心優しいお姫様 1
久々の投稿になりました。
蒋欽、周泰が登場します。
「小喬。また食事しにいらっしゃいね」
「うん」
「きっとよ」
「またすぐ来るよ」
「じゃぁ明日待ってるわ!」
食い気味に言ってくる姉上に「来られたらね」と言って別れる。
僕も毎日逢いたいけれど、そういうわけにもいかないわけで。
ずっと手を振って見送ってくる姉上に名残惜しくなりつつも、背を向けて門を出ると、護衛の蒋欽と周泰が僕を出迎えてくれた。
「もういいんすか?」
声をかけて来たのは蒋欽。
護衛だから当然と言えば当然なんだろうけど、でも結構長い時間待っていてくれたわけで。
それに対して今まで一度も嫌な顔なんてされたことない。
僕一応捕虜なのに、こうして自由に歩かせてもくれて、本当にいい人たち。
「待ちくたびれた……何かあったの?」
傍まで駆けよってみると「ひと悶着ありました」と言わんばかりのよれよれの二人の恰好。
その姿に反して蒋欽がいつもの調子で陽気に話す。
「さっきまで殿の護衛で来ていた太史慈殿や凌操殿と話をしていたら盛り上がってしまいましてね」
「話をしたただけで、こんな風にならないよね。あっ、もしかして凌統の件で怒られた?ごめんね」
凌操殿といえば凌統の父上だ。
あんなかわいい子供を吹っ飛ばしたら怒っていても当然だ。
そう思って慌てふためいていると、蒋欽が首を振る。
「いやそれに関しては寧ろ『もっと統を鍛え上げないとな』って笑ってましたよ。それよりも俺たちの護衛が甘すぎるとめちゃくちゃ絞られました」
「絞られたって……何されたの?」
どう見ても「敵の襲撃に遭いました!」って感じな程ボロボロなんだけど。
「いやぁ急所はちゃんと外してるんで大丈夫ですよ」
余計に心配になる言葉が帰ってきた。
「もしかして女の子たちの件かな?本当にあれは何ともなかったのに」
「……まぁ城に戻りましょうか」
何かほかにもある感じだったけど、はぐらかすように蒋欽が帰路へ促す。
僕には皆が心配しすぎな気がするんだけど、一体何があるんだろう?
逆に彼らが心配になって蒋欽に言う。
「あのさ。何があるのかはわからないけど、僕に万が一のことがあったとしてもさ、二人が処分されないように何か一筆書こうか?」
「あ、大丈夫っすよ。何かあったら俺ら即斬首なんで」
全然良くないし。
「そんな捕虜の為にそこまでしなくてもいいんだよ」
思わず蒋欽に言ったが、その言葉に蒋欽が眼をまん丸くする。
「へ?今なんて言いました?」
「そこまでしなくてもいいんだよって」
「いやその前」
「何か一筆書こうか?」
「そうじゃなくて」
蒋欽が焦った様子で頭を掻きむしる。
ただでも乱れていた髪型が更にぐしゃぐしゃになった。
「蒋欽、髪結わき直した方がいいんじゃない?」
「あの、小喬様」
「なに?」
「ご自身の立場お分かりになってるんすか?」
「わかってるよ」
「一応確認ですが、周瑜様の御婚約者様だってわかってるんすよね?」
「孫策様の勝手に決めた、ね。でも僕元はといえば戦争捕虜だし」
孫策様がこの地にやってきた時、もし姉上に危害を加える相手だったとしたら僕は命を懸けてでも戦うつもりだった。
けれど、その前に姉上に「戦わないで」と姉上から言われた。
それでも僕は暫く孫策様を警戒していた。
今まで悪い人はいっぱいいたから。
捕らえられて暫く、僕は目の前の蒋欽含めて敵意剥きだしだった。
それでも彼らはずっと優しく接してくれた。
今では心を許している。
だからこそ。
「僕の為に命なんてかけなくていいんだよ」
「そんなあなただから命を懸けて守らないといけないんですよ」
蒋欽が珍しく砕けていない口調で即答する。
弾みで髪が解け、解カラカラと音を立てて髷を止めていた簪が落ちた。
そして乱れ髪のまま僕の前に跪いて拱手する。
「お願いです。どうか命を大切にしてください。俺たちの為でもあると思って」
「う、うん。わかった」
「……お願いします」
普段無口な周泰までそういって蒋欽の隣で拱手する。
僕、そんなに変なことを言ったんだろうか?
次回はもう少し早い投稿予定です。




