出会い
和平と友好の証として築いたとされるアラステア王立学術院。
その魔術工学部エネルギー工学科に在籍するリアンが、エトと出会ったのは今から約3年前。
ネビュラルの国家技術士として魔力鉱物を採取していたエトが、ディーダラスにやってきたことがきっかけだった。
大陸の中で最も鉱山資源が豊かなディーダラス。いくつもの鉱山が鉱業の主力源として、多くの労働者が集まる国だ。
卸や加工前の原石を探していたエトはそこで、専門外の鉱物を前にして頭を抱えることになる。
その様子に声をかけたのが、当時鉱山で児童労働の一人であった浅黒い肌の少年だった。
「それは動力源に向かないよ。蓄積するタイプだと思う」
「えぇ!?わかるの?どっちも真っ黒で仕分けされてないのに…」
「このエリアは人手が少ないから……俺が仕分けてる」
幼い頃から鉱山で働いているという黒髪の少年は、リアンと名乗った。
子供らしからぬ落ち着いた様子で、黙々と日々の作業をこなしている。
その姿はエトが知る子供の姿とはかけ離れており、服の隙間から見える骨格は年齢を鑑みても頼りない細さだ。
それでも生きるためにはお金が必要で、細く小さな爪先が黒くなるまで日々同じ作業を繰り返す。
「すごいんだね、キミ」
「別に……俺は研磨するの得意じゃないからここにいる。他の子供たちは研磨加工が上手なんだ」
「『晶食種』」
「え?」
「鉱物を食べる種族がいるんだよ。宝石のような透明な身体の妖精?でさ。鉱山にもよく出るって聞くよ」
「……そういうのは、魔力の強い人しか見られないんじゃないの?ここにはそんな人間はいないから」
「よく知ってるね」
「突然なに……?」
ニコニコと笑顔の彼女の妙な言い回しにリアンは怪訝な顔を浮かべた。
「あたしはここに欲しいものがあって鉱物に興味がある。そして、あなたにも興味が出てきた」
「なに、言って…」
「気になったものがわからないままなんて嫌なの!あたしは欲しいものが手に入るまでここに通う!そしてあなたとお友達になりたい!!」
あっけらかんとしたエトの態度に、リアンは目を丸くした。前者はわかるが後者はまったくもって脈絡がない。
「いろいろ教えてよ、リアン」
***
エトが少年に声をかけたのには理由がある。
ネビュラルは研究が盛んな国として知られ、国の中心部になるほど有識者が多く集まっているため、後継となる人材が不可欠となってくる。
しかし最高学府の上澄みや、学を高めた者のみを歓迎するような風潮があるため、ネビュラルは人材育成よりも現場を強化するべき立場だという認識が根付いていた。
教育機関がないわけではない。その中でも研究機関と密接した、あるプログラムが存在した。
【特定の分野に突出した子供への天才教育】
該当するこどもたちを集めてデータを取りつつ、成長具合を図るというもの。
制度自体は画期的だが、それを支援する体制が整っておらず、糸を垂らすが自力で登れという実態である。
言い方は様々だが、ようは誰に言われるもなく、己の意欲と集中を失わない逸材を探し出すというもの。
合理主義のネビュラルらしい考えだ。
エトはこういった状況も跳ね除け、最年少で国家技術士として就任した。
しかし彼女のようなケースは一握りであり、大半の子供たちは脱落してしまう。そこに目をつけたのが、人材育成に力を注いでいるアラステア王国だった。
見出された子供たちは、ネビュラルからアラステア王立学術院に特待生として入学することができ、卒業した者は両国を行き来する研究者や技術者になるという双方のメリットがあった。