俺と妹と幼馴染の魔女戦争
この世には科学でも解明できないものが山程あるし、その1割はどんなに科学が進歩しても解明不可能だと、どこかの科学者が講演の大観衆の前で言っていた。確かにそうかもしれない。
しかし、俺はいずれ謎は解かれていくだろうとは思っている。いや、そうしなければならないだろう。そんなことを考えている原因は俺の妹と幼馴染にあった。
なぜなら俺の妹と幼馴染は魔女とサイキッカーだからだ。
◆◆◆◆◆
中津宮学園ミステリー研究会。俺たちが所属する部活動で、主な活動はこの世に存在する不思議な物事を調べたりすることだ。とはいえ一介の学生にやれることはかなり少なかったりする。
「レイト! この廃病院に探検しに行くわよ!」
俺の幼馴染である春川ひまりが印刷したウェブ記事を貼り付けたホワイトボードにレーザーポインターを突きつけた。
「おいおい、この廃病院に不法侵入するつもりか?」
俺はツッコミを入れたこの廃病院は誰かの私有地のはずだ。
「お兄ちゃん、尻込みする気? ひまりさんがやる気満々なんだから探索する以外に選択肢はないよ……」
俺の妹、麻美が諦観のこもった表情で俺を見た。その表情に俺は弱いのだ。
「しかし、こんな山の中の廃病院に何があるんだ?」
「知らないの……廃病院を彷徨う幽霊に会いに行くのよ!」
「幽霊ね……カーテンの影の見間違いじゃないのか?」
「まさか、ちゃんとブログでは手のようなものが見えたと書いてあったわよ」
ひまりは力説した。やれやれ、ひまりの目は情熱に燃えているようだ。まったくその情熱を勉学に向けてほしいものだ。
「レイト、失礼なこと考えてない?」
「何も考えてないぞ」
俺はひまりの視線をそらした。
「とにかく、今度の週末は廃病院に潜む幽霊の謎を探りに行くわよ!」
どうやら廃病院探索は避けられないようだ。
◆◆◆◆◆
週末の午後、俺たち中津宮学園オカルト研究会は廃病院の探検に自転車に乗り付けてやってきた。廃病院はいかにも何かが出そうな雰囲気で俺は帰りたかった。
「レイト、何ビビってるのよ! 幽霊なんか怖くないわ!」
「いや、普通に怖いし……」
「覚悟決めよ……お兄ちゃん?」
麻美は俺の肩に手を置いて諦観した顔で見つめていた。
「そうよ……麻美ちゃんもこう言っているのよ。いい加減覚悟を決めなさい」
二対一では俺の完全に不利だ。俺はひまりに従う以外に道はなかった。
廃病院は薄暗く、いかにも何かが出そうな雰囲気だった。俺は心の中で何も出ないことを祈りながら先頭をゆくひまりについていった。
俺の後ろでは事前に準備したハンディカムで麻美がオカルト研究会の様子を撮影していた。ちゃんと記録に残しておく精神は素晴らしいがお兄ちゃんのへっぴり腰ぶりが記録されるのはマジでやめてほしいと思った。
「なかなか幽霊が見つからないわね……この春川ひまりを畏れているのかしら?」
「今日は幽霊が調子が悪いんだよ。きっとそうに違いない」
ひまりは幽霊に会えなくて不満そうだった。しかし、俺はこのまま何も起こらないことに賭けていた。頼むから幽霊なんて出ないでほしい。死者は生者を煩わせるな。そんなことを考えていた。
「ウワーッ!」
何も出ないことを祈るささやかな俺の願いは、どこからともなく廃病院に悲鳴で消え去った! ひまりの瞳が輝きを増した!
「みんな、悲鳴の方に向かうわよ!」
ひまりは悲鳴が聞こえた方向に走り出していった。俺と麻美は急いでひまりの後を追いかける。なんて速力だと俺は思った。
「助けてくれ!なんで怪物がこんな廃病院にうろついているんだ!」
わめき声がどんどん大きくなっていく。気分は最悪だった。近づきたくないがひまりをフリーの状態になるので進まざるをえなかった。
ようやくひまりに追いついたときには恐怖に怯えるホームレスと春川ひまりの姿があった。
「落ち着いて!あなたの見た怪物の正体を教えてほしいの!」
「あっ、あれは地獄から這い上がってきたロブスターだ!」
ホームレスが狂ったように叫んだ直後、ホームレスの胸に赤い針が突き刺さった! あまりの衝撃的な光景に俺は唖然とするしか他になかった。
「ククク……逃げるからこんなことになったのだ」
暗がりから地獄の底から響く声が聞こえた。甲殻類を連想される外見、腕には巨大な鋏。まさにロブスターだだった。そして俺の姿を見るなり笑い出した。
「今日は獲物が多くて助かるぜ。ここ最近は魂を食べてないからな、食えるときに食うに限るぜ」
最悪だった。非科学的な存在が俺の目の前に現れたのだ。
「この廃病院に潜む怪異の正体は悪魔だったのね!」
ひまりは怪異の正体は悪魔だと気づき戦慄した。
「お兄ちゃん……危ないから下がっていてね」
麻美は危ないから下がっていろと俺に促す。普通は逆だよなと思った。
「悪魔め! 許さないわ!」
ひまりは懐からマジカルステッキを取り出した!
「これは! マジカルステッキ!」
悪魔はマジカルステッキを見て驚愕した!
「貴様ら魔女か! なぜこんなところにいる!」
「うるさい! 悪しき悪魔め魔界に帰りなさい!」
「人間界は魂が食べ放題だ……誰が帰るかってんだ」
埒が明かない!
「ならば送り返すまでよ!マジカルショット!」
星型の魔法弾をひまりは悪魔に向けて放った!
「おっと危ない」
悪魔は危なげもなく星型の魔法弾を回避すると俺を見た! 嫌な予感がする!
「さて、貴様の魂はどんな味がする?」
「ヤメローッ!」
俺は悪魔の底冷えする声に震え上がった!悪魔は俺をねらっているのだ!
「お兄ちゃんに触れるな!ヴィジョンレーザー!」
麻美の目からレーザーが放たれ悪魔を襲う! 不意打ちで悪魔はのけぞった!
「貴様、何者だ!」
悪魔は声を荒らげた!
「私はサイキッカー、悪魔なんかにお兄ちゃんは手を触れさせないわ」
悪魔の怒りのボルテージが上がっているのを俺は感じた!
「ククク、3人まとめて殺してやるわ!」
「そうはさせない!」
ひまりはマジカルステッキから魔法弾を発射、麻美がサイキックで魔法弾を悪魔に誘導した!
「なんだこの軌道は!」
悪魔は魔女とサイキッカーの共同作業に驚愕した!予測不能な軌道を描く魔法弾は悪魔は回避できず命中した!
「グワーッ!」
悪魔は少なくないダメージを受けた!
「悪魔よ!魔界に帰りなさい!マジカルスターライト!」
ひまりがマジカルステッキを降ると大量の星型の魔力弾が悪魔を襲う!
「グワーッ! おのれ魔女め!今度あったときはただではすまさん!」
断末魔の叫びを上げて悪魔は魔界に強制送還ざれていった。俺は安堵から膝から崩れ落ちた。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
麻美が俺に駆け寄ってきた。
「腰が抜けただけだ……」
俺は力なく答えた。
「レイトがこんなんじゃ探索できないわね……帰るわよ」
ひまりは俺の状況を見て探索不可能と判断したらしい。これでやっと帰れる。俺は安堵した。
「廃病院は日を改めて探索するわ」
こうして俺たちの廃病院探索は幕を閉じたのであった。
◆◆◆◆◆
この世には科学で解明できないものが多々ある。それは魔界からやってきた悪魔や人知を超えたサイキッカーとかだ。俺は正直関わり合いになりたくない。しかし、運命は俺をオカルトに関わらせようとする。なぜなら、俺の幼馴染と俺の妹が魔女とサイキッカーだからだ。