第1話: 回復魔法しか使えないからって、勝手に追放しないでくださる?
「リセリア=アルセレイン。貴様に、これ以上の聖女の資格はない」
玉座の間に響く冷たい宣告。
前に立つ神官長は、まるでゴミを見るような目で彼女を見下ろしていた。
「──で?」
リセリアは無表情に首を傾げた。
白銀の髪を揺らし、透き通るような青の瞳で神官長を見返す。
「それが、わざわざ“追放”という名目で私を吊し上げた理由ですか?
聖騎士団の坊やたちが風邪を引いても治せないのは、そっちの管理不足でしょうに」
「貴様……っ!」
神官長の顔が赤く染まる。怒りと羞恥が混ざったそれは、彼女の毒舌に効いている証拠だ。
「第一、私が“回復魔法しか使えない”ですって?
ええ、確かに攻撃魔法は撃ちませんわ。殺したくないので。
でも回復魔法で“肉体ごと再構築”してやれば、敵の呪いごと体内から剥がせますけど、試します?」
ざわっ……と、場がどよめいた。
王や貴族たちの顔が強張る。
リセリアの“能力”が、ほんの一端だけ漏れた瞬間だった。
「なにか都合が悪いんでしょう? 私がいると。
ああそうか、あなた方のやってきた“毒の濫用”とか、“呪詛の実験”とか、
ぜーんぶ、私が見破っちゃうからですね。困りますもんね、悪行がバレるの」
神官長が剣を抜く。
「黙れっ、この口の減らない女が──!」
リセリアはため息をつき、くるりと背を向けた。
「はいはい。口の減らない“だけ”の女を、怖くて追い出すのね。
なら遠慮なく。私、荷物まとめてさっさと出ていきますわ。
でも後悔しないでくださいね? 私、二度と助けませんから」
ピシィ、と空間が鳴った。
魔力がわずかにうねる。だが誰も気づかない。
彼女が“全属性の魔力適性”を持ち、それをいま封じていることに。
数日後、辺境の村。
リセリアは草の上に寝そべって、薬草を乾かしながら、ぐうたらとつぶやいた。
「静かで結構。面倒な人間もいないし、薬草は育つし。最高。
──まあ、また“変な使者”でも来なければ、ね」
その数秒後。
空から竜が降りてきて、彼女の前に頭を垂れる。
「聖女リセリア殿……どうか、我が主の命を癒していただけないか!」
「……だから言ったのに。“後悔する”って」
こうして、毒舌聖女の“癒しだけで世界を変える旅”が、始まった。