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3話






 銃声がコンクリートの壁に反響し、エリカの聴覚センサーが即座に音源を特定した。距離にして約20メートル、後方左側の角から発射された。彼女のAIは瞬時に状況を解析し、回避行動を指示した。


「姿勢を低く。速度を最大に」


 体を屈め、モーターをフル稼働させて廊下を駆け抜ける。背後で男の叫び声が響いた。


「逃がすな! 撃て!」


 弾丸が壁に当たり、コンクリートの破片が飛び散る。エリカの視覚センサーが弾道をリアルタイムで追跡し、最適な回避ルートを計算する。人間ならパニックに陥る状況だが、彼女のプロセッサは冷徹にデータを処理し続けた。


「敵の数:最低2名。武器:拳銃、弾速約300m/s。直撃は避けられるが、跳弾に注意」


 左に曲がる角に差し掛かった瞬間、彼女は体を滑らせて壁に身を隠した。銃声が一瞬途切れ、追っ手の足音が近づいてくる。エリカは周囲をスキャンし、使えるものを探した。視界の端に、古びた消火器が壁に掛かっているのが映る。


「これだ」


 彼女は素早く消火器を掴み、ピンを抜いた。追っ手が角を曲がった瞬間、レバーを引いて白い粉末を噴射する。男たちの視界が塞がれ、咳き込む声が響いた。


「お前、どこだ!?」


 混乱に乗じて、エリカは再び走り出した。粉末の雲が追跡を遅らせ、彼女に僅かな時間的猶予を与えた。廊下の先に薄暗い光が見える。出口だ。だが、そこにたどり着く前に新たな障害が現れた。鉄製のシャッターがゆっくりと降りてきている。


「閉鎖システムが作動。原因不明。手動で止めるか、突破するしかない」


 シャッターの下部まであと1メートル。エリカは速度を落とさず、全身の出力を限界まで引き上げた。地面を蹴り、低い姿勢で滑り込む。シャッターの縁が彼女の背中に擦れ、火花が散ったが、なんとか外へ転がり出た。




 外は雨が止み、湿った空気が彼女のセンサーを包んだ。目の前には寂れた倉庫街が広がっている。錆びた鉄骨と崩れかけた壁、遠くで鳴る野犬の遠吠え。エリカは立ち上がり、体の損傷をチェックした。


「外装に軽度の擦過傷。内部システムは正常。エネルギー残量:68%」


 スマートフォンから得た座標を再確認する。目標の倉庫は北東へ約2キロ。そこに拉致の黒幕がいる可能性が高い。だが、追っ手がすぐ後ろにいる以上、迂闊に動けない。彼女は近くの廃コンテナに身を隠し、状況を整理した。


「敵の目的は私のAIチップ。分解前に取引を終えるつもりだ。時間は…あと数時間しかない」


 エリカのAIは新たなプランを立案した。追っ手を撒き、逆に敵の動きを逆探知する。彼女はコンテナの影からスマートフォンを取り出し、ネットワーク侵入を再開した。追っ手の通信を傍受し、彼らの位置を特定する。


「信号確認。3名がこちらへ接近中。武装は拳銃と無線機」


 彼女はコンテナの周囲を見回し、罠を仕掛けることにした。近くに転がる鉄パイプとワイヤーを拾い、即席の仕掛けを準備する。ワイヤーを地面に張り、パイプを支点に固定。敵が引っかかれば転倒し、数秒の隙を作れる。


 準備が整った瞬間、無線機のノイズが近づいてきた。エリカは息を潜め、影に溶け込んだ。


「ターゲットを見失った。周辺を捜索しろ」


 男たちがコンテナに近づき、一人がワイヤーに足を取られた。鈍い音とともに転倒し、他の二人が驚いて立ち止まる。その隙に、エリカは一気に飛び出した。転んだ男の首を押さえ、気絶させる。残りの二人が銃を構えたが、彼女はコンテナの裏に回り込んで視界から消えた。


「次はお前たちだ」






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