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第2話: 田舎でハーブを摘んでたら、竜の巣を丸ごと癒やしてしまった件

 「……うん、今日も平和。よし、働かない」


 


 朝の陽光の中、森の奥の薬草畑で、リセリアは全力で寝転んでいた。


 


 「いいですね、薬草は。人間みたいに裏切らないし、文句も言わない。癒されますね……」


 


 そう呟きながら、右手で自分の作ったハーブピローをポンポン叩き、頭を沈める。


 草木の香りに包まれたこの森での暮らしは、彼女にとってこの上なく快適だった。


 


 ――ああ、もう一生ここでゴロゴロしていたい。


 


 「人間界とか文明とか、ほんと余計。ていうか、私に頼ってくる奴らは総じてロクでもない」


 


 彼女は“口が悪い”。


 そして“働くのが嫌い”な自称ぐうたら聖女である。


 ただしその魔力適性は、世界最上級。

 しかも無自覚でとんでもない魔力を周囲に漏らしている。


 


 「……さて、昼寝の前に、あそこの薬草だけ回収しておこうかな」


 


 重い腰を上げて、ふらふらと歩き出す。


 


 が。


 


 次の瞬間、空が一瞬暗くなった。


 


 「ん? え、なに、曇った? いや……違う」


 


 ゴゴゴ、と地鳴り。森が揺れる。木々の上を巨大な影が通り過ぎた。


 どこかで見覚えのある赤黒い鱗。

 何百年と生きる古竜種――


 


 「……ああ、また来たか。先週と同じ個体?」


 


 リセリアは頬杖をつきながら、空を見上げた。


 


 ドォンッ!!


 着地の衝撃で地面が割れ、古竜が彼女の前に膝を折る。


 


 「聖女リセリア殿! どうか……我が主の病を癒していただけないか!」


 


 背には、深紅の鎧をまとった騎士――いや、竜族の王子と思しき男が横たわっていた。

 息も絶え絶えで、瘴気に包まれている。


 


 「……はぁ。だから、言ったよね? “後悔する”って」


 


 リセリアはがしがしと頭をかき、面倒くさそうに立ち上がる。


 


 「まあ、ここで死なれたら、薬草が汚染されるし。

 “環境保全”のために治療しときますか……ほら、寝かせて。ベッドじゃないけど、草は柔らかいよ」


 


 竜王子が地面に下ろされると、リセリアは無言で右手を彼の額に当てた。


 


 光も音もない。ただ“空気が澄んだ”ような感覚。


 瘴気が、音もなく溶けていく。


 


 「……あー。これは、人間の呪詛と魔族の毒が混ざったタイプね。

 手間だし、体内構造ごといったんリセットしよ。はい、深呼吸して。死なないから」


 


 数秒後――。


 


 バチィッと空気が弾ける。


 竜王子の体が淡く発光し、皮膚の下から毒素が押し出されていく。


 


 「……終わった。じゃ、私は昼寝の続きがあるので。お大事に」


 


 リセリアがくるりと背を向けようとした瞬間、竜王子ががばっと起き上がった。


 


 「命を救ってくださった……これは“聖女”の域ではない。

 貴女は、伝説に語られる“癒しの賢者”そのものだ……!」


 


 「……そう。じゃあその伝説に“寝てるときに呼ぶな”って書いといて」


 


 まったくもって感動の余韻を無視した、塩対応だった。


 


 しかしそれでも、竜王子は恍惚とした目で彼女を見つめ続けた。


 


 「……貴女に……忠誠を誓っても?」


 


 「遠慮しとく。めんどいし。あと、誰かに跪かれるとくすぐったいから」


 


 リセリアの“毒舌+気だるさ”は、今日も絶好調だった。


 


 ──ただし、村の薬草が育ちすぎて「神木」と間違われるほど成長していたのは、

 彼女の魔力が知らぬ間に、森のすべてを癒やし、強化していたからだった。


 


 それに気づいているのは、まだ彼女以外の数名だけだった。

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