矢を射たのは誰? 2
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蒋欽、周泰が出ます。
「ところで小喬様。それだけ周将軍のこと信じてるってことは周将軍の事『好き』なんすよね?」
なんか当然の確認の様に言われたけど、その横で「バカ兄貴」と周泰が小さく叫んでいた。
なんなんだろう?
そういえば虞翻もなんか変な質問してたっけ?
「周瑜様はすごい人だと思ってるよ」
「えっとそうじゃなくて。ほら、こう『周瑜様と結婚できるなんて夢みたい!胸がドキドキしちゃうわ』みたいな」
「兄貴、キモイ」
「お前、一生黙ってろ」
女の子っぽく可愛くお話していた蒋欽が、急にさっきの黒蒋欽を覗かせ周泰にドス利かせつつ言い返す。
そしてまたニコニコ顔に戻ると、僕に再度尋ねた。
「どうなんすか?」
「え?どっちかって言うと『周瑜様こんな適当に結婚相手決められて可哀想だなぁ』って感じかな?」
「……小喬様は周瑜様との結婚嬉しくないんすか?」
「嬉しいとか嬉しくないとか以前に僕には決定権ないし。周瑜様が他の人がいいっていうなら周瑜様が選んだ方に従うよ」
正直、いつ周瑜様や孫策様の気が変わっても失望しないように、あまり結婚には期待していなかった。
だって僕たち元々捕虜だし。
大事にされてるとは言え戦に負けた側だから、とりあえずなるようになるのを見守っているだけと言うか。
僕が言うと蒋欽が頭を抱えて屈みこんだ。
周泰はもう一度『バカ兄貴』って言って、蒋欽に足を踏まれている。
そして「うーん」と唸ると、再び立ち上がって僕に言った。
「さっきはああ言いましたけど。矢の件、実は俺達も軍議で聞いていたんで元々中身は知ってるっす」
「軍議寝ててもちゃんと聞いてたんだね」
「目を瞑って聞いてただけっすよ」
「目を瞑らなきゃいいのに。だから寝てるって言われちゃうんだよ」
「目を瞑るだけでも結構休めるんで」
「で、僕がうっかり誰でも彼でもこの話しちゃうんじゃないかって、さっきは心配したんだ」
僕の言葉に蒋欽が片眉を上げて見せる。
「気が付いていたんで?」
「だっていつもの蒋欽らしくないもん。それに虞翻もやけに心配していたし。きっとそのことって僕が思っている以上に重要なことなんでしょ?」
僕の言葉に返事はせず蒋欽が嬉しそうに笑う。
なのでついでに言った。
「蒋欽と周泰のことは周瑜様が決めたからって以外にも信頼しているよ。顔を出していない時もそれとなく昼夜問わず護衛してくれているでしょ?軍議で目を瞑って休んでいたのも寝てなかったからでしょ?」
「……そこまでわかってたんすか」
言うと蒋欽が優しい顔をした。
そして静かに目を閉じて、開く。
「そう言われちゃ寝不足だったからって、頭まわらなくて孫権殿と連絡取り忘れたなんて、斬首でも文句言えないっすね」
「斬首はやりすぎだよ」
「……それだけ小喬様が大事なんすよ」
言って蒋欽が僕を見つめる。
「だから結婚相手を代えるなんてないんで。周将軍を信じてください」
「うん、わかった」
「……マジでお願いしますよ」
蒋欽が妙に真剣な目をしたかと思うと、ぱっと前方に手を差し出した。
「着きましたよ」
言われてみた前方には懐かしい実家。
そういえばここ最近はずっと城住まいだった。
それが捕虜として囚われていたんじゃなく、……守られていたのだとしたら?
「ねぇ蒋欽」
「ゆっくりして来てください。ここはしっかり守っておくんで」
「……矢を放った相手の事、蒋欽は知ってるの?」
僕の言葉に「俺からは言えないんで」と蒋欽。
周泰の方も試しに見て見るけど首を振るだけ。
再び蒋欽に聞いてみる。
「敵、手ごわい?」
「さっきの俺の脅しで戸惑う位じゃ、小喬様城の外に出せないっすね。……正直何処で話聞かれてるかわからないんで、余計なことは言えないんすよ。人数とかもね」
迂闊なことを言えばそれはそれで手を打たれちゃうってことか。
しかも一人とかではないという事。
もしかして思っている以上に蒋欽と周泰も警戒しながら警備していたってことだろうか?
と、不意に蒋欽が腰に手を当てた。
弾みで腰に下げていた鈴が「ちりん」と微かに鳴る。
蒋欽、いつも腰に鈴なんてつけてたっけ?
そんなのついていたら、蒋欽が来たことすぐにわかっちゃうはずだけど。
「……お気をつけて」
言って二人が僕を見送る。
何か意味があるのだろうか?
疑問に思いながらも僕は姉上のいる実家へと向かった。
続きは1週間後、来週金曜日夜22時に投稿予定です。




