第17話 :“聖女の継承戦”が突然中止?神殿が燃えたのだけれど
継承戦・第五戦前夜。
静まり返った神殿街に、突然──爆音と炎が響き渡った。
「緊急報告! 聖女第一神殿、第三礼拝堂から火の手が──!」
騎士団、神官、巫女たちが慌ただしく走り回り、鐘の音が城下に鳴り響く。
燃え盛る建物からは黒煙が立ち上り、空さえも赤く染めていた。
リセリアは、夜着のまま神殿の廊下を駆け、ルークとともに炎上する区画へ向かった。
「これは……ただの事故じゃないわね。魔力の燃焼反応、しかも属性が混ざってる」
「複属性魔法……まさか、“誰かが意図的に起こした”?」
「……ううん。“私の魔力”に似てる」
その瞬間、リセリアの頭に電流のような違和感が走った。
脳裏に“何者か”の気配が差し込む。
──リセリア、聞こえるか。
(……この声、まさか──)
「魔王、レギオス……!」
リセリアは立ち止まり、周囲の喧騒を断ち切るように目を閉じた。
思念の中で、漆黒の王が静かに告げる。
──この炎は“神側”の策だ。
お前という“異物”を、物理的に排除するための“神殿内部の粛清”。
──“バグ”が残りの継承戦を制す前に、“リセット”を選んだというわけだ。
(……ほんっと、都合が悪くなるとすぐ消しにくるのね。神様って器ちっさ)
──リセリア。お前の力の一部、“かつて私が借りた力”が、
この火災の魔力に混ざっていた。
(つまり、私の魔力を“複製”して、燃やしたってこと……?)
──否、これは“お前の魔力そのもの”だ。
“誰かが”、お前の体内から魔力を“盗んだ”──それも、ごく最近。
リセリアは、数時間前の出来事を思い返した。
神託の巫女・サーシャと接触したときの、微かな痺れ。
──まさか。
「サーシャ……」
だが考えている暇はなかった。
別の騎士が駆け込んでくる。
「報告! 焼け落ちた礼拝堂の跡から、“聖女の紋章”を刻んだ結界陣が発見されました!」
「聖女の紋章……? 誰の?」
「それが……“あなたのもの”です、リセリア様」
周囲がざわつく。
「放火の犯人?」「まさか彼女が?」「まさか魔王の──」
リセリアは一度、目を閉じてから、静かに歩き出した。
「ルーク。そろそろ“この神殿のルール”じゃ、私を裁けない時期に来てるわね」
「……全く、ですね。炎で証拠を燃やし、“神託”で真実をねじ曲げるつもりでしょう」
「でも私は、“癒し”で真実を暴く。誰が、なぜ、何のために“私を燃やそうとしたか”──」
リセリアの足元に風が巻き、花の魔法陣が広がった。
その中心に、ひとつのハーブが咲く。記憶を辿る香草・ミラリア。
「神殿の火災なんて、私が“真実ごと癒して”あげるわ」
彼女の瞳は、炎よりも静かに、しかし深く燃えていた。