機械神編 約束
家電を売ることに成功した俺は、ルークさんから大金を受け取った。
「こちらが円形の神硬貨五枚になります」
「ありがとうございます」
虹色に輝く五枚のコイン。
それをルークさんは綺麗な白い袋に入れ、俺に渡した。
神硬貨が入った袋はとても軽いはずなのに、なぜか重く感じる。
久しぶりだな……お金が重いって感じるのは。
絶対に失敗するなと言われたものを作り、その報酬で受け取った大金と同じぐらい重い。
「アキラ様。スマートフォンと家電の量産……よろしくお願いします」
「分かりました」
これで商談は終了。
ふぅ……なんとかうまく言ったな。
久しぶりに緊張した。
緊張感から解放された俺は、フゥと軽く息を吐く。
「さて……次はユリーナちゃんだね」
俺との商売の話を終えた後、ルークさんは商人の顔から親戚のおじさんのような顔へと変えた。
「これが……ユリーナちゃんが注文した剣だよ」
ルークさんがユリーナに渡した剣は、鞘に納められた銀色の剣。
それをユリーナは「ありがとう」と感謝を述べて、受け取る。
剣を受け取ったユリーナはどこか……嬉しそうだった。
やはり剣の女神でもあるから、剣が好きなのかな?
「あ、お代は」
「いいよ、お代は。僕からのプレゼント」
「でも」
「ユリーナちゃんの父親には色々助けてもらっているからね。受け取ってよ」
「……本当にありがとう。ルークおじさん……ところでルキアさんは?」
「……今日も行っていると思うよ。あそこに」
「そっか……」
ユリーナは悲しそうに目を細めて、俯く。
なんだ?なにかあったのか?
ルキアさん……名前からして女性……女神かな。
「ユリーナ。大丈夫か?」
「!えぇ、平気よ」
ユリーナは明るい表情で笑みを浮かべた。
明らかになにかを隠しているな。
まぁ……深く聞くわけにはいかないか。
「それじゃあ、行こっか。アキラ」
「あ……ああ」
俺たちはルークさんに軽く頭を下げた後、商会から出た。
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商会を出た後、俺たちは家に向かって歩いていた。
「よかったわね。商売……うまくいって」
「ああ。予想以上に高く売れた。まさか家電があんなに高く売れるとは」
「機械技術は聖神族にはないのよ。だからきっとルークおじさん……スマホや家電を上級や中級の神に潤んだと思う」
「下級の神には売らないのか?」
「う~ん……たぶん売れないわ」
あれ?
どうして上級の神や中級の神には売れるのに、下級の神には売れないんだ。
俺が疑問に思っていると、ユリーナが苦笑しながら教えてくれる。
「えっとね。聖神族は高い科学技術力より文化を大切にするって知ってる?」
「ああ。それは図書館で調べたから知っている。聖神族は戦闘種族で、文化を重んじると」
「そう。特に下級の神は裕福な生活ができないぶん、文化を大切にするの。そしてスマホや家電みたいな機械技術や科学技術を嫌うの」
「!どうして」
「……それは機械技術を含めた高い技術力は魔神族しか持っていないからよ」
「魔神……族?」
魔神族。初めて聞く単語だな。
「魔神族。ゴットワールド魔神界に住む私たちの敵。高い科学技術を持つ種族。色んな兵器を作り、私たちの世界を侵略しようとする悪」
「そんな奴らがいるのか」
「えぇ。魔神族は機械兵や生物兵器を作り、私たち聖神族を多く殺したの。今もそう……だから機械技術とかを聖神族は嫌っているの」
「なるほど……」
高い技術力で作られた道具によって殺されたから、聖神族は機械技術とかを嫌悪しているのか。
ん?待てよ。
「嫌っているのに、なんで上級や中級の聖神族は、俺の作ったスマホや家電を欲しがるんだ?ルークさんも高く売れると言ってたし」
「上級や中級の聖神族の中にはマニアが多くいてね。お金持ちの神は高性能な道具や便利な道具、そして魔神族が作った武器を欲しがるのよ」
「そうなのか」
地球にもそんな奴がいたな。
とても危険なものだと分かっていながら、すごい道具だからという理由で買うバカな金持ちが。
「認めたくないけど、魔神族の道具を作る能力はすごいわ」
ユリーナの声には少し怒気が宿っていた。
そしてなにかを憎むかのように彼女は顔を歪める。
「……ユリーナは嫌いなのか?便利な道具とか、高性能な道具は」
「えぇ……大っ嫌いよ」
その言葉を聞いた俺は……胸が少し締め付けられるような痛みを感じた。
「強力すぎる道具は神を不幸にする。神の心を傷つける」
「そう……なのか」
どうやら魔神族に恨みがあるみたいだな。
しかし便利な道具とかは大っ嫌いなのか。
ユリーナにそれを言われると……なんか悲しい。
そう思っていると、ユリーナは眉間に寄せていた皺を緩めながら、「でもね」と呟く。
「アキラの作った道具は……好きよ」
「え?」
「アキラが作った道具のおかげで私は助かった。それだけじゃない。家事を助けてくれる家電という道具も作った。アキラが作った道具は誰かを助ける力がある。だから……アキラが作った道具は好きよ」
微笑みを浮かべながら、優しい声でそう言ったユリーナは……まるで宝石の如く美しかった。
彼女の言葉は……俺の心を温かくする。
「……ありがとよ、ユリーナ。お前にそう言われると……すっげぇ嬉しい」
「あら?もしかして惚れちゃった?」
「さぁな」
「もう……ちゃんと答えて」
「気が向いたら言う」
「まぁ、いいわ。……アキラ」
真剣な表情を浮かべながらユリーナは、俺の目を見つめる。
「武器だけは……兵器だけは作らないで」
「ユリーナ」
「アキラが作るものは誰かを助ける道具よ。決して誰かを傷つけたり、なにかを壊したりするものじゃない。それにもし武器を作ったら……アキラの心も傷つく」
「……」
俺は何も言えなかった。
確かに俺は色んな国から戦争の武器を作る依頼が来るたびに……心がすり減った感じがしていたな。
正直……もう誰かを傷つける道具は作りたくない。
「私は……アキラに傷ついてほしくない。だから……約束して」
「……」
サファイヤの如き青い瞳が、俺を見据える。
本当……俺のことをよく考えてくれているな。
ここまで俺のことを想ってくれたのは……妹以外で初めてだ。
「……分かった。約束だ」
「えぇ……」
ユリーナは微笑みを浮かべながら、俺の手を握る。
「もし約束を破ったら……いっぱい怒るから」
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