第5話:“死んだ聖女を生き返らせて”って頼まれたけど、私は生きてるんだけど?
──それは、王子たちの土下座騒動から三日後のことだった。
「……リセリア様、どうかこの聖女の遺骸を、癒しの力で……!」
王都から再びやってきた神官団の一人が、涙ながらに訴えてきた。
その手には、白布に包まれた一体の遺体。
美しい銀髪の少女の顔が、わずかに覗いている。
リセリアは草の上で茶を啜っていたが、言葉を聞いた瞬間、茶を吹いた。
「……は?」
神官は神妙な面持ちで続ける。
「聖女リセリア様……我らが敬愛していた“第一聖女”が、数日前に……病に倒れ……」
「うん、それ私ね」
「……は?」
「いや、だから。病に倒れた“第一聖女”って、私のことだってば。
あんたたちが“回復魔法しか使えないから”って追放した、その聖女、私」
神官、再び「は?」と固まる。
ルークがそっと補足する。
「あの、つまり……“死んだ”って伝えられてたけど、本人は普通に生きてて……いま目の前にいて……このお茶を飲んでる方が……その……」
神官の顔から血の気が引いていく。
「では……あの埋葬された“聖女の遺骸”は……」
「精巧な替え玉。ていうか、作ったの誰よ。そこに力使うなら、もうちょっと私に土下座でもしてればよかったのにね」
リセリアは冷たく笑った。
「死人扱いして、都合よく追い出して、泣きながら“蘇らせてください”って。……虫が良すぎて、笑える」
神官はその場に崩れ落ちた。
「ゆ、許しを……どうか、我らを……!」
「別に怒ってるわけじゃないよ。呆れてるだけ」
リセリアはふわりと立ち上がると、神官の手から遺体をひょいと持ち上げた。
「この子、ちゃんと人間じゃないわね。
作られた“魂無しの器”だ。精霊工芸師が裏で噛んでるっぽい。多分、私の魔力を“複製”しようとしたんでしょ」
「なっ……!? そんな馬鹿な……!」
「馬鹿なこと、あなたたちはやってきたんだよ。私を殺して、都合のいい“聖女の代替品”を作る。
そういう道を、あなたたちは選んだ。だから今、こうやって土の上に這いつくばってるの」
リセリアの魔力が、静かに震えた。
光でも闇でもない、透明な力が遺体に染みこみ、
数秒後にはその“器”が灰となって崩れた。
「──二度と、私の名前を利用しないで。死者のふりをするのも、勝手に作り替えるのも。全部、赦さないから」
沈黙。
村の空気が張り詰める。
そしてリセリアは、あくまで平然と、あくび混じりに告げた。
「さ、ひと仕事終えたし。今日のお昼寝、三時間延長ね」
ルークがそっとお茶を差し出した。
「どうぞ、リセリア様。新しく摘んだカモミールです」
「よくできました。今日だけ特別に、“お疲れ様”って言ってあげる」
気だるい毒舌聖女は、今日も世界の“歪み”を癒やしていく。
――本気を出すつもりなんてないのに、いつの間にか“中心”に立ってしまう。
それが、彼女という存在だった。




