僕は周瑜様の婚約者にふさわしいかな? 2
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虞翻が登場します。
「……物分かりがいいわね。調子狂うわ」
なぜか躊躇いつつも彼女が続ける。
「だったらもっといいこと教えてあげるわ。実はね。周瑜様、この城に来る前から大喬様と」
「ぎゃぁぎゃぁうるせぇなぁ」
急に声がして振り返ると、
ばしゃん!
「きゃぁぁぁぁ!」
「道端で野良犬でも騒いでんのかと思ったら、ぶすが寄ってたかって小喬様に何の用だ?」
桶を持って現れたのは虞翻。
孫策様麾下の将でとにかく口が悪いことで有名。僕にはそんなことないんだけどね。
その虞翻が彼女たちに水をかぶせたもんだから、辺りは一面水浸し。
その水を拭いながらも、彼女たちが虞翻に反論する。
「ぶす?はぁぁあなた失礼ね!誰?」
「お前に名乗ってやるような安い名前はねぇな。ぶすにぶすっていって何が悪い」
「誰がぶすよ!」
「お前らだ、自覚ねぇのか?」
虞翻が残念そうに言い、さらに続ける。
「それにお前。化粧ごてごてに塗って綺麗になったつもりだか何だか知らんが、それ毒だぞ。落としてやってありがたいと思え」
「何よ!いちいち失礼な男ね!って毒?何が毒なのよ!」
「その白粉が毒だって言ってんだよ。水銀が混じってんだ阿保。まぁお前らみたいな蛾は自分で自分の毒喰らって死んじまったほうがいいかもな」
彼女の言葉に嘲笑って答える虞翻。
普通に注意してあげればいいのに。
虞翻、医学の知識あるからこういうの詳しいんだよね。
周泰が怪我した時も、そういう伝手で華佗っていう神医を紹介してもらったみたいだし。
「お、覚えてらっしゃい!お父様に言いつけてやるんだから!」
いって水を被った彼女が取り巻き達と一緒に去っていく。
頭からずぶぬれだから、確かに早く家に帰って着替えた方がいいかも。
それにしても捨て台詞と言い、本当に典型的な悪役だなぁなんて感心していると虞翻が話しかけて来た。
「あんな羽虫たちの言葉になんか耳を傾けたらいけませんよ。ああいう女の言うことなんて大概でたらめなんでね」
「そう?」
「全く持ってでたらめですね」
言う僕に虞翻がきっぱりと反論する。
そうかなぁ?
そんなことないと思うけど、それに、
「女性に『ぶす』とか言っちゃだめだよ。虞翻」
「どうしてです?心が不細工な奴には少しでも自覚してもらった方が、世の中ましになると思いますけどね」
至極当然だとばかりに言う虞翻。
反論しづらい。
どういっても虞翻は頭の回転は速いから、言い返したところでかえって彼女たちを傷つけることになっちゃいそうだし。
「ともかく虞翻は僕がいじめられていると思って助けに来てくれたんだよね。きっと。ありがとう」
「あいつらが小喬様に吹っ飛ばされるのを楽しみに待ってたんですが、やりそうにないんでね。飽きたんで水差しに来ました」
「水差すどころか水掛けてたじゃないか」
呆れて答えつつ、彼女が最後言っていたことが気になって伝える。
「あの子の家、地元では有名な豪族だよ。怒らせちゃって大丈夫?」
だから地元の有職者と手を組むためにも、周瑜様が自分と結婚するんじゃないかって期待していたんだろう。
けれど僕の言葉に虞翻が愉快そうに哂って答えた。
「そしたら好都合ですね。あそこは上に賄賂を贈って私腹を肥やしていたってことでも有名なんで。気兼ねなく罪状上げて牢屋にぶち込めますな。汚物処理ができて何よりです」
虞翻、言い方。
「あいつらはさておき、俺としては小喬様にちょっと聞きたいことがあって来たんですが」
いって虞翻が懐に手を入れると、取りだしたのは一羽の鳥。
「あ、その子」
「小喬様が拾ってくれたようですね。怪我をしたっていうんで周瑜様が俺の所に連れて来たんですよ」
「治療してくれたの?」
「っていうよりあれは元々俺の鳥なんで」
「そうなの?」
虞翻が鳥を飼っているなんて意外。
「鳥が好きなんだ」
「ええ、何羽か飼ってますね」
「いいなぁ。今度見に行っていい?」
「丁度食べごろの鳥がいるんで御馳走しますよ」
え?そういうこと?
可愛がってるんじゃないの?
虞翻ってたまにわからないなぁ。
つい心配になって尋ねる。
「その子も食べちゃうの?」
「これは食べるところが無いですね。伝書用です。で、こいつについて聞きたいんですが」
「よかった、で、なぁに?」
この子は食べられたりしないと聞いてほっとしながら聞き返した。
「実は怪我の具合から見て矢傷の様でね。周りに不審な人物とかいませんでした?」
「え?」
驚きながらも当時のことを思い出すが、傍に怪しい人は見なかった気がする。
「わからないなぁ。弦をはじく音も聞かなかったし、矢も落ちてなかったよ」
「ってことは遠くから狙えるほどの腕前で、しかも矢は回収されたってことですね。なる程」
言って虞翻が考えこむ。
その様子に尋ねる。
「つまりわざと落とされたってこと?」
「そういうことですね。おそらく小喬様が拾うように仕組まれたってことです」
「だからって矢で狙うなんて」
「小喬様と周瑜殿の間に亀裂を入れたい人間がいるってことですね」
虞翻に言われてさっきの女性たちの言葉を思い出す。
あの子たちに限らず、周瑜様が好きで、僕との結婚を快く思っていない人間なんていくらでもいるだろう。
そもそもこの結婚だって孫策様が勝手に決めたものだ。
手には棍棒、着ている者は男物。言動だって女の子らしくないこんな僕を、周瑜様が好きとは思えない。
あの子たちが言っていた様に周瑜様だって、本当はもしかしたら……。
「僕やっぱり女らしい恰好した方がいいかな?」
虞翻ならはっきり言ってくれるんじゃないか。
そう思って聴いてみると、呆れたように
「役立たずが最低でも一人、生成されるんで賛成しかねますね」
と、なんか変な返事が返ってきた。
どういうこと?
僕が女の子の格好しても見るに堪えないってことだろうか?
気にはなるけど、相手は虞翻だし真実を聞くのがなんだか怖いので、これ以上聞くのはやめることにした。
続きは明日夜22時に投稿予定です。