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第六話 準備




 ◇ ◇ ◇


 爺ちゃんの焼肉屋を継ぐことにした俺は、早速爺ちゃんと父と共に各所に手続をして回った。

 初めて知ったのだが、店舗やら営業許可やらも、きちんとした相続手続きが必要となるらしく、法に明るい父がとても役に立った、さすが弁護士。




 ちなみに行方不明扱いになっていた俺は、帰還した次の日に出されていた捜索願を取消しに向かったのだが……。

 父曰く、無計画な家出少年扱いが一番手っ取り早く、変に疑われる事も無いとの事なので。

 ……俺は渋々当時親と喧嘩し家出、十年もの間連絡も取らず、今更ノコノコ帰ってきたお騒がせ息子の烙印を押された。


 これに関しては仕方ないとは言え、本気で解せん。

 警察官のあの目は一生忘れることは無いだろう。

 横でプルプル笑いを堪えていた両親もな。




 それから一ヶ月ほどかけて、書類上の引き継ぎや、自治体や保健所への申請など書類面はクリア済み。

 並行して肉や酒、その他食材の仕入れ先、肉やタレなんかの仕込み方法、そして味付けなど。

 実際に営業していく上での必要な事も爺ちゃんからガッツリ学んだ。

 ちなみに元々俺に料理を教えてくれた師匠は爺ちゃんで、相変わらずセンスが良いと褒められたぜ。



 残すは店舗自体と、従業員である。

 店舗は地元の繁華街のド真ん中にあり、なかなか広い。

 閉店はしたが爺ちゃんの持ち土地だった為、土地ごと相続という形で俺が受け継いだ。(元々欲しい人がいたら売るつもりで買い取り手を探していたそうだ)

 買い取り手が決まって無くて助かったわ。



 そして、俺も二十六、今年二十七になる。

 良い大人がいつまでも実家暮らしと言う訳にも……(一人の方が自由で気楽)との事で、思い切って店舗兼住宅にすることに決定。

 店舗自体は何十年も前の建物の為、改修よりも時間とお金はかかるものの、立て直した方がいいとの事で。

 現在建設真っ只中である。



 更に一階は焼肉屋なのだが、二、三階を貸しテナントとし、四階を住宅と言う形でビルにすることにした。


 夢の不労所得の完成である!ハッハッハッ!



 爺ちゃんには要らないと言われたが、爺ちゃんへの相続税、その他諸々の初期費用は勿論自分の資金で支払った、ニコニコ現金一括払いでね。



 その資金は昔の貯金でも、裕福な家族の融資でも無く、正真正銘自分の金である。

 帰還したばかりの俺がどうしたのかと言えば、空間魔法に入っていた要らない金属やら宝石を売りまくったのである。



 ちなみに渡航歴も無く、十年間捜索願が出されていた俺が、出所不明の宝石や金属を持っているのは明らかに怪しいのだが、蛇の道は蛇。


 ネットで調べたイカついオジサンの家に行き、オハナシをして、紹介してもらった会社で買い取って貰ったのだ。

 グレーなものはグレーな人にってね。


 オジサンは金、宝石が手に入るし、俺は現金が手に入る、正にwin-winだね。

 因みにいきなり何も無い所から財産が増えると騒ぐ人達(公的な)に対しては、魔法を使い、宝くじに当たったと認識する様に対策済みである。

 一応、周囲には宝くじに当たったと思われている為、知らない親戚が現れてもいい様に、親にも説明済みである。

 使える物は使えってタイプの母は笑っていたが、弁護士の父には苦笑いで「僕は聞かなかった事にするよ……」と言われた……すまんね。



 って訳で、金属やら宝石やらを売っ払ったのだが、まさかの一生働かなくても良いレベルで稼いでしまった。

 まだ金属も宝石も半分は残ってるんだが……それも必要の無い物から売った為、殆どが売った物より高品質なんだが……。

 しかし金はあっても何もしないのも暇な上、爺ちゃんとの約束もある為、焼肉屋は勿論やる。




 そして今、店舗は完成を待つのみなので、従業員をどうするかを英と共に考えている最中である。


「なぁ、英」


「ん?何?兄貴」


「確かに臨時収入があったから、相談乗る代わりになんでも好きな物奢るって言ったけどさ……何でパフェなの?」


 アルバイトと言ったら大学生と思い、英に連絡をしたのだが、集合場所が店内、客ほぼ女子で埋め尽くされているスイーツ店なのだ。


「いやぁ、ここ一回来てみたかったんだけど、一人は勿論恥ずいし、咲ちゃん甘い物嫌いだったから来たことなかったんだよ。

 んで、兄貴なら大丈夫かなって」


「いや、むしろ実の兄貴と二人の方がキツいだろ。

 どうしてくれるんだよ、俺たち以外に男客いねぇじゃねぇかよ」


 カップルですら居ねえぞ、おいコラ。


「良いじゃん、良いじゃん。

 今の時代そんな事気にする人居ないって!

 自分の好きに生きる人増えてるんだから」


「なら一人で行けよ……矛盾してんぞおい。

 それにお前はその代表例のような奴だな……」


 話によると、こいつ中学からラクビーを始めて、高校、大学どちらとも推薦貰ったほど、界隈では凄いやつらしい。

 今が三月だから、四月からは大学四年のコイツには既にプロからのオファーが来ているらしい。

 本人は特にこれといったやりたい事が無く、迷ってるそうだが。


「ま、お前の話やパフェはいいとして、従業員どうすればいいと思う?」


「んー、普通にネットで募集したら?

 焼肉屋でバイトなんて高校生や大学生、フリーターなんかが秒で集まると思うよ?」


「んー、そうなんだけど知り合いとかの方が楽なんだよなぁ。

 俺、人雇った事ないからさぁ」


「誰でも最初はあるっしょ。

 母さんも父さんも、羽月姉だって今人雇ってるけど最初はあったはずだし、そこまで気にする必要無いんじゃね?」


 おおう……まさかこいつに相談して納得する日が来るとはな。

 バカも成長するんだな、俺も歳をとる訳だ……。


「そうだな、まぁぶっちゃけ金には困らなくなった訳だし、趣味だと思って気楽にやってけば、自然に慣れてっ!?!?」


 ガタッ!


「え、何、兄貴!?

 あ、ははは、すいません、何でもないでーす」


 驚き立ち上がった俺の椅子が倒れ、店内の注目に対して謝る英。

 いや、そんなことを気にする暇はない。


「おい、英ついて来い、今すぐ出るぞ」


「えっ、まだパフェが……」


「いいから来い!」


 英が何やら言ってるが一喝して店を出る。


「すいませーん、急用があって、お釣りいいんでお金置いときまーす!

 あ、兄貴待って!」


 店を出て周囲を見回していると、後ろから英が追いかけてきた。


「どうしたんだよ、兄貴。

 パフェは食べ切れなかったし、奢るって言って俺が払ってるし」


「……あぁ、今度何でも好きなだけ食わせてやるから少し黙れ」


「何があったのさ……」


 何があったのかといえば、さっき英と会話している時一瞬だが強力な魔力を感じたのだ。

 それもここからそこまで離れていない。

 俺は魔力を張り巡らせて、さっきの魔力の残滓を探る……。


「見つけた……英お前車は?」


「今日大学の帰りだから、電車だけど」


「分かった、ついて来い」


「ちょっ、兄貴!」


 いきなり走り出した俺の後を英が着いてくる。

 よし、ここなら誰も居ないな、監視カメラも無い。


「ハァハァ兄貴、足早っ、ハァハァ」


「ほらっ、これかぶれ」


 空間魔法でバイクとヘルメットを二つ取り出し、一つを英に渡す。


「えっ、今どっから」


「空間魔法だよ、前も見せたろ。

 ってか良いから早く乗れ」


「えっ、バイク!?

 兄貴バイク買ったの!?いつの間に……」


 つい最近納車した俺のバイクをみて、英が驚いている。

 そう言えば、誰にも言ってなかったな……。


「一発で取ったんだよ、元々頭は悪くねーし、バイクは買って適当に乗ったら乗れた」


「えぇ、やば」


「本来初心者は一年経たないとダンテム禁止なんだが、まぁ事故りそうになったらお前を担いで飛び降りてやるから安心しろ。

 ってか、そんなのはいいから早く乗れ!」


「……わ、分かった」








 そして後ろに英を乗っけて、バイクを飛ばすこと一時間。

 俺たちはある森の中へと辿り着いた。


「ここは、俺が帰還した時居た森だな」


「ハァハァ、死ぬかと思った。

 初心者が、ダンテムで、オフロードは、ダメでしょ」


 英が何か言ってるが無視し、俺はバイクを収納すると、どんどん山道を進み続ける。


 すると、不自然に開けた場所に辿り着いた。

 ここは正に俺が帰還した際にいた場所である。

 あの時は帰ってきた感動で気にしていなかったが、不自然に開けていて少し不気味である。


「ハァハァ、やっと追いついた。

 ここに、何かあるのか?兄貴」


「あぁ、間違いない。

 さっきパフェ食ってる時に感じた魔力と同じ魔力をここから感じる」


「へぇ、俺には分かんねーけど、兄貴が言うならそうなんだろうな」



 そして、数分英と話をしながらこの場所にいると……。


「うぇえー!!!!」


「ほぅ」


 英の叫び声が響き渡り、可視化出来るほど濃厚な魔力が突如、俺たちの目の前に現れたのだった。






第六話になります。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

やっと物語が少し進んだ気がしますね。


次話もお楽しみください。

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