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古民家カフェとVライバー 一ヶ原小春のさくら日和  作者: 優貴(Yukky)


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16/18

第15話 『はじまりの春と、変わらない“おかえり”』

一月。

雪は少しずつ溶け、

公園の地面から冷たい土の匂いが戻ってくる。

桜の枝はまだ眠ったまま。

でも、小春は知っている。

その奥で、ちゃんと準備していることを。

「……わたしも、ですね」

縁側であたたかい抹茶を飲みながら、

小さく笑う。

年が明けてから、少しだけ忙しくなった。

イベント効果で、新しいお客さんも増えた。

《初見です》

《イベントから来ました》

配信のコメント欄にも、新しい風。

でも。

小春はいつものように言う。

「こんばんは。こはる日和へようこそ」

そして、必ず。

「おかえりなさい」

新しい人も、

ずっといる人も。

区別はしない。

ここは、みんなの帰る場所だから。

ある日。

制服姿の女の子が、少し大人びた顔でやってくる。

「合格しました」

その一言。

小春は一瞬きょとんとしてから、

ぱっと顔を輝かせる。

「おめでとうございます!」

店内が、ふわっとあたたかくなる。

「怖かったけど、ここがあったから頑張れました」

女の子の言葉に、胸が熱くなる。

「春から、ちょっと遠くに行きます」

寂しさが、ほんの少し。

でも小春は微笑む。

「帰ってきてくださいね」

「はい。絶対」

約束のように、うなずく。

夕方。

高校生――もうすぐ卒業生、が来る。

「俺も、受かりました」

「すごい……!」

二人で笑う。

「春から県外です」

「……遠くなりますね」

「でも、配信は見れます」

少し照れながら。

「帰れる場所、オンラインなんで」

小春は笑う。

そうだ。

こはる日和は、ここだけじゃない。

画面の向こうにもある。

夜の配信。

「今日は、嬉しい報告がたくさんありました」

コメント欄も祝福でいっぱい。

小春はゆっくり話す。

「出会いもあれば、旅立ちもあります」

公園の桜の映像を背景に。

「でも、春は必ず巡ります」

枝先に、ほんの小さな蕾。

カメラ越しに、やわらかく笑う。

「こはる日和は、変わりません」

「どこへ行っても、帰ってきてください」

少し間を置く。

そして。

「おかえりなさい」

コメントが一斉に流れる。

《ただいま》

《ずっと帰る》

《春が楽しみ》

配信後。

夜の公園に出る。

冷たい空気の中、

桜の蕾は、確かにそこにある。

小春はそっと触れる。

春は、また来る。

去年は、不安だらけだった。

今は違う。

ここが、わたしの居場所。

そして、誰かの居場所。

こはる日和の灯りは、

季節を越えて続いていく。

小春は空を見上げる。

「いってらっしゃい」

旅立つ人へ。

そして。

「おかえりなさい」

帰ってくる未来へ。

やがて、風がやわらぐ。

新しい春が、すぐそこまで来ていた。

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