第七話 驚愕
◇ ◇ ◇
英と話していると、強力な魔力を感じ発生源へにて数分ほど変化を待っていると、可視化出来るほど濃厚な魔力が現れた。
横で叫び驚いている英は置いといて、その魔力がどうなっても良いように臨戦態勢にて待ち構えていると。
「うわっ!あああ、兄貴!
て!出て!手が!」
「……あぁ、見えてる。
それとお前はそのまま俺の後ろで動くなよ」
魔力の塊から手が出てきた。
英は既に腰を抜かしており、慌てて俺の後ろに移動して俺を盾にしている。
と言っても、俺よりガタイが大きいから全然隠れきれてないけどな……。
「英ぇお前さぁ、俺がいくら兄貴で、それなりに強いって分かってても、真っ先に盾にするのはどうなの?」
「そんなこと言われても!
兄貴以外どうにもできないじゃん!この状況!」
「そうだけどさぁ……」
俺よりも背がでかいマッチョの弟の不甲斐ない一面に呆れつつ、魔力から現れた人物を見続けていると、俺は自分の顔が引き攣るのがはっきり分かった。
「……はぁ……親父、何してるんだよ……」
「フォッフォッ、どうやら成功したようじゃのぉ」
手に続き、肩、顔、胴体に足と、徐々に現れたその人物は、一ヶ月前に別れを済ませた、俺が所属していた冒険者ギルドのギルドマスター。
イワン・アウグストその人であった。
「……どう言うつもりだ?」
「まずは久しいなゴウ、三年ぶりと言った所か。
お主の質問に答える前に……しばし待ってくれるか?
……お主ら!来るなら早よ来んか!
わしの注ぎ込んだ魔力がそろそろ切れそうじゃぞ!」
「……え、」
親父の掛け声によって、魔力の塊から出るわ出るわ異世界人共が……。
「一、二、三…………三十四、三十五。
うむ、わしも含め三十六人無事に辿り着いたようじゃのぉ」
親父の言葉の通り、魔力の塊から計三十六人もの俺の知り合い達が現れた。
「あ、……兄貴?」
「英……今話しかけないでくれ。
現実を受け入れたくない……マジで」
「で、でもさ、なんかあの人達みんな兄貴を見てるぜ?」
「はぁ……」
分かってるよ、俺が現実逃避している間ギャーギャー騒いで奴らがいきなり静かにこっちを見てるんだ。
嫌でも気付くさ、流石にな。
「んで?親父達は何でここに?」
「ん?おお、そうじゃった。
ゴウが居なくなって一年だった頃かのぉ……」
「ん?まてまて、さっきも三年ぶりとか言ってたが……俺はこっちにきてまだ一ヶ月ちょい。
そっちで数日間祠までの道のりを加えても、別れてから大体四十日くらいしか経ってないぞ?」
どう言うことだ?
あの管理者が言うには、異世界で過ごした分、こっちでも時間が過ぎてるって言ってたから、てっきり時間軸ってか時の長さは一緒だと思っていたんだが……。
「ふむ、それについても説明可能じゃて。
質問は後からにして欲しいのう」
「あーすまん、どうぞ」
「んん、取り敢えずお主が帰ってから一年程経った頃か……」
◇ ◇ ◇
「親父!親父大変なんだ!」
「なんじゃ、相変わらず騒がしいのぉ……」
冒険者ギルド【頂】のギルドマスターの執務室。
つまりワシの部屋に、転がり込む様に入ってきたのはブラード。
相変わらず、騒がしいやつじゃが冒険者としては高難度の依頼も平気な顔でこなす一流冒険者。
こやつが慌てるのはゴウが帰ると知らせた時以来、フォッフォッ、また何かやらかしたのかのぉ……。
……それにしてもゴウ、か。
あやつも面白く優秀な冒険者じゃったのぉ。
手放すには惜しい人材じゃったが、冒険者は自由が基本じゃからな。
今頃、故郷で楽しくやっておると良いがのぉ。
「親父、親父!」
「……あぁ、すまん、考え事をしておった」
「おいおい、ついにボケたか……って何でもないっす」
ふん……ワシの威圧で縮こまる様じゃ、まだまだゴウほどではないのぉ。
彼奴、昔は一般人に毛が生えた程度じゃったが、故郷に帰る頃にはワシの威圧を受けても、平気で寝ておったからのぉ。
あとワシはボケとらんわい、エルフの中でも歳は取っている方じゃが、まだまだ現役じゃて。
「それで、どうしたんじゃ?」
「っ!!そうだ!ゴウが探し見つけ出した魔法道具と同じ、いやそれよりも強力なやつを見つけたんだよっ!!」
ガタッ!
「なんじゃとぉ!!ブラード!どこにある!」
「いや、俺たちが見つけ出した訳じゃ……ちょっと待っててくれ」
そういうと、慌ただしく部屋を出ていきおった。
ん?彼奴らが見つけた物じゃないじゃと?
一先ずブラードが戻ってくるまで大人しく待っていると。
「親父、入るぞ」
「邪魔するぞ、久しいなイワン」
ブラードと共に入ってきたのが……
「ちっ、……駄犬が何の様じゃ?」
「ん?聞き間違いかな?老いぼれはボケ過ぎて言葉もまともに話せなくなったのかな?」
「あ゛?」
「どうした?やるのなら表に出ると良い」
「待て待て!親父達が喧嘩すると街吹き飛ぶから!シルさん!話をしにきたんだろ!?
それなら喧嘩するなよ!親父も出会い頭で喧嘩ふっかけるな!」
『ふんっ、』
「あぁ、ゴウ……お前が居なくなってから化け物達を止めるのが一苦労だよ……」
うるさいわい、誰が化け物じゃ。
入ってきたのはエルダーフェンリルのシル。
魔物ではなく聖獣であり、永き時を生きておる聖獣は今の此奴の様に人型になることが出来る。
昔からの腐れ縁なのじゃが、ソリが合わんのじゃ此奴とは。
「はぁ、で、話を進めるぞ?
事の発端はゴウの帰る日に遡るらしい」
「ブラード、後は私から話そう。
私は以前からゴウの故郷、つまり異世界に興味があってな。
だが、彼奴帰還方法である魔法道具を誰にも見せなかっただろ?
しかも帰り道も認識阻害の魔法を発動しながら帰っておる徹底ぶりだった。
だから、こっそり後をつけて見に行ったんだ」
……察するに、ゴウはうちの馬鹿共や、此奴らの様な阿呆共に知られると、異世界までついてくると思ったんだろうて。
だから態々認識阻害をかけてまで帰ったんじゃろうが……。
この駄犬に見つかってる時点で彼奴もまだまだじゃの。
まぁ、彼奴の強みは近接戦、魔法は使えるが苦手じゃったから仕方ないのかのぉ。
「私は彼奴の転移の瞬間、魔法道具まではっきりと見ていた。
ゴウは普通に辿り着いていたが……転移場所は、私ですらゴウの魔力を辿らねば辿り着けぬほどの認識阻害がかけられていた上に、強力な結界も張られていた。
まるでその場所を隠す様に、な」
「……ふむ、お主はどう考えておるのじゃ?」
「……ゴウをこちらの世界に連れてきた原因、またはその張本人が関わっているのは間違いないだろうな。
考えたのだが、数千年と生きた私でさえ手掛かりすら分からなかった。
そもそも異世界から人が来るなんて、ゴウ以外聞いたことが無い」
ふむ、わしと同意見じゃな。
わしも最初ゴウから異世界のことを聞いた時は、信じる事は出来んかった。
魔法で真実か確かめた後も信じるのには時間が掛かったからのぉ。
「まぁ、そこまで聞けば大体わかったがの。
その魔力の質を辿り見つけたのがその魔法道具じゃな?」
わしはシルが机の上に置いた魔法道具を見る。
確かに、普通の魔法道具とは明らかに違う。
「それでお主はどうするつもりなのじゃ?」
「ハハハハ、愚問とはこの事。
勿論発動させて豪と同じ世界に行くに決まっているだろう?」
「分かっておったが、本気なんじゃな。
だが……お主良いのか?
ゴウが偶に自分の故郷の話をしておったが、魔法は無く、魔物に聖獣は勿論、人間以外の種族も居ない世界だそうだ。
そこに聖獣のお主が行ったとして、どうなるかくらいわかるじゃろうて……。
そもそも、ゴウがこの世界じゃない異世界から来た時点で、この世界以外にも違う世界があることが確定しておるんじゃ。
ゴウが向かった世界とは違う世界に転移する可能性はゼロでは無いはずじゃぞ?」
そもそもお主の様な奴がおるから、ゴウは逃げる様に異世界へと帰ったというのに、ゴウの元へ辿り着けたとして、彼奴は嫌がるに決まっておるわ……。
「勿論、その辺は考えている。
だが私はゴウの世界に行ける確率はだいぶ高いと見ている。
なぜなら、この魔法道具は本来存在しない物だったと思っているからな。
私が過ごした数千年の歴史で異世界からの転移者などゴウ以外見たことも聞いたことも無い。
それに、この様な魔法道具もな。」
うーむ、此奴のいう事も一理ある。
人間や獣人よりも寿命が長いわしらエルフの歴史にも転移者やその様な魔法道具の記録は見たことが無い。
「私は、これがゴウが異世界から、来た又は帰る際に関係があるからこそ、生まれたものだと考えている。
何故ゴウが使用した物の他に、もう一つが存在しているのか。
何故ゴウが見つけたものよりも強力なのか。
理由は知らんが、実際に物がここにある。
私は試してみる価値があると思っている。
そして、豪に関係ある奴らには機会を与えてやろうと思ってな」
「お、俺はシルさんに着いていくつもりだ…」
「何!?」
ブラードの発言にシルはやはり、と言った具合にニヒルに笑った。
「ハハハ、よく言ったぞブラード!
さぁ!他の関係者達にも教えてやろうじゃないか!」
そういうと、シルは魔法道具を閉まった後、意気揚々と部屋を出ていきおった。
全く……。
「親父……」
「よいよい、言わんでも分かっておる……。
はぁ、わしは皆の意見を聞いたのちに判断するわい。
聞くまでもなさそうじゃがの……」
そして、わしの考えていた通り、ゴウと関係があったわしを含め三十六人が異世界を目指すことに決まった。
ゴウよ、以前何と言っておったかのぉ……フラグだったか?
わしの言葉はどうやら、フラグ、だった様じゃ。
第七話になります。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次話も楽しみにして頂くと幸いです。