アンティークショップ
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ヨハネスがエトを訪れてから程なくして、リアンが学院に戻ってきた。数日に渡って開催された、鉱物の即売会は無事終了。
その後リュバン家の宝石商部門で鑑別の手伝いをしていたので、寮に戻ってきたのは昼を過ぎた頃だった。
移動費や宿泊費を負担してもらってなお、彼らはリアンに報酬をくれる。それどころか「相場で支払えずに申し訳ない」と言われたことがある。
そのかわりにと、在庫や買い付けたものの中から研究で使えそうな物を譲ってもらっている。
中にはリアンが個人的に購入する魔力鉱物の原石もあるため、ケースも含めて持ち帰る荷物はいつも重い。それらを自室に並べて満足すると、出かける準備をする。
今日まで休みの届け出を出しているので、リアンは午後から行く所があった。
行き先は歓楽街のエルツィから程なく近い閑静な場所にあるアンティークショップ。
あのヨハネスが手伝いをしている店であり何度か足を運んでいる場所だ。
「こんにちは、マダムカトレア」
「あらリアンくん!よく来たわね、待ってたのよ」
「接客中だった…?」
「大丈夫よ」
店に入ると、上品な装いの夫人__ヨハネスの叔母にあたるカトレアが出迎えてくれた。
店内には落ち着いたドレスを纏った歳の近そうな令嬢が、一人で商品を眺めていた。そういえば、店先に馬車が止まっていた気がする。
「ピーアニー嬢、ごゆっくりしていらしてね」
「えぇマダム。お気遣いありがとうございます」
カトレアは赤みがかった茶髪の令嬢にそう言って、リアンを部屋の奥へ招いた。
「本当に大丈夫でしたか?」
「いいのいいの!新作は一通り案内したもの。あの子お得意様なんだけどね、静かに見るのが好きなのよ」
座ってと椅子を促され、彼女は戸棚から何かを持ってテーブルに戻ってくる。
「預かってたもの、届いてるわ」
「ありがとうございます」
「今回のお礼だもの、気にしないでね。はいコレ」
真っ白いグローブをつけたカトレアが、ベルベット生地の薄い箱の中に、ルースケースから取り出した物を並べて行く。そこには、カットされた薄紫色の宝石があった。
「こんなにカットしていただいて…」
「預かった原石の状態がとてもよかったみたい。小さいのも作れたからおまけですって」
「ありがとうございます」
今回リアンは報酬の代わりにあるお願いをした。自分の持ってる宝石の原石を装飾用にカットしてもらうこと。
担当者には快く了承してもらい、事前に預けていたのだ。
「あとはどのデザインにする?本当にこれでいいかしら?」
「はい。壊されても困るんで、なるべく被害が少ないであろう物を…って」
「まぁ、プレゼントだっていうのに色気が無いわねぇ」
マダムが手にとって並べられて行くのは、ケースと時刻円盤とチェーン。これらが合わさって完成するものは懐中時計だ。
リアンはセミオーダーでパーツを選んでもらっている。
「これくらいでいいんですよ」
「私は会ったことないけど、ヨハネスから話は聞いたりするし。とってもチャーミングな女の子みたいね。選び甲斐があったわ」
「俺、ヨハネスみたいにセンスないですから……マダムにセレクトしてもらえてよかったです」
「まぁ、さすが年上の扱いが上手ね♡じゃあこれでオーダーするわ。すぐできるから少し待っててね」
「あ、あのこれ。つまらないものですが…」
頼もしい女店主にリアンは安心すると、手土産の紙袋を差し出した。
「ディーダラスの茶葉です」
「んもう!リアンくんったら抜群にセンスが良いじゃない!!あんまり流通してないから、頂くしかないのよ。ありがとう、とっても嬉しいわ」
「俺も好きなので、喜んでいただけて嬉しいです」
「時計出来上がるまでお茶が飲めそうね。そうだ!」
何か思い立ったようにマダムは立ち上がると、店内に戻って行く。ドア越しで何かマダムがハイテンションで話している声が聞こえるが、くぐもってよくわからなかった。
すぐにドアが開かれ、リアンは呆気に取られる。
「お茶誘っちゃった!3人で飲みましょう!」
「あのう……お邪魔します」
そこにいたのは、先ほど店内で顔を見た令嬢がマダムに押されておずおずと頭を下げた。




