第7話 :魔族の少年に“お前、闇属性に好かれてるよね”と言われてしまった
王都に偽聖女事件が収束して数日。
リセリアはすっかり日常に戻っていた。
日常とはつまり、薬草を摘んで、干して、昼寝して、お茶を飲む。それ以上でも以下でもない。
「……なんか最近、世界が騒がしいけど。私のせいじゃないよね?」
そうぼやきながら、リセリアは草原の真ん中でティーポットを湯煎していた。
「“聖女の帰還”とか“再誕の奇跡”とか騒いでるけど、みんな自分たちで滑って転んで、勝手に戻ってきただけなのにね」
のんびりした空気のなか、そこに──異変が訪れる。
「…………なに?」
リセリアの視界の端に、一人の少年が立っていた。
黒髪に赤い瞳。人間離れした存在感。
「……お前が“本物の聖女”か」
少年の声は、低く、どこか冷たい。
「あなた、魔族ね?」
「……よくわかったな」
リセリアは頬杖をつきながら、あくまで気だるげに答えた。
「そりゃわかるよ。空気の流れが人間じゃない。しかもこの村まで入ってこれたってことは、
“わたしが許した”ってこと。気づいてた?」
「……なに?」
「いや、別に。ふふ。お茶、飲む?」
差し出されたカップから、湯気がふわりと立ちのぼる。
少年は一瞬、訝しげにしたが、やがてカップを取った。
「……変なやつだな。お前、“闇属性”の魔力、すごく強いぞ?」
「うん、知ってる。ていうか、私、“全属性”持ってるから。
朝は光で薬草育てて、夜は闇で魔獣に眠り薬を仕込んでるの。効率大事」
「お前……本当に人間か?」
「それも知ってる。“たぶん”ね」
リセリアはにこりと笑った。
「で、なにしに来たの? “聖女を殺しに来ました”とか言ったら、今すぐティーポット投げるけど?」
「……俺を“殺さないでくれ”って頼みに来た」
風が止まる。
「俺の名はゼシュ。魔王の血を引く、“魔族の末裔”。
王都の神殿に潜む“本当の敵”を暴こうとしてる。でも、そのためには、お前の力が必要だ」
「へぇ……。闇と手を組む話、持ってきたの、あんたが初めてかも」
「聖女の力は、“人を癒す”だけじゃない。“真実を暴く”ためにも使える。
お前の目は、嘘を見抜けるんだろ?」
リセリアは立ち上がり、ゼシュに顔を近づけた。
「──でもさ、“闇属性に好かれてる”って、どういう意味? 私、そんな自覚ないんだけど?」
「お前の周り、魔族でもないのに“闇”をまとった者が何人も寄ってる。
多分……お前自身が“闇にとっての癒し”なんだ」
「……なるほど。“救い”ってのは、光だけじゃないってことね」
リセリアは、くるりと踵を返した。
「わかった。話は面白そう。でも、条件がある」
「なんだ?」
「その神殿の敵を暴くのに成功したら、
私の昼寝を一週間保証して。どんな騒ぎがあっても、絶対に起こさない」
「……そんなことでいいのか?」
「それが一番、重要なの」
──こうして、“聖女”と“魔族の末裔”の奇妙な共闘が始まった。
敵は、神殿内部に巣食う“魔力の歪み”。
彼女の毒舌と無自覚最強が、闇に満ちた真実を浄化していく──。




