第6話:偽聖女に『あなたの祈り、滑ってるよ?』って言ってしまった
王都からの報せが届いたのは、リセリアが薬草を干して昼寝していたときだった。
「リセリアさん、大変です! 王都で……偽の“聖女”が現れました!」
森を駆け抜けてきたルークが息を切らして叫ぶ。
その声に、リセリアは目を細めながら顔だけを上げた。
「……あー、またか。今度はどんな“都合のいい聖女”?」
「名前はミリーナって言って、“聖女リセリアの魂を受け継いだ”って……王都の教会で癒しの奇跡を演じてるらしいです!」
「へぇ~……魂まで受け継がれちゃったかぁ。私、まだ生きてるんだけどな」
完全に他人事のような口調で、リセリアは横を向いた。
「……で? その偽者、何をやらかしたの?」
「神殿の病室にいる人たちに祈りを捧げて、“光が集まった!”とか言って。
でも回復どころか、悪化してる人も出てきて……」
「うわあ……“滑ってる”ねぇ、それ」
リセリアは立ち上がると、肩を軽く回した。
「……じゃ、行きますか。“あなたの祈りは、滑っていますよって言いに。
──せめて、昼寝の邪魔した分の元は取らないとね」
◆ 王都・聖堂の中央
「どうか、この者に光を──聖女リセリアの魂よ、今こそ我が身に宿れ……っ!」
そう唱えながら、ひとりの少女が両腕を広げていた。
年はリセリアと同じくらい。
可憐な銀髪に、清楚な聖衣。
その姿は、確かに“模倣”としては上出来だった。
だが──。
「ふーん。思った以上に“滑ってる”人の滑り方だわ、それ」
聖堂の扉がバタン、と開くと同時に、毒舌が炸裂した。
人々が驚いて振り向くと、そこには、
ラフな村人服にハーブの香りをまとった、本物のリセリアが立っていた。
「な、なによあなた……! 勝手に入って──!」
ミリーナが声を荒げるが、リセリアは肩をすくめる。
「本物だから問題ないでしょ? ……それよりその“祈り”、センス悪い。
“魂よ宿れ”って、そんなアバウトな呪文で動くわけないでしょ。マナ理論わかってる?」
「あなたごときに、わたしの聖なる祈りが理解できるわけ──」
リセリアは無言で、床に倒れていた一人の患者へ手を差し伸べた。
何の演出もなく、ただ触れるだけ。
次の瞬間──。
患者の体から黒い瘴気が抜け、顔色がみるみる戻った。
「そっちは“演出”だけど、こっちは“現象”ね。
──まあ、せいぜい“見た目”だけでも私に似せてくれて感謝しておくよ。面白い見世物だったわ」
その瞬間、聖堂内は静寂に包まれた。
やがて、信者たちがざわめき始める。
「あの人……! あの人が……本物の聖女だ!!」
「ミリーナ様は偽物だったのか!?」
ミリーナは、顔面蒼白になりながら叫んだ。
「ま、待って! わたしは……わたしは、ただ……っ!」
リセリアは一歩、彼女に近づいた。
「──“ただ利用したかった”んでしょ? 私の名前を、“神聖さ”を。
“神聖な人間”に見せかければ、人って案外簡単に信じるからね」
リセリアの目は、底冷えするほど静かだった。
「でもね、“聖女”ってのは、“誰かに祈られる存在”じゃない。
誰かを助けるために、歯を食いしばって、汚れ役も引き受ける存在なの」
「……!」
「──それができないなら、“偽物”ってだけ。以上。私は家に帰ってお昼寝するから。じゃあ、バイバイ」
リセリアはくるりと踵を返し、教会を後にした。
その背中を見送る人々の目には、
もう“神の代理”ではなく、“人の本質を見抜く力”を持った者としての畏敬が浮かんでいた。




