悪夢の先
嫌な夢を見ていた気がする。
嫌いな上司にこき使われ、使い潰された夢だ。
最期は体が動かなくなり、呪いの言葉を吐くこともできず、無力を嚙み締めるだけの人生だったような気がする。
だが、それは夢だ。
夢のはずだ。
だって、あんな状態の人間が、こんな落ち着いた状態のわけがない。
今の俺は、穏やかで落ち着いている。体がボロボロの人間とは違うのだと、直感的にわかる。
だからあれは、ただの悪夢だったのだ。
俺は夢から覚めようと、目を開けようとした。
は?
だが、そんな俺の意思に反し、まぶたが開かない。
いや、まぶたの感覚が無い。
混乱する思考は、とにかく動けと体に命令する。
だが、体は動かない。
夢で感じたボロボロになった自分と違い、全身に違和感はないのに、四肢に力が入らない。叫ぼうにも、声が出ているようにすら感じない。
まさか、あれは現実で、俺はもう、体の違和感を感じ取れないほど酷い状態だというのだろうか。植物人間になったかもしれない、その恐怖に身がすくむ。
閉じた目の、真っ暗闇の中にいるせいで、世界にただ一人取り残されたように感じてしまう。
独りぼっちの心は折れそうになり、泣きそうになる。
だが、そんな俺に、天使の声が聞こえた。
「あーっ! 新しい子だゆ!」
元気いっぱいな、幼い女の子。
その声をたとえるなら、聞いている俺の心に光を与えるような、恐怖を払う希望の鐘だろうか。
その温かさに自分が大人だったことも忘れ、助けを求めようとしてしまう。
助けてくれ!
そんな思いが通じたのだろうか。
声の持ち主は、動けない俺を抱き上げ。
「お花畑にようこそ! お姫様でアイドルな大天使、ぽあり♡ぽあちだゆ! 気軽に『ぽあち』や『ぽあちゃん』って呼んでね!!」
にっこりと、俺にほほ笑んだような気がした