第11話:“真なる聖女”を決める継承戦に、なぜか私が推薦されてしまった
朝。
いつものように、リセリアは寝起きのまま、ハーブティーの湯を沸かしていた。
「……今日の予定。草むしり、干し作業、昼寝。それで完璧」
そんな平穏な日常に、またしても突撃してきたのは、神殿からの使者だった。
「リセリア=アルセリア様! 王都より、至急のお呼び出しです!」
その声にリセリアはうっすら目を開け、
「あー……また“勝手に始めた騒ぎ”に私を巻き込む気でしょ」と盛大なあくびで応じた。
「今回は……なんの用? 今度は誰が滑ってんの?」
使者は汗をかきながら、震える声で答えた。
「次期“聖女”を決める《継承戦》が、神託により発動されました。
五人の候補のうち、四人は神殿育ち。そして──」
「そして?」
「最後の一人が……あなたです、リセリア様」
「……は?」
リセリアは、素で固まった。
「いやいやいや、私もう“聖女”やめたよ? 干し草と会話しながら田舎暮らししてるんだけど?
今さら“真なる聖女”って、どの口が言ってるの?」
「これは……神託です。“聖なる光をすべての属性に通す者”が、新時代の聖女であると」
「……“すべての属性を持つ者”……まさか、そのために?」
思わず視線を落とすリセリア。
自分の中にある【全属性の魔力】──それは、神殿すら持て余す異質な力。
(……まさか、最初から“私”をこの継承戦に乗せるつもりで、
あれこれ動いてたわけ?)
「ねぇ、使者さん。質問いい?」
「は、はいっ!」
「この継承戦……“勝つとどうなる”の?」
「正式に《次代の聖女》として国から認定され、王族に次ぐ待遇が与えられます。
同時に、聖域に封じられた“世界の根源”へと近づく権限を得られます」
「……ふーん。で、“負けたら”?」
「他候補の支持者に魔力を奪われ、資格を失います。最悪、廃人に……」
「なるほど、エグいな。さすが“神の選別”、言葉はキレイでもやってることは戦争」
リセリアはため息をつくと、ティーカップにハーブティーを注いだ。
「……まあいいよ。寝不足でイライラしてたとこだし、
“自称・聖女様たち”に、ちょっと毒でも吐いてくるわ」
そう言って、彼女はゆるく笑った。
それは──戦う覚悟ではなく、片付ける気”の笑みだった。






