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恋文  作者: ひろ
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手紙の内容

閲覧ありがとうございます!

琴って一面二面って数えるそうです。


 ぱたん。


 と、扉が閉まって二人きり。

 周瑜様は改めて手にした画を見ると呆れて呟いた。


「全く。清らかな小喬の瞳になんてものを見せるんだか。小喬、これは私の方で処分したいのだがいいかい?」

「あ、はい。いいですよ」

「良かった、では今すぐ燃やしてしまおうね」


 僕の返事に、周瑜様はすぐさま画を傍にあった火鉢の中へ。

 それははそのままめらめらと燃え上がってしまった。

 そんなに嫌だったのかな?


 にしても周瑜様、僕に一体何の用があるんだろう?と思っていると、


「ところで小喬。話なのだが」 

「はい」

「小喬は手紙を見ていないと言っていたけれど妙に慌てていたし、気になったのだが」


 そういって僕をじっと見つめる周瑜様。

 こんな綺麗な顔の人に見つめられたら、流石に嘘は突き通せないや。


「あの、見るつもりはなかったんですけど、手紙が足の怪我を治そうと思って解いた途端開いてしまって。最初の方だけなんですが」

「見えてしまった、ということなんだね。怒っているわけじゃないよ。正直に話してくれてありがとう」


 言って僕の頭を撫でる周瑜様。

 本当に優しいなぁ。

 と、急に真剣な顔になったかと思うと、


「ということは誤解しているかもしれないし、いや万が一にも誤解などあってはならないし、ましてや孫策にそんな気などみじんもないし、私には断じてそのような小喬以外にうつつを抜かすなどあってはならないし、そんなことは死も同然なのだからこの件についてはきっちり話しておきたいのだが」


 一気にまくしたてる様に言った周瑜様。

 一息つくと「こちらにおいで」と僕を部屋の奥の方に招いた。


「なんでしょう?」

「これを見てごらん」


 言われて見るとそこには漆塗りの美しい琴が一面。

 しかも見覚えがある琴だ。


「これ、姉上の……」

「先日、大喬からこの手紙と共にこれを譲り受けてね」


 と言って見せてくれたのは一枚の紙。

 開いてみると、


『あなたが常日頃から見ているのは知っておりましたけれど、私にとっては手放しがたい宝です。あなたの熱意に負け、しばしの間お貸しして様子を見ることにしましたが、どうか私の愛するこの子を大事にしてください。何かあればお返しいただきます』


 確かに姉上の文字だ。

 そして、


「これは返事を書こうとした時の下書きだが、内容は小喬が見たものと一緒だよ。読んでごらん」


 言われて受け取った手紙の中身を読む。

 内容は、


『一目見た時から心を奪われておりました。私も好きです。この先も大事にすると約束しましょう』


 つまり、琴をもらってその返事だった、って言うこと?

 読んでぱっと顔を上げた僕に、その表情で察したのか、周瑜様がほっとしたような顔をする。


「最初の方だけ見ていたら誤解するのではないかと思ってね。違うかな?」

「最初というか、途中だけ見ました」

「どの辺を?」

「『私も好きです』という所だけ……」

「それは尚よくないね」


 言って苦笑して、周瑜様がその手紙を折りたたむ。


「だからさっきはあんな誤解をしたのかな?」


 周瑜様の言葉に僕がこくんと頷いて、心底困ったような顔をする。


「このような宝をいただいたのだから、返事もせっかくなら風流にと鳥に託して渡そうと思ったのだが余計なことだったね。けれど次からはそんな誤解などしないでくれるとありがたいかな」

「わかりました」


 僕の返事に嬉しそうに微笑む周瑜様。

 そして、


「せっかくだから私の琴を聞いていかないかい?小喬」

「はい!」


 言われて周瑜様が琴を弾く隣にちょこんと座る。

 懐かしいなぁ。

 よくこうやって姉上に事を隣で聞いていたっけ。

 その時は……、


「小喬、そんなにかしこまらなくていいよ」


 言って周瑜様が小さく笑った。


「いつも琴を聞く時は寝そべっていただろう?」

「どうしてそんなこと知ってるんですか?」


 指摘されて驚く。

 と、周瑜様が指先で弦を軽く弾いて「ポロロン」と音を鳴らすと、弦を調整しながら言った。

 

「さっきの手紙にも書いてあっただろう?大喬が琴を弾いている様子をよく見ていたのだよ」

「周瑜様、そういえば音楽がお好きなんでしたっけ?」

「ああ、大喬のはとてもいい音色だった。琴も素晴らしいが大喬も中々の腕前だったね。それと……」


 言って周瑜様がそのまま曲を奏で始める。

 聞いたことはない曲だけどなんだかとても落ち着く感じ。

 ゆったりとして優しい曲。

 

 僕この曲好きだな。

 なんだか心がポカポカ温かくなってくるような、でもどこか切ない感じの……。


 曲を聞いていたら気持ち良くなってきて、そのまま寝そべる。

 周瑜様もいいって言ってたしね。

 姉上が琴を弾く傍で、こうしてよく聞いていたっけ。

 

 庭が見える窓際で、風に木々が揺れて、葉が舞い散るのを見ながら、姉上の音を聞いて武芸の疲れをいやしていたっけ。

 そんなことを思い浮かべていると、


「そうやって小喬はいつも幸せそうに眠っていたね」

 

 一音も違わず曲を奏でながら周瑜様が言う。

 家柄が良くて頭脳も武芸にも秀でていて、顔はこの通り美形。挙句の果てに音楽まで文句無しって、周瑜様ってどこまですごいんだろう?

 この人に苦手な物ってあるんだろうか?

 

「君たち姉妹はとても仲がいいからね。この先小喬が私に付き従って大喬と離れた時寂しくないように。そう思ってこの琴を譲り受けたのだが」

「そうだったんですか」

「いつも大喬が弾いていた曲も教えてもらった。そっちも弾こうか?」

「お願いします」


 僕が答えると、周瑜様が先ほど弾いていた曲から上手く曲を繋いで、姉上がいつも弾いていた曲に変えた。

 その違和感のなさがすごすぎて、まるで最初からそういう曲なのかと思わせてしまう程。


「周瑜様本当に何でも出来てしまうんですね」

「そうかい?そんなことはないけどね」


 言って姉上の曲を弾く周瑜様。

 この心地よさ。

 曲の癖まで全く一緒だ。


「すごすぎて周瑜様、逆に怖いです」

「そうかな?小喬に怖がられるのは本意ではないんだがね」

「違います。そうじゃなくてあの、一応褒めてます」

「ならよかった」


 言って周瑜様が穏やかに琴を惹く。

 本当に優しい周瑜様。

 性格まで非の打ちどころないって、この人に欠点なんてあるのかな?

 


続きは来週月曜日、夜22時に投稿予定です。

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