第10話:“勇者パーティ”が戻ってきたけど、謝罪に来たのは使い魔でした
朝の光が差し込む村の薬草小屋。
リセリアは干したラベンダーの束を抱えながら、いつも通りあくびをかみ殺していた。
「今日こそは……昼寝三時間コース、行ける……はず……」
そう呟いたときだった。
「ぴぴっ!!」
不意に、窓の隙間から一羽の小鳥が飛び込んできた。
真っ赤な羽根に魔力の光を帯びた、魔法生物──契約使い魔。
「……この魔力……懐かしいね。で、どの面下げてきたの? “勇者さま”」
リセリアはラベンダーを机に置きながら、ため息をついた。
使い魔は一枚の小さな封書をぽとりと落とす。
そこには、見慣れた文字──勇者レオンの筆跡だった。
《聖女リセリアへ。
俺たちは、あの日……君を見捨てた。
“回復魔法しか使えない”と決めつけて、仲間外れにして。
本当は気づいていた。君の癒しが、どれだけ俺たちを支えていたか。
でも、それを認めるのが怖かったんだ。
どうか、許してほしい──とは言わない。
ただ、もし、君がどこかで“幸せ”に笑ってくれているなら。
それだけで、俺たちは……》
そこまで読んで、リセリアは封筒を机に放り投げた。
「……ほんと、都合のいい話。
私が“世界で最強の癒し手”になった途端にこれ?
“使い魔だけ送って様子見”とか、情けないにも程がある」
使い魔は小さくぴぴっと鳴きながら、首をかしげる。
「まあ、でも。こいつは悪くないわね。メッセンジャーとしては優秀よ」
リセリアは棚から干した薬草の小束を取り出し、それを使い魔の足に結びつけた。
「これは“高位疲労回復薬”。本物の回復魔法の成分入り。
……ちゃんと届けなさい。あんたたちが“自分の非”に本気で向き合ったら、
今度は直接会ってあげてもいいから」
使い魔は嬉しそうに羽ばたき、空へと舞い上がった。
その背中を見送りながら、リセリアは小さく呟く。
「許すか許さないか、決めるのは私。
でも、“切り捨てた側”が、何を差し出すのかは見てやるよ」
ふと、傍にいたルークが尋ねた。
「リセリア様、本当に……会ってあげるつもりなんですか?」
「うーん、どうしよっか。たぶん……会ったら、また皮肉しか言えなくなるし。
でも──“私の人生”の続きを、ちゃんと見せてあげるのも悪くないでしょ?」
気だるげに笑いながら、リセリアはお茶を注ぐ。
かつて見捨てられた“無能な回復役”は、
今や魔王と神をも超える力を持ちながらも──。
どこまでも、普通に、ゆるく、今日も生きていた。