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恋文  作者: ひろ
10/17

矢を射たのは誰? 1

閲覧ありがとうございます!

蒋欽、周泰が出ます。




 「さっきはどもっす」


 虞翻の元を離れ、姉上大喬の元へ向かう事、しばらくして。

 蒋欽が僕にそういって拱手してお礼を言った。

 いつもお茶らけている蒋欽が微妙にかしこまるもんだから、ついおかしくなって笑いながら答える。


「どうしたの?急に」

「俺達が周将軍に怒られるの阻止してくれたっしょ?」

「そんなことか。だって君たちが首斬られちゃうの嫌だもん」


 実際には斬らないかもしれないけど、それでも怒られるのは可哀想だし。

 軍法に関しては軍に属していない僕があれこれ口出すのは良くないと思うけど、本当に大したことなかったし。 

 そう思って答えると、


「そうっすね。首斬られたら、周泰と二人で首だけでふよふよ浮きながら小喬様護衛しないといけないっすからね」

「何それ!」


 なんて蒋欽がおどけて見せた。

 相変わらず適当だなぁ。

 思わず吹き出しちゃった。


「首だけじゃ生きられないよ。」

「でも噂によると朱桓って人の家に首だけ飛んでいく下女がいるらしいっすよ。落頭民って部族の民らしくって」

「またまたそんなこと言って」

「ホントですって。俺こう見えても情報通なんすよ」


 なんて「えへん」とえばって見せる。

 うーん胡散臭い。

 だったら、とさっき気になっていたことを聞く。

 

「ならさ、この辺で弓が巧みな人って知ってる?」

「弓っすか?弓なら俺巧いっすよ」


 なんて自信満々に答える蒋欽。 


「なんか射って欲しいものあるんすか?言ってくれれば獲ってきますよ」

「じゃぁ飛んでる鳥の脚をかすめる程度で傷つけて、わざと落とすこととかできる?」

「俺はできるっす」

「他には?」

「他ねぇ……結構技術いるんでどうかなぁ?太史慈殿ならできそうっすけど」


 太史慈は最近孫策様の軍に入ってきた将だ。

 元は劉曄軍に居たけど、孫策様の為に劉曄軍の残党を集めてきたり、その言葉を孫策様も信じて太史慈を待ったりして、孫策様からの信頼は絶大なんだよなぁ。

 だからそれは無しとしても、


「なんかあったんすか?」


 飄々と聞いてくる蒋欽。

 いつも胡散臭い言動が多くはあるけど、


「蒋欽もないかなぁ?」

「?なんすか?」

「実はね」


 問われて蒋欽に事の次第を話す。

 

「つまり周将軍の手紙を大喬様宛てに運んでいた鳥を、小喬様が拾うようにわざと射られていたってことっすね」

「そういうこと」

「……で?」


 すっ

 

 と、急に蒋欽の声が低くなり、彼を纏う雰囲気が変わる。

 いつもの陽気な感じから、どこからともなく冷風が流れ込む。

 

「俺を疑わないで、ましてやそんなこと話しちゃっていいんすか?」


 長身の蒋欽が僕の視線に合わせる様に腰を屈ませると、人の悪い表情を浮かべた。


「小喬様って結構お人よしっすよね」

「そう?」

「俺達元賊なんすよ?そんな大事な話。簡単に話しちゃっていいんすか?」


 ぶわっ

 

 と、蒋欽の気配が一気に変わった。

 いうなれば陽気な明るい色から、一気にどす黒くなるような。


 重苦しい空気がのしかかってくる。

 普段の蒋欽からは全く感じたことのない、威圧するような雰囲気。

 蒋欽って賊時代はこんな感じだったのかな?てなことを頭の片隅で考えながら蒋欽に聞き返した。

 

「なんで?駄目なの?」

「どっかの誰かが小喬様の事狙ってるんしょ?その誰かと既につるんでいて、小喬様のこと騙して攫うかもしんないっすよ?」


 なんて蒋欽が凄んでくる。

 けど、


「そんな人悪い人なら周瑜様が護衛につけないと思うよ」

「へぇ?なんでそう思うんで?」

「だって周瑜様だもん」


 僕の言葉に一瞬目を丸くする蒋欽。

 そしてそのまま沈黙。

 どうやら僕の次の言葉を待っているようだ。

 でも


「……それだけ、だけど?」


 蒋欽に言う。

 と、蒋欽の纏っていた空気が少し和らいだ。


「……それだけっすか?」

「うん、駄目?」

「駄目っていうか。他にないんすか?」

「例えば?」

「例えばっていうか……」

「でもさ、蒋欽」

 

 いって彼の凄んでくる、いや凄んできていた拍子抜けした顔を「ツン」と指で突っつく。

 

「周瑜様の言葉。聞いてると信じようって思っちゃうじゃない?」


 僕の言葉に一瞬蒋欽が止まる。

 そして「ぷっ」と吹き出した。


「それ言われちゃうとどうしようもないっすね。確かに。周将軍の圧倒的な『美周郎』感には、俺達も『従うしかないか』って思っちまいますからね」

「なぁにそれ。わかる気はするけど」


 言って僕が笑うと、つられて笑った蒋欽はまた今までの飄々とした感じに戻った。

 そして「にしても」と言って続けた。


「小喬様。俺が凄んでも全然平気っすね。これでも賊の頭やってた時はさっきので大の大人でも全員ビビってたんすけどね」

「さっきの迫力出し入れできるんだ。すごいね」

「すごいねって。怖がってもいないなんて、これは肝が据わったもんっすね」


 言って収まりきらない笑いを「くくく」と手の甲で口元を押さえる蒋欽。

 なんだか楽しそう。

 けどひとしきり笑った後、笑いを収めて再び口を開いた。


「さすがは小喬様。周瑜様の婚約者様というべきか」

「婚約者は孫策様がノリで決めただけだよ」

「?そう思ってるんすか?」

「実際そうでしょ?」

「……ええっと、それに関しての意見は差し控えるとして」


 なんか歯に物挟まったような言い方だなぁ。


続きは1週間空きまして、来週金曜日夜22時に投稿予定です。


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