二次創作の小説を書いてることがバレて、研究室の先生に迫られて書いたファンタジー
【プロローグ】
風が吹きすさぶ赤い荒野に立っていた。僕は一人歩いていく。一体どこまでこの荒野は続いているのだろうか。
「ゴホッ…ペッ、ウエッー…。はぁ~…。」
乾いた地面から巻き上がる砂埃が喉や目に入りこみ、思わず涙が出る。口に入った砂をつばと一緒に吐き出す。ひどい環境だ。
砂嵐が過ぎ去った後、顔についた砂を袖で拭ってからうつむいていた顔を上げる。はるか遠くを見れば、大きな岩山がある。あそこまでいけば何かあるだろうか。
燃え尽きた後の灰をさらに燃やすような、くすぶった焦燥を胸に抱きながら、何故こんなところを歩いているのか。僕は思い返しながら歩いていた。
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【回想】
― 国の東にある荒野には万病を治す植物があるらしい。―
そんな話を耳にしたのは、母が病気に臥せり、その生を諦めかけていた時だった。
「…君、そんな植物などありはしない。私は長いこと医者をやっているが万病に効く薬は伝説の中で聞いたことがあるだけで、実際には見たことも聞いたこともない。
…君、お母さんはもう長くはない。荒野にあるかもしれない幻想にすがるより、最後まで一緒にいてあげた方が親孝行というものじゃないかな。それに、そのせいで君が怪我でもしたらどうするんだい。荒野は猛獣がいてとても危険だ。それについて考えるのはもうよしなさい。」
母に黙って町医者の所に行って、その夢のような植物について相談したら、返ってきたのはこんな返事だった。冷静に考えればその通りだったので、その場では黙って頷いた。
だが。至極真っ当な忠告を得たのにも関わらず、僕の頭はその植物のことでいっぱいだった。
そんな植物はないのか。いや、もし…本当にあったら、母が助かる。誰も信じられないなら自分で探すしかない。
そう、藁にもすがる思いで僕は幻想を信じた。例えそれが間違っていようが後悔はない。それは間違っているように見えるかもしれないが、僕にとっては信じられる最後の真実なのだ。
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【邂逅】
危険と隣り合わせの移動の末、ついにそこにたどり着いた。
その岩山は近くで見ると卓上になっていて、その上へと崖を登ると荒野とは似つかないほどに植物が本もしていた。
「ここになら、あの母の病を治すという植物もあるのだろうか…。」
体に括り付けていたズタ袋を外し、できるだけ多くの種類の植物を持って帰ろうと決意をする。
一先ず、近くにあった植物を手折ろうとすると、どこからともなく突風が吹き荒れた。風が唸り越えを上げて木々や草の葉を揺らす。
思わず目を覆う。
音が静かになってから目を保護するために掲げていた腕をゆっくりと下すと、
そこに一匹の白い大きな体躯の狼が現れた。
「この神聖な土地に何故立ち入った。何人たりとも神の領域に来ることは許されておらぬことは知っておるだろう。なに、知らぬではすまされぬ。代償を払え。」
白い大きな体躯の狼は低く風が唸るような声で、人間など人のみにできそうな大きな牙が見える口からそう告げた。
神…?夢でも見ているのか。狼がそんなことを言い出すとは、どうやら荒野を歩き通して疲れ果ててしまったらしい。
「知らなかったのです。許してください。」
よくわからないが、誤っておこう。とりあえず謝れば許してくれるだろう。
「汝、何故立ち入った。その由次第では喰い殺すのはやめてやろう。」
唾液を垂らしながら、爛々と輝く目をこちらに向け狼は話す。どうやら、あまりいい夢ではない。
「西の街に病床に臥せた母がおりまして、この荒野のどこかに万病に効くという植物があるという噂を聞き探しに来たのです。」
どうせ夢なのだが、ここは合わせた方がよさそうだ。
「病床の母がいるとな。確かにここにはそのような植物がある。汝の事情は分かった。知らずに立ち入ったことは許そう。」
「ありがとうございます!」
やった。許された。
「だが、これ以上の滞在は許さん。何もせずすぐに、立ち去るがよい。」
衝撃が走る。頭が真っ白になった。
「ここまで来て、手に入れられないだと!何のためにここまで来たと思っている!!!」
激昂して思わず狼に怒鳴りつけた。
「そもそもここに立ち入ることこそが許されざることなのだ。命を許されただけで十分なことなのに、それ以上を求めるとは人間の何と強欲なことであるか。」
狼は呆れたように首を振る。
「神の掟だがなんだか知らないが、こちらは絶対に薬が必要なんだ。どうにか、どうにか譲ってもらえないだろうか。」
拳を握りしめて、狼に問いかける。
「ならん。」
狼はただそれだけを呟いて、息の根が止まるような大声で吠える。
「すぐに、立ち去れ!」
嵐が吹き荒れ、その岩山の上に立っているもの全てが苦しみの音を上げる。
しかし、僕は立ち去らなかった。恐らくこれは夢ではないのだろう。もし、立ち去ってしまえば、万病に効くという植物は二度と手に入らない。
岩山を踏みしめて、嵐が過ぎ去るのを耐える。
そして、嵐は吹き止んだ。
狼はゆっくりと、立ち上がり尻尾を払う。
「そうか、ならば、死ぬまで相手してやろう。」
狼は地の底から響いてくるような低い声で僕にそう告げた。
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【戦闘】
パッッアアァン
銃声が岩山に響き、硝煙が立ち上る。
外套の中に隠し持っていた短銃で狼の眉間を撃った。この荒野で幾度となくコヨーテと遭った時と同じように。
「そのような小さな武器で我が倒せると思ったか。」
狼は眉間を撃たれ、わずかに額から流血していた。しかし、それを感じさせない足取りで歩く。
次の瞬間、突風の速度で狼が飛びかかってきた。身を翻す間もなく銃を持っていた右手が宙を舞う。あっという間に跳ね飛ばされ、無様に地に尻をつく。
「せめてもの情けだ。なるべく苦しませずに楽にしてやろう。」
大口を開けた狼はそのまま、僕を飲み込み、上半身が噛み千切られた。返事をすることもできなかった。
激痛で意識が途絶えかける。
「ここで死ぬのか…」
かすれた声でつぶやく。
「死ぬならば…せめて…」
朦朧とする意識の中、左手で外套を探る。あった。使うつもりのなかった予備の短銃を震える手で握りしめる。
抜けそうになる力を振り絞って6発の銃弾を上も下も分からないまま撃ちはなった。
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【エピローグ】
小鳥の鳴き声が聞こえる。
死んでいない…?
目を開けてみると、失われたはずの右手と下半身があった。あれはやはり、夢だったのか…?
辺りを見渡してみると、目の前に光り輝くサボテンが生えていた。そのサボテンには本来赤いはずの実ではなく、黄金の実がなっていた。
「もしかして、これのおかげなのか…」
その実を含め、植物をあらかた採取して、ズタ袋に放り込み僕は岩山を降りた。街に帰ってから、その黄金の実を母にたべさせたところたちまちに回復し、今ではフルマラソンの大会に毎年参加できるほど元気になった。
再び、あの岩山に行こうとしたのだが、記憶をたどってどこを探しても、あの緑豊かな岩山は存在しなかった。一体どこにいってしまったのだろうか。