第8話 :神殿に巣食う“大司教”に『あんた、信仰を隠れ蓑にしてるだけでしょ?』と告げた
リセリアは、王都の神殿の前で足を止めた。
光を受けて白く輝く巨大な礼拝堂。人々が祈りを捧げる、神聖な場。
──けれど、リセリアの目には、そこが**“穢れ”の渦**にしか見えなかった。
「ここが……あの“闇”の巣?」
隣に立つゼシュが小さく頷く。
「大司教・アーヴェル。王に次ぐ地位にありながら、
裏では魔族の血を使って“永遠の命”を求めている。表向きは民を救いながら、
裏では“禁呪”を唱え、力と信仰を独占してきた男だ」
「……滑稽ね。“信仰”って、そんな都合よく私物化できるもんじゃないのに」
リセリアは、神殿の大扉を指先で押し開けた。
──中は、異様なまでの静寂。
冷たい空気とともに、空間そのものが“拒絶”してくるような感覚があった。
だが、彼女の足取りは一切止まらなかった。
そのまま奥へ進み、“大司教専用の礼拝室”の前に立つ。
「……入るよ?」
ノックもせずに扉を開けると、そこには──
「ほう。噂の聖女様が、わざわざご足労とは」
黄金の刺繍をまとった男が、ゆったりと椅子に腰掛けていた。
髪もひげも整えられ、慈愛の仮面を貼りつけたその男──それが“大司教アーヴェル”。
リセリアは、部屋に一歩踏み込むと、言った。
「──あんた、信仰を隠れ蓑にしてるだけでしょ? 中身、腐ってるのバレバレなんだけど」
その瞬間、空気が一変した。
慈愛の顔は消え、代わりに現れたのは、氷のように冷たい笑み。
「……やはり、“目”があるのか。忌まわしき“真理の目”を持つ、原初の聖女」
「へぇ、知ってたんだ。じゃあ話は早い」
リセリアは手のひらを軽く掲げた。
彼女の周囲に、七つの属性の魔力が淡く浮かび上がる。
「神殿に巣食った“悪臭”は、浄化する。それが“聖女”の役割でしょ?」
アーヴェルが立ち上がり、黒い煙のような魔力をまとって応じる。
「ならば見せてみろ、全属性の力とやらを……!
この“神を超えた男”を、貴様に止められるものか!」
瞬間、天井が割れ、黒い雷が落ちた。
アーヴェルの魔力が暴走し、礼拝室全体が歪んでいく。
けれど。
「……はあ。だからさ、演出に全振りすんなっての。
本質が伴ってなきゃ、ただの“劇場型詐欺”だよ、あんた」
リセリアは静かに、一歩踏み出す。
そのたびに、空間の“濁り”が霧のように晴れていく。
「光だけでも、闇だけでも、世界は救えない。
私が持ってるのは、“全部”。だから私がやるの。
──嘘をついてる信仰を、終わらせるのは、本物の“祈り”だけだから」
彼女の声とともに、七属性の魔法陣が空中に浮かび上がり、交差した。
アーヴェルの身体が、それを前にしてぐらりと揺れる。
「ば、馬鹿な……! 私は……神に選ばれし……!」
「神なんて、都合のいい時だけ信じるもんじゃないでしょ。
そんな信仰、滑ってるどころじゃない。──腐ってるよ」
リセリアが手を振ると、魔法陣が放った光がアーヴェルを包み込み、
彼の黒い魔力をすべて消し去った。
礼拝室に、静寂が戻る。
リセリアは一言、あくび交じりにぼやいた。
「……終わった。帰って昼寝したい」
それが、王都の神殿改革の始まりとなった。
“全属性の癒し”と“毒舌”を持つ聖女の名は、さらに広く知れ渡ることとなる。




