機械神編 機械兵の大軍
「あ~……痛ってぇ」
引っ張叩かれた頬を俺は手で撫でる。
すっげぇ痛かった。
流石は戦闘系の神。
手加減はしたんだろうけど、脳が揺れるかと思ったぐらい強いビンタだった。
『あれはご主人様が悪いよ。なにが貧乳はステータスだよ。馬鹿じゃないの?』
「ぐっ!」
『正直、ないわーって思った。まぁ恋愛経験ないから無理もないか」
「い、いや……恋愛経験ないなんて決めつけんなよ」
『じゃあ聞くけど……あるの?』
「……ないです」
『ほらね』
くっ、こいつ……今、鼻で笑いやがった!
クソ……サポート能力を向上させるために、学習能力や感情プログラムとかを超高性能にしたが、失敗だったか?
というかマスターに対して、言いたい放題だな。
『とりあえず今すぐにでも謝ってきなよ。恋愛経験ゼロマスター』
「なんだよ、そのあだ名!傷つくだろう!?」
『じゃあ、童貞野郎で』
「お前、喧嘩売ってんだろう」
流石に雪姫に怒りを覚えた時、自室に戻ったはずのユリーナが俺のところにやってきた。
「ユリーナ……さっきは…その」
とりあえず俺はユリーナに謝ろうとした。
だが俺は謝罪の言葉を口に出すことができなかった。
なぜならユリーナがとても真剣な顔で俺を見ていたから。
明らかになにかあったな。
「アキラ……今すぐこの街から避難して」
「……なにがあった?」
「機械兵の大軍が……この街に向かってる」
「機械兵って…あの時、この街を襲ったロボットか?」
「そう。一機一機が上級の女神を殺す性能を持っているの。それが……一万ぐらいいるみたい」
「!一万以上の機械兵が……この街に」
まずいな……あの時は運よく俺が倒せたけど、同じことをやれって言われたら……できない。
しかも一機だけじゃなく、一万……ヤバすぎる。
「すでに他の下級神達の街も滅ぼされているみたい。機械兵たちが来るのも時間の問題」
「……分かった。すぐ避難しよう。ユリーナも避難の準備を」
「私は……一緒に避難できない」
「……え?」
ユリーナの言葉を、俺は一瞬理解できなかった。
なにを言っているんだ?
一万以上の機械兵がこっちに向かっているのに、なにを言っているんだよ!
「なんで一緒に避難できない!」
「私が……神聖騎士だから。この街を……守らなくちゃあいけないのよ」
神聖騎士。聖神族を守り、平和を守る軍人のようなもの。
神聖騎士には命に代えてでも、魔神族から街や聖神族の未来を守らなければならないという教えがあるのは、俺も図書館で調べたから知っている。
だけど!
「死ぬかもしれないんだぞ」
「……分かっているわよ。そんなこと」
「なら!」
「でも敵前逃亡したら死刑なの」
「!!」
「それに……神聖騎士としての誇りを怪我したくないわ」
そうだ。
聖神族にとって、誇りや文化は命よりも大切なもの。
彼ら彼女達は誇りや文化を守るためなら、命を捨てる覚悟を持っている。
でも……やっぱり納得がいかねぇ。
ユリーナを……恩人が死ぬと分かっているのに見送るなんて!
俺がガリっと歯噛みしていると、ユリーナはそっと頬を撫でる。
「そんな顔をしないで。神聖騎士になった時から、こういう運命だったのよ」
「けど」
「アキラ。私はあなたに会えてよかった。とても楽しかった」
「ユリーナ……」
ユリーナは微笑みを浮かべながら、俺の目を見つめる。
俺の目を見つめる彼女の青い瞳は、少し潤んでいた。
「あなたは生きて、アキラ。そして妹を見つけて」
次の瞬間、ユリーナの足元にねずみ色に輝く魔法陣が現れた。
「時間を稼ぐから、その間に逃げて」
「ユリーナ!」
俺が手を伸ばしたと同時に、ユリーナは姿を消した。
おそらく瞬間移動の魔法を使って、機械兵の大軍がいる場所に転移したんだろう。
馬鹿野郎!
俺はなにも掴めなかった手を、強く握る。
『ご主人様……』
俺を心配そうな表情で見つめる雪姫。
「……クソ。助けに行きてぇ!」
助けに行きたい。ユリーナを。
だけど俺じゃあ助けられない。
俺は製作の神であって、戦闘の神じゃない。
助ける力がない。
……いや、
「助ける力なら……作れる!」
俺は覚悟を決める。ユリーナを死なせないために。
「雪姫……手を貸せ」
『なにをするの?』
「今から……一万の機械兵を潰す力を作る」
ユリーナが死ぬなんて絶対に嫌だ。
認めたくない。
俺が許さない!
「ユリーナ……悪いが約束を破らせてもらうぞ」
<><><><>
輝に別れを告げた後、ユリーナは魔法で転移した。
転移した場所は、宝石の如くキラキラと輝く石が転がっている荒野。
草や川はなく、ただ輝く石しかない広大な荒野。
美しいはずなのになぜか寂しさを感じさせる場所に、ユリーナは立っていた。
周りを見渡せば、武装した女神がちらほらいる。
その数……百人。
(集められたのは……これだけか)
集められた聖神族の女神は百人。
この百人と一緒に、ユリーナは一万の機械兵と戦わなければならない。
(死ぬの確定ね)
今日、自分は死ぬのだと思った時、ユリーナの頭に輝の顔が浮かび上がった。
(あれ?……なんでアキラの顔が)
ユリーナには分からなかった。
なぜ輝の顔が頭に浮かんだのか。
彼女には分からなかった。
輝と二度と会えないと思うと、どうしようもなく悲しく……死ぬのが怖いと思う自分がいることが。
(手が震える……胸が苦しい……息が上手くできない。なんで?今までも死ぬかもしれないと思った時はあったけど、こんなに死ぬのが怖いと思ったのは初めて)
今まで感じたことが無い恐怖がユリーナを支配していた時、
「みんな……集まったみたいね」
声が聞こえた。
声が聞こえた方向に視線を向けると、そこにいたのは一人の女神。
ツインテールに結ばれた炎の如く赤い髪と赤い瞳。
高級そうな服の上に羽織った真っ赤なロングコート。
そして左手に握られた赤い弓。
装備も、髪も、瞳も全てが真っ赤な彼女は自己紹介を始める。
「私はアーラ。炎と弓の上級女神。まず……あなた達に感謝するわ。この戦いに参加してくれて、ありがとう。そして……ごめんなさい。この戦いに巻き込んで」
アーラと名乗った女神は感謝と謝罪を述べた。
ユリーナ達はただ黙って……彼女の言葉を聞く。
「今日……私たちは死ぬ。間違いなくね。だけど……私達の死は決して無駄じゃない」
「「「……」」」
「私達が戦うことで、故郷の家族や友人は避難できる。守ることができる。……だから戦うわよ!家族と友の未来を守る為に!!」
「「「おおおおおおおおおおお!!」」」
ユリーナ達は武器を手に取り、天に掲げた。
これから起こるのは、死を覚悟した戦い。
だが女神達は……神聖騎士達は逃げなかった。
故郷の家族や友、恋人を守る為に……彼女達は武器を握る。
「来たわね」
女神たちの視界に、機械兵の大軍が映った。
目玉のようなカメラを不気味に赤く光らせながら、機械兵達は進行を続ける。
「全員!突げ!」
アーラが「突撃!」と言おうとしたその時、
女神たちの前に一人の男神が現れた。
「何者!?」
女神アーラは弓を構え、炎の矢を装填した。
突然現れた男神。
彼は白い装甲に覆われた機械仕掛けの鎧を纏っていた。
「嘘……なんで」
ユリーナは驚いた表情で、男神に近付いた。
「なんで……なんであなたが」
ユリーナは知っている。男神の黒い髪を。
ユリーナは知っている。男神の赤い瞳を。
ユリーナは……知っている。男神の名前を。
「なんでここにいるの……アキラ!」
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