第三話 遭遇
◇ ◇ ◇
母の突発的発言により、今夜の飲み会が決定。
買い出し&調理担当の俺は英の運転する車に乗り、近くのデパートへと向かっている。
あれから俺たち以外の社会人四人は一旦仕事場に戻り、俺たちが準備している間で明日の仕事の調整をしてくるそうだ。
ちなみに今乗っているのは、某有名なスポーツカーであり、なんと驚く事に弟の車らしい。
今までの貯金を含め、大学生の傍ら副業をしており、それが思っている以上に盛況らしく大学生としてはかなり儲けているらしい……。
……解せん、バカのくせに生意気だ。
何気ない話をしながら車を走らせていると、地元で一番大きいデパートへとたどり着いた。
食品売り場で肉やら野菜やら次々と、英の押すカートの籠に放り込んでいると…。
「あっ!?」
「ん?えっ!?」
「ん?」
目の前を歩いていた家族連れが、すれ違いざまに俺をみた瞬間に声を上げた。
知り合いだっけ?と考えていると、後ろを追いかけて来た英が声を上げた。
「おーい、兄貴ー、歩くの早ぇよー。
あれ!?和さんに真子さんじゃないすか!
お久しぶりっすねー!……って、あぁー、なるほど。
うんうん、最初はそうなるっすよねぇ」
ん?……英の知り合いか?
ん?……和さんにに真子さん?
「え?もしかして和寛に真子なのか?」
「豪!!」
「うそっ、そんな……」
うぐっ!!
こいつらは俺の幼馴染の和寛に真子。
っていうか、和寛!
いきなり抱きついてくるな!
「おい、和寛そろそろ離せ。
お前に抱きつかれる事がどうこうより、周りの目がヤバい」
考えてくれ、二十六になるいい大人の男二人が抱き合っているんだぞ、デパートの食品売り場で……。
「あっ……あぁ、そうだな、すまん。
ってか、その口調は本当に豪なんだな」
「あぁ、久しぶり。
お前達相変わらず仲良いんだなぁ……って。
ん?もしかして……」
久しぶりの幼馴染との再会で地味に感動している中、俺の目線は真子の胸元…いや決して変な意味ではない。
正確には真子の胸元に存在している生物に注がれていた。
「ん?あぁ、産まれたんだついこの前な……」
「えぇー!!って事はお前達結婚したのか!
和寛良かったなぁ!!」
昔から真子一筋の癖にビビりで一向に告らなかったことを知っている俺としては、何よりの驚きだった。
「いやぁ、って、痛っ、痛ぇよ!バカ!
どんだけ力強いんだお前!」
「あっ、悪い悪い、つい嬉しくてな」
「ったく、お前は昔から……」
和寛は嬉しそうにしながらも、俺の昔を思い出したのだろう……何やら嫌な……そう、昔の愚痴を言われそうな……。
うん、そんな気がする。
「ここにいるって事は、お前達もこれから夜飯か?」
「あぁ、明日は休みだからな」
「公務員っすもんねぇ……」
どうやら明日は休みの様である。
ん!?何だと英!?
こいつが公務員だと!?
ま、まぁ昔から根は真面目だからなぁ。
公務員で幼馴染と結婚に子持ち……。
「はぁ、俺帰ってこなきゃ良かったかも……」
「はぁ?!何言ってるんだよ!
せっかく会えたのに!」
俺の気も知らずに、和寛が慌て出す。
「ははは、和さん大丈夫っすよ。
多分兄貴は羨ましくて落ち込んでるだけなんで!」
「全部言うんじゃねぇよ!」
「ウグッ、いってぇな!!
兄貴!グーはないだろ!グーは!」
俺の繊細な気持ちを馬鹿正直に喋りやがって……。
「うるせぇ、お前の鍛え方が足りねぇんだよ」
「なに!?兄貴だからって昔からいつも殴りやがって!今日という日は…」
「あ゛?」
「いえ……何でもありません」
俺達が言い合いをしていると、真子がいきなり笑い出した
「なんで笑ってんだ真子?何かおかしいか?」
「アハハハ、だって豪ちゃんと英ちゃん昔と変わらないんだもん」
真子は俺たちの絡みが何かに刺さった様である。
「あっ、お前達久々にうち来るか?
飯まだなんだろ?ついでに食ってけよ」
「えっ!豪が作るのか!行く行く!」
「悔しいけど豪ちゃんの料理美味しいもんね…」
懐かしいな、こいつらには学校帰りにいつもおれんちで料理食わせてやってもんな。
「って事だ英、説明も含めこいつらも連れてくから母さんに連絡宜しく。
こいつらも居るから酒は多めにな、って」
「了解」
その後、買い物を終え帰路へ着く俺たち。
ちなみに会計は和寛が奢ってくれました。
え?俺?ハハハ、地球に帰ってきてばっかの俺が、こっちの金なんて持ってるわけ無いじゃないか……。
はぁ、公務員すごい。
◇ ◇ ◇
『ただいまー』
『お邪魔しまーす』
「豪にい、おかりー!
あ!かっちゃんに、まこっちゃんも!
いらっしゃいー!なになに!?どうしたのぉー?
あー、ヒナぴよもいるじゃん!」
家に着き、英に荷物を運ばせつつ玄関を開けると羽月が出迎えてくれた。
って言うか、こいつ既に飲んでねぇか?
テンション高すぎて引くわ、これでシラフだと説明つかねぇぞ?
ちなみに羽月がヒナぴよと呼んでいるのが、和寛の娘の日奈ちゃんである。
「はいはい、取り敢えず荷物キッチンに持ってけー。
こいつらはデパートで会って説明も含め連れてきたんだよ」
ちなみに俺は和寛の運転する車に乗り、俺の今まで状況を簡易的に説明しながら帰ってきた。
二人揃って半信半疑って感じだったが、家に着いて車を片手で持ち上げたら納得してくれた。
「へぇー!なるほどねぇ!
あー、ベビちゃんうちの服着てるー!
やば、ちょーエモい!」
エモい?何を言ってるんだコイツは?
それにうちの服?
これお前のお古なのか?
「お前の服ってどう言う事だ?」
「あっ、そっか豪ちゃん知らないんだもんね。
羽月ちゃんデザイナーしてて、この子供服も羽月ちゃんがデザインしたのを出産祝いで貰ったんだ」
「へぇー、お前がねぇ。
人は見た目によらないってか、人生何とかなるもんだな……」
「えへへー、凄いっしょウチ」
俺が羽月に感心し皮肉を言うが、このバカは誉められてると思っているらしい……はぁ。
「お前昔から性格も悪いが、相変わらず口も悪いのな」
「うるせぇ、ほらお前も早くキッチンに運べよ、英が一人で動いてるだろ?」
昔もそして今も俺の事どう思ってたんだよ、幼馴染よ。
「自分で言うのもあれだけど、俺たち客じゃないの!?」
「お前達は昔から何回も来てるだろ。
今更客扱いすっかよ、ていうかグチグチうるせぇ、早く行け!蹴るぞ?」
「はぁ、分かったよ……英くん手伝うよ?」
「あざっす、コソッ(帰ってきた兄貴、性格は変わってないくせに力強くなってるんで危険っすよ)」
「大丈夫だよ、コソッ(やっぱり?と言うか既に体験済みだったね)」
「……コソッ(……そっすね)」
聞こえてるからな?
ったく、愚痴るなら聞こえないところでやれっての……。
「さて、羽月お前は真子と日奈ちゃんの相手でもしといてくれ。
真子、和寛借りるぞ」
「はーい、行こ!まこっちゃん!ヒナぴよ!」
「ええ、ご自由にどうぞ?」
二人がリビングに行くのを見送り、俺はキッチンへと向かう。
我が家のキッチンは、父のこだわりで業務用顔負けレベルな超本格仕様になっている。
「よし、英、お前はリビング掃除したり、皿やらコップやら準備しとけ。
和寛は昔同様、俺の手伝いな」
「おっけー」
「分かった、取り敢えず指示をくれ」
さて、本来は帰ってきた俺が主役なんだろうが、料理といきましょうか。
第三話になります。
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