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「・・・・・ブハッ!・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・」
特殊魔導溶液に満たされた再生層。私の生命活動が著しく低下した時に背中に刻まれた魔法陣が起動し、この中へ転送され自動で身体を再生してくれる。
部位欠損に年齢の遡行も可能なこの施設は私の不老不死の源だ。奴には治癒魔法の応用だと説明されたがその原理はいまだ解明出来ていない。
特殊魔導溶液に浸かった身体を起こし、荒い呼吸を整える。
若い見た目を維持するために数年おきに再生層を使用しているが全身を体内から弄繰り回される感覚は何度経験しても嫌なものだ。
そしてこの後必ず腹立たしい思いもしなくてはならないのも気に入らない。
再生層から出て気怠い身体を引き摺るように歩き、近くの棚から布と着替えを取り出すと服を脱いで全身を拭い新しい服に着替えた。
軽く目を伏せ深呼吸をして唯一の出入り口である扉を開けると忌々しい青い宝玉が鈍い光を放った。
『おや、早かったじゃないか。もう討伐は終わったのかい?』
これだ、こいつの居るこの部屋を通らねば何処にも行けない事実が腹立たしい。
「・・・解っている癖に・・・・・」
『まぁ君がそこから出て来た訳だしね。でも、ご自慢の騎士団を連れて行ったんだろう?彼等は如何したんだい?』
「・・・おそらく・・・全滅した・・・・・」
『ほう!それはまた相当な魔物が生まれたみたいだね。確か団員は三百とか居たんだろう?』
再生層から出たばかりで怠いから軽く流したかったが無理だった。
「・・・・・帝王騎士団と対峙中に上空から言葉を介するドラゴンが現れ我々を一瞬で薙ぎ払たのだ!何なんだあれは?!しかも帝王騎士団と繋がっていたぞ!」
『・・・・・ドラゴンが言葉を?・・・・・プッ・・・ハハハハハ!』
「何が可笑しい!!帝王騎士団だけならマルクスを黙らせる策は有った!だがあんな化け物どう対処―――」
『なぁ、ウォルタード』
「なんだ!」
『生物が生きて行くために最低限必要な事とは何だと思う?』
「あ?・・・食事と睡眠・・・か?それが何だと言うのだ!」
つい答えてしまったが、こいつは一体何を言いたいんだ・・・嫌な予感しかしない・・・・・
『では問おう。食事も睡眠も排泄も必要なく、繁殖する必要もない不老不死の完全体が幻想でしかなかった新たな生命体を生み出したと言う事実を踏まえてだ・・・・・人はそのような存在を何と呼ぶ?』
何故だか解からないが奴の問いに暫く考えを巡らせ、出した答えはとても容認出来るものではなかった。
「・・・・・ま、まさか!」
そう、人はそれを〝神〟と呼ぶのさ―――
「・・・ふ、ふざけるな!ならばそれを生み出した貴様は何だと言うのだ!!」
そうだ私も同じ答えを出した。だが認めてしまえば私は・・・・・
『はて?なりそこない・・・かな?まぁ、少なくとも彼は君の考えた全能神とやらよりは神と呼ぶに相応しいんじゃないかね?尤も、神なんてモノは人の概念が生み出したものでしかないと私は思っているが』
なりそこないだと?それは私も含めて言っているのか?
「ならばそ奴も神ではないだろうが!」
『だとしても人智を超えた超常の存在なのは確かだろう?如何言い変えても『神の如き存在』なのは間違いないのだし。なにしろ『言葉を解する新しい知的生命体』を生み出したんだからね。不完全な不老不死の私達には如何する事も出来やしないのさ』
確かにこいつの言う通りだ。ならば私がとる行動は一つしかない。
「・・・まだだ、まだ決まった訳じゃない。私がそいつを倒せばいいのだろう?そうすれば私は・・・私が神となる訳だ!!」
『そりゃそうだろうけどね。ま、精々頑張ってくれたまえ』
「上に出る隠し通路は閉鎖しておく。教会は帝王騎士団に占拠されているだろうからな」
『なんだ帝王と揉めたのかい?数的に勝てる訳もないのによくやるねぇ』
「揉めたのはクライブとだ。折を見てマルクスと話を付けて教会は解放させる」
マルクス相手ならば切り札が有る。切りたくはないが他に手段がなければ使うまでだ。クライブの奴には必ず責任を取らせてやる。
『そうなるといいね。まぁ長年強引に国内の治癒術師を独占して来た訳だし、そう上手くはいかないと思うけど』
「フン!私が何の手札も無く口にすると思うな」
『はいはい、それじゃがんばってね』
「ああ・・・・・」
左手側の扉を開き中へと入り、他国へ繋がる四つの転移魔法陣の内の一つへ足を踏み入れると魔力を流した。
先ずは装備が必要だ。鎧は間に合わなかったが籠手と剣がある。あれが有ればドラゴン如き切り捨てられる筈だ。
装備を保管している南部の漁師町に設えた教会の地下に転移したのだが―――
「ゴボゴボゴボ・・・・・」
なんだなんだ?!何故だ?!何故海水が室内に?!
何故か完全に水没した室内に放り出される形になり、混乱したまま手足をばたつかせ、海水をたらふく飲む事になり視界が闇に閉ざされた。
そして気が付くと再生層の中に戻されていた。
「・・・・・フッ・・・フフフフフ・・・・・ふ、ふざけるなああぁぁぁ!!」
怒りの余り笑みが毀れ、怒声を上げて再生層から立ち上がって身体を拭いもせずに駆け出した。
『おや?こりゃまた随分と早いお帰りで』
嫌味を言う奴に一瞥もくれずに乱暴に扉を開き、大きく息を吸ってから転移魔法陣へと飛び乗って魔力を流した。
完全に水没した装備を回収するまでに再生層との間を五往復する羽目になったのは仕方のない事だと怒りに震える自分に言い聞かせた。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




