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第五話 宴会 後半

 



 ◇ ◇ ◇


「っと、そう言えば、叶絵に英、お前達相手は居ないのか?」


 俺の発言のせいで、冷え切ってしまったこの空間に戸惑っていると……。


「兄貴、あのさ……」


「英くん、俺から言うよ。

 豪あのさ、英くんには、この間まで彼女が居たんだ」


「へぇー、それで?」


 なんだ?フラれたか?

 浮気でもされたとか言ったら笑う自信しかねぇぞ?


「その相手が、俺の妹なんだ」


「ふーん、ってえぇーー!!

 お前の妹って、咲ちゃんか!

 てめぇ、英!!

 咲ちゃんと付き合っといて別れたって何やらかしたんだ?あ?言ってみろよ?おん?」


「ま、待て待て待て!落ち着け!馬鹿!

 そもそも、なんでお前がキレてるんだよ!

 それはどっちかって言えば俺の台詞だろ!

 ……って、そうじゃないんだよ。

 英くんは俺も昔から知ってるし、お互いの親公認で付き合っていたんだ」


 和寛の妹の咲はそれはそれは和寛と違い、度胸もありハキハキ元気な良い子だった。

 そうか、確か英と同い年だったな。


「……そうか、すまん。

 ついカッとなってしまった」


「お前咲の事、自分の妹と弟より可愛がっていたもんな。

 咲もお前にめっちゃ懐いていたな……。

 実の兄貴の俺よりもさ……」


 あ、なんか和寛の地雷踏んだっぽい。

 確かに俺の記憶の咲ちゃんは、俺には懐いていたが和寛は嫌われていた記憶しか無い。

 まぁこいつ、今は知らんが昔はビビりでセンチメンタルだから、咲ちゃんが痺れ切らしてたっていうか。


「あー、すまんが和寛さん?話を進めてもらっても?」


「あぁ、ごめんごめん。

 それで二人は真剣に付き合っていたんだが……。

 ある日咲が病気だって事が分かったんだ」


 なるほど、それであのバカが今、珍しく落ち込んでいるわけだ。


「それで?何の病気なんだ?」


「若年性パーキンソン病、普通のパーキンソン病に比べて症状は軽いが、咲にとっては大分ショックだったんだろう。

 今じゃ塞ぎ込んでしまって、家族以外誰とも会いたくないって言っているんだ」


 パーキンソン病、拙い知識の俺でも聞いた事がある。


「さっきも一応、実家に寄って両親と咲にお前が帰ってきた事、咲に関しては来ないか?と誘ったんだが。

 ……見事に断られたよ」


「なるほどな……懐いていた俺だからこそ今の自分を見られたくないって所か?」


 俺の言葉に黙って頷く和寛。


「それで、英くんに迷惑はかけたくないと自分から別れを切り出したんだ。

 英くんは寄り添ってくれたんだけど、咲の方が強情でね」


「はぁ、なるほどねぇ」


 昔から頑固で真っ直ぐな子だったからなぁ。


「……豪にい、パーキンソン病は指定難病の一つ。

 本来は多くが五十歳以上で発病するものの、四十代以下で発病する場合が若年性パーキンソン病。

 和さんが言った通り、症状は軽いけど病気は病気。

 体の痙攣や、筋肉の強剛、歩行障害なんかの運動症状、認知障害や嗅覚障害なんかの非運動症状あたりが具体的な症状。

 全経過が十五年から二十年、末期になるとほぼ寝たきりになってしまう」


 お、おぉ、いきなりどうした叶絵。

 そんな饒舌に詳しい事言われても、理解できんぞ俺は。


「ってか、なんでそんな詳しく知ってるんだ?」


「私今、近くの大学病院で研修医一年目だから」


「へぇー、そりゃプロだもんなぁ……え?」


 お前医者なの!?

 いやまだ研修医か……いやいや、いずれは医者になるって事だろ!?



「ごめん、和寛。

 勿論咲ちゃんの事はショックだったが、俺は今自分のことで精一杯だ……」


「俺達家族は現実を受け入れて、勿論一生支えるつもりだから良いけど……って何が大変なんだ?」


「母親は社長、父親が弁護士、妹達がデザイナーに研修医。

 唯一学生の弟もスポーツカーに乗れるほど稼いでいて、親友のお前は公務員で嫁子持ち。

 俺は魔法が使える腕っ節だけのニート……しかも十年間の行方不明扱い……これさ、やばくない?」


『…………』


 さっき俺の言葉で凍りついた空気よりも冷め切った空気が場を支配した。


「ご、豪は力持ちじゃないか!

 オリンピックにでも出れるさ!」


「二十六、今年二十七になる俺にいきなりその界隈に登場しろって?

 絶対変に注目されるよね?」


「ぐはっ」


 俺の返しに弁護士である父沈没。


「い、異世界で闘いを学んだんだろ?

 武道を極めしものっていうかさ!強いことは何かあった時に身内を守れるぞ!」


「そりゃ普通の人間相手、対人戦なら負けるつもりないけど、流石に核とか出されたら俺の魔法じゃ無理だよ?

 まぁ、核保有国じゃない戦場で傭兵としてなら活躍できるかもね。

 てか、そもそも平和な日本に住んでいる時点で俺が動くレベルの危険って基本無くない?

 それとも海外の戦場に行けと?」


「うっ」


 公務員も沈没。


「あ、兄貴魔法使えるしさ!」


「魔法がないこの世界で魔法を使えと?

 そうだね、マジシャンとか新興宗教の教主とかならなれるかもね」


「うぐっ」


 筋肉マンも沈没。


「皆、慌てすぎ、どうせふざけてるだけ。

 兄さんは料理上手、自分で店でも開くと良い」


「ふざけてるって、まぁそうなんだけど。

 ってか……なるほど、それもありか」


『ほっ……』


 見事に叶絵にバレているが、勿論冗談だ。

 俺がこんなぐちぐち悩む訳ないだろ。

 まぁ、俺が地雷踏んでしまったから少し空気を、な?


「おい、叶絵その顔やめろ、ムカつく」


「兄さんは単純、意外と気にしい」


「……うるせぇよ」


 そして、なんとか悪い空気を払拭出来た俺はその後も美味しい酒と飯、家族に友人に囲まれて楽しく幸せな時間を過ごしたのだった。








 ◇ ◇ ◇



 そして、翌日。


 父方の祖父母の家に母方の祖父母を招き、俺の今までの事を話しつつ、二夜連続の飲み会が開催された。


 両家の祖父母は俺の帰還を大層喜んでくれて、異世界云々については半分くらいしか理解できてなさそうだったので、めっちゃ(化け物レベルに)強くなったって言っといた。


 そして色々話している内に、今後仕事をどうするか悩んでいる、という話になると……。


「それなら、豪、わしの店を継がんか?」


「え?爺ちゃんの店、閉店したってさっき言ってなかった?」


 母方の祖父が突然そんなことを言い出した。

 ちなみにこの祖父、誠じいちゃんは若い時に焼肉屋を始め、ついこの間まで婆ちゃんと切り盛りしていたのだが、誰も後継が居ないので去年閉店したと先ほど聞いた。


「そうなんだけどなぁ、わしは誰も継がんなら店は閉めていいと昔から思っとった。

 娘の美和も継がんし、無理にやらせるものでも無いからな。

 だけどなぁ、実際閉めるとやっぱ寂しいもんでなぁ。

 お前のやり方に特に口も出さん、味だって教えて欲しけりゃ教えてやるが、お前の好きなようにしてくれていい。

 ただ一つ、名前を残してくれんか?というジジイからのちょっとした願いだ。

 別に興味がないならやんなくてもいい、気が向いたら言ってくれ」


「……いや、料理関係の仕事をしようかなと思っていたから、意外と乗り気になってる。

 生憎、何を始めるにもゼロからのスタートだからな。

 半分くらいは格闘家にでもなってファイトマネーで稼ぐ気だったが、焼肉屋の方が面白そうだし」


「良いのか?そんな勢いで決めて。

 ジジイの事なら気にしなくてもいいんだぞ?」


 いや、格闘家が一番手っ取り早いと思っていたが、ただどこかの団体には所属する必要があり、最初から強くても怪しまれるから、多少面倒と思っていたところだ。

 調理は元々やっていて、異世界でも変わらずやっていた。

 異世界で作ってもらった、用途別のマイ包丁もある。

 こっちでは働いたことはないが、向こうでは宿屋の厨房で働いた事も何回もある。


「よし、決めた。

 みんな、爺ちゃん、俺焼肉屋やるわ」






第五話になります。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


次話もお楽しみください。

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