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恋文  作者: ひろ
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手紙を拾いました

追記:一部一人称が間違っていたので直しました。

締め日の今日気が付いて、前から投稿してみようと思っていたものを急いで書いたので色々間違えていたり、書き直し等があるかもしれないです。もしなにかあればご指摘いただければ幸いです。


人名については字がない人物の呼称に困るので、基本姓+名前呼びになります。あらかじめご了承ください。正史や演義を使用していますが大部分は創作になります。





「私も好きです」


 そう書いてある手紙を拾った。

 

 武芸の稽古に丁度いい気候の、涼やかな晴れた日に城下を散歩していると、脚に手紙をつけた鳥が一羽、怪我をして落ちていた。

 運ぶ途中で大きな鳥に襲われたのかもしれない。

 そっと鳥を抱き上げる。


「大丈夫かな?」


 手紙を見るつもりはなかったが、怪我の具合を見てあげる為に邪魔だったそれを解くと、中は自然と開いてしまった。

 瞬間、良い香りがふわりと鼻をくすぐる。

 品のいい紙と共に見えた中の文字の造形は美しく、その一言だけでこれを書いた人の教養の高さが垣間見えた。

 そしてその内容はといえば……。


「これ……恋文?」


 慌てて手紙を閉じる。

 見てしまった言葉にドキドキしつつも、手の中の鳥に眼をやると、脚から血が出ている。

 どうしよう。すごく痛そうだ。


「骨折れてるかな?大丈夫?」

「どうしたの?小喬」

「わぁぁぁ!」

 

 急に頭の上から声をかけられて、思わず手紙を放り投げてしまった。

 弾みで宙に舞う手紙。

 声の主は白くて細い指でそれを摘まむと、ぴらりとめくってそれを見た。


「あ、あの、姉上。それ……」


 手紙を拾った主は僕の姉大喬だった。

 その黒く豊かな髪が小首をかしげた弾みでさらさらと肩から流れる。そして花びらのような唇が開いた。


「これ……」

「違うのあのね、それ僕のじゃなくて今ここで拾って」


 まさかないとは思うけど、僕宛てだと思われても困るので慌てて言い訳をすると、


「私宛ての手紙ね。ありがとう小喬」


 言ってそのまま当然の様にすっと懐にしまう。

 宛名も差出人もなかったはずけど?

 疑問を顔に浮かべた自分に、姉上が笑顔で答えをくれた。


「この紙と文字、心当たりがあるの。それに前からやり取りしていたから。ところで中身読んだかしら?」


 言われて弾みでつい首を振る。

 と、


「……ならよかった」


 いって姉上は心なしか少し困ったような顔をして、その場をそそくさと去って行ってしまった。





「誰からの手紙だったんだろう?」


 鳥の手当てをしながら話しかける。

 脚に酷い怪我をしているから暫くは飛べそうにない。

 持ち主に返してあげた方がいいのかもしれないけど、手紙の内容的に姉上に聞くのも気まずいし。


「君の飼い主は誰なの?」


 そう言って鳥の頭を撫でるが、鳥は嬉しそうに喉を鳴らしただけ。

 

「それじゃわからないし」


 眉をしかめつつ、でもおいしそうに餌をついばむ姿につい頬が緩む。


「ご主人様。どんな人なんだろうね」


 言って手紙の内容を思い出す。

 綺麗な字だった。

 女性受けしそうな淡い色合いの美しい紙に香りまでつけて送った、姉上宛ての恋文。


「姉上婚約したばかりだっていうのに。あんな手紙送ってしまうなんてよっぽど好きなんだろうね」


 思わずため息をつく。

 そう、姉上はつい先日婚約をした。

 相手はあの「小覇王」こと孫策様だ。

 飛ぶ鳥落とす勢いで江東に進撃し、瞬く間に平定していったあの孫策様だ。


 はっ、まさかだから鳥が落ちていたのかな?

 ……流石にそんなわけないか。 

 それは兎も角として。

  

「相手が悪すぎるよね」


 つい口から言葉が零れる。

 実力もさることながら、容姿も申し分ないのだ。

 この御仁に勝てる相手なんてそうそう存在しない。

でも、


「確かに姉上は絶世の美女だからなぁ」

  

 言って天を仰ぐ。

 美しい顔立ちに、しなやかな肢体、しとやかな動作、透き通るような耳に心地よい声。

 身内贔屓を無しにしても、姉上の大喬はこの辺じゃ知らない人がいない程の麗人だ。

 家族である自分でさえ見惚れてしまう。


 実際姉上を狙う輩は多くて、それを追い払うのは大変だった。

 だから姉上を守れるように武芸を習って……。


「あれ?でもあの手紙『私も』って書いてあったような……」

「小喬、こんな所にいたのかい?」

「え?わぁぁぁ!」


 声をかけられて顔を上げた先、目の前に超ド級の美形の顔があってびっくりして思わず鳥を投げ飛ばしそうになってしっかりと抱きとめる。

 紙ならまだしも流石に鳥を投げたらもっと大怪我になってしまう。

 せっかく手当したのに!


「しゅ、周瑜様。何か御用ですか?」

「用がないと婚約者を探してはいけないのかな?」


 言った笑顔はその辺の女性なら一撃で仕留められそうな……基、堕とせそうな程の威力で、正直心臓に良くない。

 

 そう、姉が孫策様に逢った日。

 孫策様はその場で姉を娶ることを決めたのだが、その際、


「じゃぁ周瑜は小喬が嫁な」


 と孫策様が勝手に自分を周瑜様の婚約者に決めてしまったのだ。

 周りがざわついたのは言うまでもない。

 なんせ周瑜様といえば、家柄よし、頭よし、武芸に秀で、音楽にも通じ、何よりも、


 顔がいい。

 

 巷では美周郎、なんて呼ばれる程である。

 それはもう、この地が孫策軍に制圧された日、周瑜様が城下に来ると街中の女性たちがこぞって見に来たほどの美形っぷりである。

 視線を向ければ黄色い声が上がり、声を発すればうっとりと皆が聞きほれ、話しかければ気絶者続出なほどの人気ぶり。

 それを、


「一つ買ったからもう一つおまけ」


 のノリで結婚相手を決められてしまったのである。

 巷の女性たちが泣き崩れたのは言うまでもない。

 なによりも、


「周瑜様」

「なんだい?」

「僕、やっぱりもう少し婚約者らしく女性の恰好した方がいいですかね?」


 言った自分の恰好は、先ほどまで武芸の稽古をしていた男性の恰好で。

 姉上を如何わしい男たちから守る為、そして自分の身を守るためにも僕はずっと男の恰好をしていた。

 家族以外の周囲は皆、自分を男だと思っていた。


 だが、孫策様と周瑜様は一目で自分を「女」だと見破った。

 正直驚いたが、流石は歴戦の猛者と言ったところだろうか。

 小覇王とその軍師の眼までは欺けなかったようだ。


「小喬はそのままでも充分愛らしいよ」


 言って周瑜様が頭を撫でてくれる。

 世の女性ならときめいてしまう動作なのだろうが、男の恰好の僕ではなんだか子ども扱いのようでもある。


「……周瑜様はそうやって世の女性たちを全て誑かしていくんでしょうね」

「?なんのことだ?」

 

 所作全てが様になってしまう周瑜様。

 将来夫予定だと聞かされていても、どこか他人事に感じてしまう。

 そもそも存在が異次元なのだ。 

 こういう人が現実に存在するんだなぁ、という感じ。


 そんなの周瑜様の嫁候補になったもんだから、世の女性の嫉妬はすごかった。

 外に出れば視線で殺されそうな勢いである。

 あと「そもそもあなた女だったの?」って言う視線もすごい。

 一部では「もしかして周瑜様そっち系?」って思っている女性までいる。僕一応女なんだけど。


 でもそれを疑われても仕方ない位に、僕は周瑜様の婚約者となった今でも男装のまま過ごしている。

 自分でもこのままの方が気楽だし、周瑜様に聞いてもこの通りで別に構わないという。


 一度やっぱり女性らしい恰好した方がいいかな?と思って女性物を着てみたが、裾や袖が鬱陶しくてすぐ脱いでしまった。

 世の女性や姉上はあんな格好して頭や身体が重くないのだろうか?

 そもそも敵に襲われたら対処できないし。


 いや、もしや長い袖を振り乱して敵を翻弄するのかもしれない。

 今度姉上に聞いてみよう。

 なんて考え事をしていると、周瑜様が此方をニコニコと笑ってみていた。

 それがあまりにも嬉しそうで、つい尋ねてみる。


「ええっと。本当に何をしに来たんですか?周瑜様」

「ああ、だから小喬に逢いに来たのだが?」

「でも用はないんですよね?」

「用はないよ」

「なら何をしに?」

「顔を見に来たのだが?いけないかな?」

 

 言って世の女性がうっとりしてしまうそうな笑顔を向けてくる。のだが、


「僕を見て楽しいですか?」

「楽しいけれど?なにか?」


 何が楽しいんだろう?

 この美形旦那の考えがよくわからない。

 と、周瑜様がふと僕の手元にいる鳥に気が付いた。


「おや、その鳥は……」

「ああ、この鳥ですか?怪我をしているみたいで」


 もしかして周瑜様ならこの鳥の持ち主を知っているのだろうか?

 知らなくても頼めば鳥の持ち主を探してくれるかもしれない。

 そう思って聞こうとした矢先、


「私の鳥だ。預かってくれていてくれたんだね。ありがとう」

「そうなんですか、では」


 周瑜様の言葉にそのまま鳥を渡す僕。

 そして、


「ところでこの鳥、手紙をつけていなかったかな?」


 言われた言葉にふと内容を思い出た。

 慌てて答える。


「あ、あの手紙ついていたんですけど、直ぐに姉上が見つけて持って行ったんで中身は見ていません!断じて!」

「……そうか」


 僕の言葉に周瑜様が答える。

 続けて何か言おうと周瑜様が口を開いたが、


「周将軍此方でしたか!至急用事があると孫策様が」

「わかった。今すぐ行く」


 兵士に呼ばれ言葉を止める。

 軽くため息をついた周瑜様だったが、


「また来るよ。私の愛らしい婚約者」


 いって僕の頬を撫でる周瑜様。

 こんな感じで周瑜様はいつも僕をとても大事にしてくれているんだけど。

 でもあれが周瑜様の鳥ってことは……。


 周瑜様、姉上のことが好きなの?!



閲覧評価有難うございます!とても励みになります!次回更新は週明けの予定です。

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