第12話 :対戦相手その1、“癒しの天使”が腹黒すぎる
王都・聖女神殿。
白銀の塔と祈りの鐘が鳴り響くこの場所は、聖女候補たちが育成され、そして競い合う場所でもある。
「……ふーん。随分立派になったのね、ここも」
リセリアはふらりと神殿の門をくぐった。
かつて“役立たず”と見捨てられたこの場所に、今度は“全属性を持つ最強の聖女候補”として招かれたのだ。
──けれど、別にうれしくもなかった。
(あーあ……薬草の種、蒔きっぱなしで来ちゃった……)
そんなことを思っていると、ひらひらと白いローブを纏った少女が近づいてきた。
光のような金髪に、天使のような微笑み。
その名は、セフィーナ・リュミエール。
「まぁ……あなたが“田舎で薬草を干してるだけの落ちこぼれ”リセリア様ですのね?」
その声音は、甘くとろけるように優雅だったが──言葉のナイフは鋭かった。
「ええ、そうよ。落ちこぼれで、薬草オタクで、毒舌な暇人よ」
「ふふ……どうぞ、お手柔らかに。
でも、継承戦で“聖女の座”を争う以上、遠慮はいたしませんわ」
セフィーナは“癒し”の魔力を纏いながら、まるで舞うように立つ。
その背後には、取り巻きの神官や騎士団までもが並び、完全に彼女を“次期聖女”と信じ切っていた。
(……あー、これはアレだ。“私は清楚で無害”の顔して、
裏で神殿の資金回してるタイプね。前世でも見たことある)
リセリアは静かに、自分のハーブポーチから一枚の葉を取り出した。
すると、その葉が空中で緑と光の属性を同時に帯び、ほのかに輝く。
「リセリア様……その魔力、やはり本物……!」
「全部持ってるのは、便利だけど、うるさいのも寄ってくるから困るのよ」
セフィーナの笑顔がぴたりと止まる。
その隙を、リセリアは逃さなかった。
「ところで、セフィーナさん?
あなたが先月、他の候補に“回復過剰処置”をして入院させたって話、
本当なのかしら?」
空気が凍る。
「な、何のことかしら……?」
「“過剰な癒しは毒にもなる”。属性魔法をいじる私から見れば、
あなたの魔力は、“人を癒すため”じゃなく“従わせるため”に調整されてる」
「…………っ」
「“天使の微笑み”の裏に、“支配の計算”が透けて見えるの。
私はね、そういうの、大嫌いなの」
セフィーナが静かに魔力を高める。
だがリセリアはその場で指を鳴らすと、花の種を一粒、床に落とした。
瞬間、それが膨張し、巨大な花が咲き誇る。
中から現れたのは──
「ルーク。今朝まで薬草畑で土にまみれてたけど、呼んだら来た」
「リセリア様の召喚により、参上いたしました」
リセリアの使い魔兼従者・ルークは、聖堂の天井を突き抜けるほどの魔力を放って立つ。
「……ということで、これから一戦、お願いできる? ルークさん」
「はい。対戦相手は、“癒しを歪めた者”ですね」
セフィーナが後退し、初めて表情を歪める。
「こんな茶番……認めませんわ!」
「でも、それが現実。“癒しの天使”は、
“他人の傷”より“自分の立場”を優先してたって、バレちゃったね」
こうして、第一戦目──癒しの天使 vs 毒舌ハーブ聖女は、リセリアの完勝に終わった。