僕は周瑜様の婚約者にふさわしいかな? 1
閲覧ありがとうございます!
ちょっと婚約破棄ものっぽくしてみました。
周瑜様のことの音色があまりにも気持ち良くてそのまま眠ってしまい、気が付けば夕方。
眼を覚ますと、僕は周瑜様の部屋の寝台の上に寝かされていた。
書机の上には手紙が一枚。
『軍議があるのでまた後で』
との事。
一々手紙を置いて行くなんてマメな人だなぁ。
しかも忙しいのにまた顔を出しに来るなんて。
そういえば朝も昼も夜も必ず挨拶に来るっけ。
いくら婚約者って言っても、元々は捕虜なんだから放っておけばいいのに。
そう、僕たちは戦争に負けた側だ。
だからもっと雑な扱いでも妾でも仕方がないっていうのに、周瑜様は、
「式をきちんと上げたいから、それまで待ってて欲しい」
ということで、未だに僕たちは婚約者の状態だ。
今は戦後処理でそれどころじゃないらしい。
でもこうして都度顔を見せに来るんだけど。
寝台から降りると、先ほど周瑜様が弾いてくれた姉上の琴が眼に入る。
あの手紙を拾ってしまってから気まずかったんだけど、姉上の弾いていた曲を聞いていたら、また逢いたくなってきた。
結局誤解だったんだし、今日は姉上と夜一緒に食事しよう。
また城を出て今度は姉上の住んでいる実家の屋敷に向かう。
本当は捕虜だし城に居なきゃいけないんだろうけど、姉上は身体が弱いからと実家の屋敷にそのまま留まることにさせてもらっていた。
孫策様もそれでいいって言ってくれていたし。
実家の屋敷って言っても城下だし「姉上の所で食事する為、ちょっと出かけてきます」と書置きして城を出る。
陽が落ちて薄暗くなり、灯りの灯り始めた城下を歩いていく。
そういえば昼間はこの辺で孫権、朱然、凌統に逢ったんだっけ?
時間的にあの三人も今は食事中かな?
軍議中ってことは蒋欽周泰も軍議中かな?
なんて思っていると、
「ちょっとそこのあなた、小喬でしょ?」
声をかけられて振り返られると女の人が数人。
確か地元豪族の娘達だったと記憶している。
周瑜様たちが城下に来た時、熱心に秋波を送ってたっけ。
その後婚約者になった僕には、怨念のこもった視線を送ってきていたから覚えてしまった。
声をかけて来た
ド派手な格好をした女性を真ん中に、取り巻きの女の人達が僕を取り囲んで一斉に睨みつけてくる。
なんかよく見る悪役何とかみたいだ。
最近巷の読み物で流行っているみたいなんだよね。
女官たちがよく回し読みしていたっけ。
ってことはこの後は、
ワクワクして待っていると、ド派手な女性が手にしていた団扇を「びしっ」と僕に向かって突き付けた。
「あなた、周瑜様の婚約者にふさわしくないわ!」
「うわぁ同じ展開だ。すごい」
「?何それどういう反応?」
思わず拍手してしまった僕に、ド派手な女の人が首をかしげる。
が、
「まぁいいわ、それより」
コホン、と咳払いを一つして続ける。
「貴方のような女性。婚約者として認めませんわ」
「おおっ!」
「そもそもきちんとした教養がおありなのかしら?」
「すごーい」
「だから何なのその反応!」
読み物そのままの言いまわしで感動していたら、ド派手な女性が怒りだした。
なので素直に答えた。
「昨日城の女官たちが読んでいた読み物の冒頭の台詞に似てるなって思って」
「あー私知ってる!『悪役姫君董白ちゃんの破天荒日記』でしょ?」
「最近流行ってるもんね」
「城に乗り込んで爆弾投げつけるところとか最高よね」
「みんな読んでるんだなぁ。面白いよね」
ド派手な女性の取り巻きが急にきゃっきゃ話し出し、僕も一緒になって混じって話し出す。
と、ド派手な女性も割って入ってきた。
「だからあなた!私をおちょくってるの!」
「おちょくってないよ。っていうかもっと早くそういうの言ってこないと。普通こういうのってもっと序盤に言ってくるものでしょ?」
「序盤って何よ?あなた何なの?」
反論すると、彼女がやや混乱しつつ言い返してきた。
「大体私だってもっと早くにあなたに言うつもりで待ち伏せていたのよ。なのに普段は見張り役みたいなのがいるし、今日の昼間はいないかと思えば孫権様たちと楽しげに談笑しているし」
「あれは凌統で遊んでいたんだよ」
「……普通あんな風に遊ばないわよ。凌操様に怒られるわよ」
「そうよ。凌操様強いんだから。あなたこそ吹っ飛ばされちゃえばいいわ」
彼女の言葉に、取り巻きがやっと取り巻きらしく乗っかってはやし立ててくる。
でも凌統も言ってたけど凌統の父上、そんなに強いんだ。逢ってみたいかも?
「で、君たち僕が一人になるまで夜までここで待ってたの?暇だね。僕その間周瑜様の琴聴きながら眠ってたよ」
「あなたいちいち煽って来るわね」
僕の言葉にこめかみをぴきぴきさせながら答える彼女。
何が気に入らないんだろう?本当のこと言っただけだけど。
「兎に角!貴方は周瑜様にふさわしくないの!大喬様みたいな才色兼備の女性ならともかく、あなたのような男の子の格好をして棍振り回しているような女性。あんな完璧な男性の嫁としてふさわしいと思う?」
「思わないよ」
「そんなことを言ってもあなたなんて嫁には……え?」
「僕が周瑜様の嫁にふさわしいなんて思わないけど。孫策様が決めちゃったし周瑜様もそれでいいっていうし……」
「そうそれよ!」
一瞬僕の台詞に驚いた彼女だったけど、僕が続いて言った言葉に勝ち誇ったように彼女が言う。
「いいことあなた。周瑜様があなたを嫁にしたのは孫策様に言われたから。大喬様の妹の貴方と結婚すれば孫策様とは名実ともに親戚になれるからなのよ。その辺勘違いしないで貰いたいわ」
「だろうね。僕もそう思う」
彼女の言う通りだ。
男の人ならこんなぺったんこの胸より姉上のような美女を選ぶだろう。
だけど周瑜様は聡明な軍師だから自分の好み云々より政略的な方を選んだだけだ。
そしてそれを匂わさないように、円滑に済ませられるように、僕を大事にしてくれているだけだ。
考えれば簡単なことだ。
でも、周瑜様の傍はとても居心地が良くて、つい勘違いしそうになる。
周瑜様は僕自身が好きなんじゃないかって。
続きは明日夜22時に投稿予定です。