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星を見つける【完】続編あり  作者: 壱原 棗
星月夜の記憶
10/20

おしえて

 月明かりが綺麗な空は心地いい夜風も吹いてきて星を見るには最適だ。

 ずっと昔、エトはこうして星を眺めた気がする。それを鮮明に覚えてはいないが、同じように夜空を見ると不思議と心が落ち着いた。


 整地された中庭の噴水に腰掛けて、遠くに虫の声を聴きながら、嫌なことを忘れようと目元に溜まった雫を鼻歌で誤魔化す。


 プログラムの成功者が次の適合者を探してきたというのに、相変わらず周囲の風当たりは強い。

 数多くいるネビュラルの知識人の中で、エトは年齢も経歴も飛び越えて国から資金を受けている。それだけでも異例の存在であり、その立場になれない研究者からのやっかみを受けることもある。


『アメルスくん、君はあの子をどうするつもりだね?』

『成人して間もない君が、子供の世話をできるとはとても思えんのだがな』

『また思いつきは困るんだ。研究費が減るぞ?他人の人生に責任が持てるのか?』


 実績はできても、周囲から信用を得るには至っていない。歳も、お金も、何も頼りない。

 技術だけが一人前になって、ここまできてしまった。


「Twinkle twinkle little star♪」


 連れ出してくれた『先生』に、今の自分は輝いて見えるだろうか。__それとも


「あなたは一体何者なの?♪」


 今になってそう、問われているのだろうか。

 何者かに、なれたのか。

 誰も応えない静寂に、背後の水の音だけが響いた。



「エト」


 物思いにふけっていると、近くから名前を呼ばれた。声の方には、自分が連れてきた黒髪の少年が立ちすくんでいる。

 気づかなかったほどに、考え込んでいたらしい。


「リアン?どうしたの、こんな時間に…」


 眠れなかった?と頬に触れようとする前に、ぎゅっと強く結んでいたリアンの唇が動いた。


「……これ」

「え?」


 目の前にずい、と何かが差し出され視界がぼやける。

 すぐに焦点が合うとそれは、細くて淡い紫色の花びらをつけた、円形状の小さな花が両手いっぱいに包まれていた。


「お花?」

「いつも行く場所に植えてあって。ダメなのはわかってるんだけど、どうしても見せたくて……」

「くれるの?」


 花を包む手に少し力が入る。腕を突き出したまま下を向いているリアンの頭がこくんと頷かれた。その様子にエトの頬が緩む。

 普段口数の少ない彼が、少し焦った様子のまま必死で何かを伝えようとしている。

 エトはその花を受け取った。


「ありがとう。嬉しいなぁ」

「この花を見たとき、エトの色だと思ったんだ」

「え?」


 受け取ってくれた、エトの両手をリアンの小さな手が掴む。

 それを花ごと引っ張り自分の額に当て、リアンは縋るように呟いた。


「……泣きたくなったら俺にも言って」



 __だから、黙って泣かないで。



 これはわがままだ。

 ただの、子供のわがまま。

 そう思われても構わない。



「エトの考えてること、俺にはぜんぶ分からない。でも……楽しいことや悲しいことはちゃんと教えてほしい」

「……」


『いろいろ教えてよ、リアン』


 __そう言ったのは、あなただ。



 顔を上げて花越しに彼女を見据える。エトは呆然とした表情のまま目だけが散っていた。




「……ぁ」


 ポトリと、星が溢れて降ってきた。

 月明かりで幻想的に光を映す星雲のようなエトの瞳から、止めどなく降り注ぐ。


「あ、あた…しっ」

「……うん」

「悔し、かったの!」

「うん」


 エトは肩を震わせてそう言った。

 目の前に立つリアンに両手を取り上げられたままで、涙を拭うことが叶わない。子供の力に抵抗せず、はじめて声を上げてすすり泣く。


「好きなことをしてきたはずなのに、自由にできない……」

「うん」

「リアンに何もしてあげられてない」

「エトが連れ出してくれたよ」

「それだけじゃ……ダメなのっ!」


 ずっと静かに相槌を打っていたリアンが異を唱えた。それでもかぶりを振って声を上げる。


「…リアンの後ろ盾になれないって。あたしじゃダメなんだって…!!」


 エトは守ってもらっていたのだ、ずっと。

 しかし、今の自分では守る力もないという事実を突きつけられる。


「だからリアンは……あたしじゃない方が……!」

「エトが!!」

「!?」


 遮るようにリアンが声を張った。この子も大きな声が出せるのかと、エトは頭のどこかで冷静になる。

 くい、と腕が引っ張られて琥珀色の瞳と視線がぶつかった。


挿絵(By みてみん)


「エトが、連れて行ってくれるんでしょ?だったら俺はどこまでも着いていくよ」


 互いを掴んで繋ぐ手から、交わる視線から、震えとなって不安が伝わる。

 言わせて、しまった。こんなに優しい子に。

 一刻も早く、それを取り除いてあげたい。覚悟を決めろ。


「……うん、ごめんね」


 わずかに震えるその手を今度はエトが自分の元へ引き寄せる。ふわりと花の香りがした。

 目を閉じて、まだ止まらない涙は知らないふりをして。息を吸い込んでから、誓うように言葉を紡ぐ。


「連れてく。……一緒に、行こ」


 たとえ今は頼りない光だとしても。

 それでもあなたが望むなら。

 その先の光となって。

 あなたが1番輝ける場所へ、連れて行こう。

続きは明日の18時に更新します

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