかるのです。

ちなみに魔族は人間に敵意を持っているためか、黒以外の魔力を見たことがありません。」

「なるほど……それで彼の魔力が黒いと……。」

「いいえ、黒でも白でもない。色で言うなら薄い赤……ピンクとでもいいましょうか。これは敵意や好意などではない全く知らない色です。人間や魔族でこの色を見たことがありません。

ゆえに人間かどうかも怪しいですね。」


フィンはシルバーニがそんな能力で敵意を見分けられるということに驚きもしたが、ゼディスが人間でない可能性の方がさらに驚く。

それに応えられるのは当然ゼディス本人だ。


「私は神官で冒険者のゼディスです。私の魔力で善悪を判断するのは難しいでしょう。なにせ私の魔力は全て私の神に譲渡してしまっています。そして神の魔力を借り入れているのです。ゆえに私の魔力でありながら神の魔力であるから区別できないんじゃないでしょうか?

気休めですが、ゴルラ副隊長でしたっけ、彼の部下と行動を共にした時に彼女たちに私の神の祝福をあたえ、私の魔力を見たときに同じ色を感じたはずですから、聞いてみたらどうでしょう。

名前はドキサとショコです。」

「それは興味深い話ですね。この城にも大司祭がいますがそんな話を聞いたことがないです。」

「あまり、この儀式は行われません……魔力を全て譲渡して失敗すると死にますから。

大司祭様でしたらこの方法を知っているでしょうから、聞いてみてはいかがでしょう。」

「なるほど、理解いたしました。今度、彼に聞いておきます。」


それだけ言うと、シルバーニは階段を降り出した。

戸惑っていた従者たちもすぐに彼女を追いかけるように歩き出す。

ゼディスが気になるのか、従者は一度だけ振り返って確認した後、シルバーニに何か耳打ちしていた。

肝を冷やしたのはフィンだった。


「どういうことだ?」

「話した通りですよ。」

「本当に神の魔力を有しているということか?」

「神の魔力と言っても大したことじゃありません。基本的には他の神官と使える魔法はほとんどかわりませんから。」

「なら何故そんなことをするんだ?」

「だいたいは、信仰心を示すためです。神官の中では有名な儀式ですよ。大神官や大司祭などになるのに必要な神もいるくらいですし……。」


当たり前のように言う。

そう言われてしまえば納得するしかない。おそらくシルバーニ王女はあとで、この国の大司祭に聞きに行くだろう。

だが、今はそれを確認している暇はない。

王の間への案内役の兵士はどうしたものかと、オロオロしている。

フィンが行くように手で合図すると頷いて再び歩き出した。

王の間までの間、白銀の城内兵や貴族、メイドなどとすれ違う。大抵の者は会釈だけだが、一部の貴族はフィンと言葉を交わす。

そのほとんどの貴族との話の内容は、他愛のないものだがどこか媚びている感じがある。

中には子爵や伯爵など位の上の者もいたがどうやら、みな一様にフィンには一目置いているらしかった。


長い廊下を歩き大きな扉の前までくると、そこには2人の護衛兵が立っている。

どうやら、この城の兵士のイメージカラーは白銀らしい。

大きなハルバードをそれぞれが持っている。

案内兵がその護衛兵に耳打ちすると、その兵は王の間に聞こえるよう声を張り上げる。


「フィン領、フィンバロンネス、到着いたしました!!」


どうやら、領の名前も彼女の名前が使われているらしい。

そりゃー、千年近く生きていればそうなるかと納得する。

扉に入る前に一礼する。

一瞬、ゼディスは護衛兵に止められるかと思ったが、止めるなら案内役が止めているか……と思ってフィンの後に続いた。


赤いロング絨毯を歩いていく。

そうすると、後ろの扉は閉じられてしまう。悪いことをしていないのにイヤな圧迫感がある。

そのまま歩き続けると、両脇には近衛兵が3人ずつ立っている。

おそらく、密会に近い形にしたかったのだろう。緊急を要しているとのことで……。


王は段の上に玉座を構え、そこに腰を掛けている。

金髪に髭を蓄え、いかにも「できる王様」と言った感じだ。

その左におそらく宰相と一段下に宮廷魔術師、右に大司祭だろう。

さらに、それそれの後ろに将軍らしき人物が2人ずつならんでいる。

鎧の色がみんな違く、赤、青、白、黒となっており黒い鎧の人物だけ女性だった。

フィンが王の前で膝を付くと、それに倣うようにゼディスも膝を付く。


「急用にて参りました。」

「何用だ、フィン申して見よ。」


威圧するような声だ。

王の風格があるが相手に有無を言わせない感じも含まれている。


「出来ましたら、お人払いをお願いいたします。または別室の用意を……。」

「いや、それはできんな。そなたがその冒険者を連れてきている時点で、人払いも、別室もない。

それに、ココにいる者は全て信用足る者だ。遠慮せずに話せ。」


フィンは言いよどんだが、ゼディスはもっともな話だと思った。

王としては冒険者よりは近衛兵の方がよっぽど信用できるだろう。

ただ、宮廷魔術師がニヤニヤしているのが気にくわないが……。


「では申し上げます。我が領土にて7魔将らしきダークエルフと遭遇したと、こちらの冒険者から連絡が入り、馬車を飛ばしてきたしだいになります。」

「!!」「!!」「!!」「!!」


その場の全員の動きが止まった。


「待て。余の聞き違いでなければ……。」

「7魔将です。ただし、おそらくは新しい7魔将だと思われます。」

「新しいだと!?」

「よろしければ、こちらの冒険者が発言することをお許しください。」

「構わん! 冒険者! 話してみよ!」


とりあえず、ゼディスは記憶の整理をしエイスのことは知り合いのエルフくらいにして、細かく話すことにする。当然、話せないことは話さない。

できるだけ、誇張しないし、曖昧なところは「曖昧だ」と付け加える。

できれば、ここで7魔将対策を講じてもらいたいから、嘘偽りないようにしている。

話し終わった後、フィンとゼディス以外の人物たちは厳しい顔になる。

とくに大司祭は「すぐに対策を!」と進言している。助かるのだが小物臭がする。

将軍たちも軍の強化を訴える。もちろん、宮廷魔術師も「今こそ魔術の研究を!」と声を張り上げる。

どうも、この機に乗っかり自分のところに予算を回せと訴えているようにも見える。

だが、多かれ少なかれ、7魔将の存在を認識したように感じられた。

そこに突然、王様が笑い出す。


「くっくっく……はっはっは……あっはっはっは!」


これには全員、呆気にとられる。ゼディスも例外ではない。


「納得した! 納得したぞ、冒険者。

者ども! その冒険者を捕えろ! 牢屋にぶち込め!」

「えー!? なんで!?」


近衛兵がゼディスを取り押さえ、引っ立てようとする。

さすがにフィンも黙ってはいない。


「待ってください! どういうつもりですか! カロン王!」


なるほど、王の名前はカロンか……と、引っ立てられているゼディスは初めて王の名前を知る。


「『どういうつもりか?』気付かんのか、フィンよ?

その者は詐欺師だ! 新しい7魔将だと?

考えてもみろ、なぜ7魔将に会って誰も死なずに無事に帰ってこれる。

それどころか、追い返しただと……。そんな話を信じろという方が無理な話だろう。

それに、お前の領土に我が兵がいるが、そんな緊急事態なら早馬をよこしているはずだ。

早馬がお前たちより遅い理由は何だ?」

「そ……それは……。」


転移魔法陣のことを言うべきか悩んでしまう。

とくに宮廷魔術師はあまりいいうわさを聞かない。悪用しかねない。

そうしている間に、兵士が王に報告をする。


「カロン王様! 申し上げます。ただ今、空いている牢獄はデンギのいる『呪いの牢獄』しかありませんが……。」

「他がない……だと。くっ、構わん。そこに放り込んでおけ!」


王が苦々しい顔になる。

「呪いの牢獄」などという名前に、とても良い効果が期待できないのはわかる。

フィンが必死に抗議しているが、ゼディスは「呪いの牢獄」に連れて行かれた。

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