第十五話 親バカ、従業員
◇ ◇ ◇
沖縄に来て約半年が過ぎようとしていた。
開店準備も半年もあれば流石に終わり、俺は残り半年を悠々自適と過ごす気満々である。
そんな俺の話は置いといて、残りの異世界組はというと、徐々にやりたい事が定まってきている様である。
今現在、初めに出て行った十三人に加えて、更に十二人が各々の人生を進みだした。
なので異世界組は残りの十一人が、現在民宿にて暮らしている状況だ。
以前学校に行きたいと言っていた、アイナ、ミミ、コレット、リィーナの四人は絶賛受験勉強中である。
どうやら四人揃って都内の高校に進学するつもりらしく、毎日夜遅くまで四人仲良く勉強している。
ちなみに一応、現役大学生の英と名門高校出身の咲が、家庭教師として四人に勉強を教えている。
咲は、地球での記憶が十六歳で止まっていた俺ですら知っている有名高校を卒業していたので、安心なのだが……。
英が教えるって大丈夫なのか?と心配したのだが、俺が教えるよりはまだマシ、という事で任せている。
それにしても、アイナ、ミミ、コレットの元【ビーズ】に関しては向こうの孤児院出身のため、合格後は三人で部屋を借りると言っていたが、リィーナはどうするのであろうか?
アイナに関しては、同じく冒険者の兄も一緒にこちらに来ているが、三人は孤児である。
今は成人組が保護者となっているのだけなので、都内に住もうが一応関係無いのだが、リィーナに関しては家族四人でこちらに来ている。
両親と兄に関しては、このまま沖縄にいる雰囲気なのだが、そこら辺、きちんと話をしているのだろうか?
◇ ◇ ◇
ある日の夜、俺が異世界で定宿としていた宿屋の店主でリィーナの父親のガナルと、その息子でリィーナの兄であるロッドと三人で近所の居酒屋へと来ていた。
なんでも相談があると言われたんだが……。
もしかしなくてもリィーナの件であろうか?
「なぁ、ゴウ。
東京ってどんな所だ?」
取り敢えず生で乾杯早々、ガナルが俺に聞いてきた。
「リィーナの事か?」
「あぁ、一応俺もこの世界には慣れてきたが……知れば知るほど、この世界はとにかく人が多く、何より文化や色々価値観が違うと、改めて思い知らされてな。
それに東京は冷たい人間ばかりと聞いたぞ?」
「あー、俺も漁師のおっちゃんに聞いたわ。
困ってても誰も助けてくれないらしいぞ?」
「ふっ、あははは!」
『なんで笑う!(んだよ!)』
異世界での二人を知っているからこそ、二人の発言を聞いて思わず笑ってしまった。
「はぁー、すまんすまん。
確かに地方に比べたら都会は冷たい人間も多いだろうが……それは向こうでの田舎の村と王都でも同じだろ?」
「……うむ」
「……確かに」
「だろ?そもそも文化が違いすぎるんだ。
向こうに比べてこっちは、一人で生きていく事が容易って事じゃないか?
魔物も居ないわ、むしろ世界規模で比べたら日本って治安良い方だからな?
それに危険度的には向こうより、こっちの方が断然安全だろ?」
「……うーん、確かに」
「うん、俺もそう思うかも……?」
まぁそれだけこいつらが、こっちの世界に慣れてきてるって事だと思うけどな。
じゃなきゃ、こんな心配しないだろ。
「ってか、そんな心配ならビーズの三人と一緒に四人で暮らさせたらいいじゃん。
別に一人暮らししたいって言ってる訳じゃねぇんだろ?」
「……そうなんだが」
俺の言葉でロッドは納得したようだが、父であるガナルは未だ渋い顔をしている。
「子供が居ない俺が言うのもなんたが……上京するって言ってる娘を持つ父親は、みんな同じ悩み方してると思うぞ?
お前達が異世界人だからって悩みじゃねぇから、安心してやりたい事やらせたら良いんじゃないか?」
「……そうか、俺が考え過ぎてたのかも知れんな……」
まぁ、気持ちは分からなくないけどな。
俺も向こうに行ったばっかの頃は、生きていくのに必死で他人を信用する事出来なかったからな。
「親父、考えてみればゴウさんの言う通りだと思うぞ?
しかもこっちはコレがあるんだしさ?」
そう言ってロッドはスマホを取り出した。
確かに、当たり前すぎて気付かなかったが、向こうじゃ連絡手段は手紙が主流だからな。
それに比べたらタイムロスなしで連絡取れるんだから、凄いよなぁ……。
「そうだよ、なんかあったら連絡くるだろ。
俺達全員で連絡交換しあってるんだし、アイナ達の他にも、都内に行った奴は居るだろ?
なんかあったら、誰かしら助けてくれるって」
「そうだな!よし!スッキリした所で飲むか!」
はぁこのおっさん、切り替え早すぎるだろ。
さっきまでの親バカっぷりはどこに行ったんだ?
その後、泡盛飲みまくって潰れた二人は悩みなんて全く無い良い顔をしていた。
そしてその二人を民宿まで運んだ俺は、飲み過ぎ!と一人、女性陣に叱られたのであった……ナニコレ、全くもって解せんのだが。
◇ ◇ ◇
季節は冬。
暦は新年を迎えてから、数日後のこと。
今年は転移魔法を使える便利な人達のおかげで、気軽に俺たちが今いる民宿で、年末から正月を過ごした。
我が家の面々や四宮家の面々、そして働き出した異世界組もそれぞれの居場所へと帰り少し寂しさを感じながら、過ごしていると。
「ゴウ、少し話があるのだが……」
「ん?改まってどうしたんだ?らしくないな」
「っ!らしくないのは、ほっといてくれ!」
「おーおー、そっちの方がいつものサラっぽいぞ?」
「っ!このっ!」
おっと、これ以上は危ない。
こいつがうちのギルドにやってきた当初、あまりギルドに馴染めなかったコイツを弄りまくっていた癖が……。
「それで?どうしたんだ?」
「うむ、取り敢えず着いてきてくれるか?」
「おう」
何かは知らんが、言う通りに着いていくと、そこにはアイナの兄で同じ狼の獣人族のバロン。
コイツが、ブラード、サラ、バーカスのパーティーの最後の一人でAランク冒険者である。
ちなみにめっちゃバカ、英と同じレベルと言っていい。
そして、サラの妹でエルフのミラ。
コイツも地球に来ているあと二人と元に【スカーレット】ってパーティーを組んでいた。
きちんとしている姉とは違って結構大雑把である。
うちの妹のようですね、はい。
加えてうちの愚弟に咲の四人が待っていた。
「どうしたんだ?こんな揃って」
「兄貴!実は俺達を兄貴のお店で働かせて欲しいんです!!」
バロンが代表してうるさい声で話し出した。
ってか……えぇ、サラはまだいいとしても、ミラとお前もぉ?
「兄貴、すげぇ顔に出てるぞ?」
今俺に話したのは弟の英。
ってかお前達二人して兄貴呼びって紛らわしいな。
どっちか変えろよ呼び方よぉ。
「なんで、俺がこんな奴の為に変えなきゃならないんすか!」狼
「あー?こんな奴って、お前みたいな脳筋に言われなくないわ!」弟
「はぁ?どっちが脳筋だよ!どう見てもお前だろ!
ってか、兄貴の実の弟だったとしてもこんな弱い奴に兄貴を兄貴って呼ぶ権利はねぇよ!」狼
「馬鹿じゃねぇの?
血が繋がってんのに兄貴って呼んで何が悪いんだよ!
むしろお前、兄貴のこと慕ってるならさん付けでもしたらー?」弟
「うるさい、黙れ」
「「はい……」」
はぁ、こいつら会ってからと言うもの、顔を合わせるたびに喧嘩してるよぁ。
ある意味仲が良いのか?
似たもの同士だからだろうか……?
「なんでお前達喧嘩ばっかしてるんだ?
てか、バロン、英に関しては働く事が決定してるんだ。
そんな調子じゃ働けねぇだろ?」
俺の発言に落ち込むバロンと得意げな英。
「お前も一回一回反応すんなよ、面倒臭い。
次なんかしたら問答無用で二人とも〆るから」
「「そんなぁ……」」
息ぴったりじゃねぇか、仲良しかよ……。
「はぁ、バロンはどうせ俺が居るから働きてぇんだろ?」
「っす!」
「いいけど、その代わり英と喧嘩しないのが条件だ」
「……っす」
そこまで嫌かね……。
何がそう気に入らないんだが……。
「次ミラはなんでだ?」
「……特にやりたい事が見つからなかった。
でも働きゃなきゃゴウから貰ったお金も無くなる。
……お菓子食べれなくなるのは嫌だから働く事にした。
姉さんに相談したらゴウの所を紹介された」
「なるほどな」
相変わらず、何考えてるのか分からんやつだな。
いや、逆にお菓子のことだけ考えてんのかコイツ。
おい、ミラ、後ろで姉が頭抱えてんぞ?
「サラは?」
「元々接客に興味があったのもあるが……この妹が私の目の届かない所でやらかさないか心配するよりなら、もはや身内の所で一緒に働こうと思ったんだ」
「……なるほど、大変だな」
「言うな……気にしないようにしてるんだ」
「……すまん」
「??」
天然もここまでくると、まさに天然記念物級である。
まぁ天然であって、別にバカではない。
愚弟とバロンに比べたら全然マシだけどな。
その後、色々打ち合わせをして、無事三人がうちの店で働く事になったのであった。
第十五話になります。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
是非評価、感想など頂けたら幸いです。
それでは次話もお楽しみください。