第十四話 次々と
◇ ◇ ◇
「ってか、見て回るってそんな色々回るつもりなのか?」
「うむ、取り敢えず三大原種を栽培しておる有名生産国は巡るつもりじゃの。
豆そのものを見て、各国の喫茶店も巡るつもりじゃ。
勿論、日本の生産地や喫茶店も巡るつもりじゃぞ?
当たり前じゃがコーヒーの淹れ方から学ぶつもりじゃからのぉ……。
あとは……」
「ちょ、ちょっと待って……三大原種は何かは知らんが、もしかして日本以外……つまり外国に行くつもりなのか?」
「勿論じゃ」
名前からしてコーヒー豆の事なんだろうが。
初めて知ったわ三大原種ってワード自体。
ってか、そこまでガチなのか……まぁ喫茶店を開くって言うんだから、まずは豆から知るつもりなんだろうが……。
缶コーヒーしか知らん俺があれこれ言ったところで藪蛇だろう……。
「パスポートとかあるのか?
転移魔法は行ったところしか使えないはずだから、行きは船か飛行機になるだろ?
まさか、認識阻害で飛行魔法からの不法入国とかやめてくれよ?」
「フォッフォッ、安心せい、もしもの時は魔法を使うつもりじゃが……ほれ」
そう言って親父が見せてくれたのは……パスポート!?
「え!?いつの間に……って父さんか」
「うむ、戸籍の話をするとき、ついでに頼んでおいたのじゃよ。
わし以外にも何人か頼んでおったぞ?」
知らんかった……。
まぁ、別にアイツらが何をしようと俺にあれこれ言う権利はないんだが……まだ心配性が抜けない。
親父はまだしも、特定の奴等は何かしらやらかしそうで怖い。
「まぁ、了解。
何かあったら転移魔法で呼び出すからよろしく」
「エルフ使いが荒いのぉ……」
「アイツらの責任者は親父だろ?」
「…………うむ」
おいおい、そこは即答してくれよ……。
◇ ◇ ◇
あれから親父の手続きを色々しているうちに、自分も自分も、と続々と名乗りをあげ、親父も合わせて計十三人が各々の目的地へと旅立ってしまった。
「いやぁ、民宿が臨機応変に対応してくれるところでよかったな、兄貴」
「本当だよなぁ、まさか来て一週間ちょいで十三人も出ていくとは思わなかったからな」
「聞いた?バーカスさんうちの近くで酒屋やるみたいだよ?
しかも角打ちもすんだってさ」
角打ちとは酒屋で買った酒をその場で飲むこと、またはその店の事である。
「聞いた聞いた。
口じゃ「わしの酒に対する情熱を……」って言ってたが、俺には仕事中も酒を飲む口実にしか聞こえなかったけどな?」
「あはは……」
英が話したバーカスとは、俺たちと同じギルド所属のAランク冒険者である。
そういえば……ブラードやサラ、もう一人との四人でパーティを組んでいたな。
うちのギルドで最強パーティーだ。
俺も含め何故か高ランク冒険者達はソロになりたがる傾向があるからな……決してぼっちではない。
そして大体が武器職人や防具職人、その他大工や木工職人、革職人などの、ものづくり関連の職人になる中、冒険者になった変わり者ドワーフでもある。
「それに酒といえば、エレンなんかはワインの会社作るとか言ってなかったか?」
「あぁ、そういえば言ってた気がする。
セバスさんだっけ?暫くあの人と一緒に動くらしいよ?」
「アイツ生粋の貴族のお嬢様だからなぁ……」
エレンというのは、本名がエレン・シーリャ。
シーリャ公爵家の五女、正真正銘マジもんのお嬢様である。
昔ブラード達と合同で護衛依頼を受けた時に仲良くなってからの知り合いである。
貴族の子女なのだが、父親である公爵が手を焼くほどに昔から男勝りというか、お転婆なのである。
まさか異世界までやってくるとは思っていなかったから、最初は見間違いかと思ったが、側近のセバスとマリアもやって来ているのを見て納得した。
間違い無く本物だ……と。
「ワインの会社って何するんだろうね?」
「貿易会社でも作るんじゃねぇか、それかワインそのものを作るとか?
ま、あいつの商才ならなんでも上手くやるだろうさ」
「商才?貴族のお嬢様なんじゃないの?」
「そう思うだろ?……あいつ向こうでも果実酒の商会作って滅茶苦茶儲けてたんだよ。
あいつの果実酒好きは筋金入りだから、どうせこっちのワインを飲んでドハマりしたんだろうよ。
そんな奴がいくら地球だからって、儲けれないと思うか?」
「確かに……めちゃくちゃ儲けそう。
でも、セバスさんは連れていくのに、マリアさんは連れていかないんだね?」
確かに……そうなのだ。
異世界からエレンのお付きとして、セバスとマリアの二人がツーリャ公爵家からやってきたのだが、エレンがセバスとマリアに対して。
「ここは向こうとは違う世界、この世界では私に仕えるのでは無く自らの好きな事をして自由に生きなさい」と言ったらしい。
勿論二人は反対したのだが、断固としてエレンは認めなかった為、妥協案としてセバスはエレンの仕事が波に乗るまでは手伝い、その後自身の仕事を見つけるらしい。
エレンに加えセバスからも自由に生きろと言われたマリアは、これから自分のやりたい事を探す様である。
「他のメンツからも話聞いたけど、面白いくらいやりたい事がバラバラで笑ったわ」
「まぁ、違う世界だから何もかも面白そうに見えるんじゃないの?
兄貴だって、異世界行って最初はワクワクしたんじゃない?」
「いや、俺は生きるのに精一杯だったけど?」
「あっ、ごめん」
いや、別に責めている訳じゃねーよ。
……しかし、今考えても、我ながらよく生き抜いたと感心する。
「さて……流石に仕事するか」
「おう!」
その後めちゃくちゃ仕事した俺たちであった。
◇ ◇ ◇
親父達が自らの道を決め旅立ってから暫く経った頃……。
「ゴウの兄貴ー!今いいか!」
「バタバタ走るんじゃねぇよ、それにノックくらいしろっての……。
って、どうしたんだお前ら?」
俺が咲(ある日、ちゃん付けやめて!と言われた為呼び捨て)と共に店のメニュー表を作っていると、狼の獣人族のアイナを先頭に四人が突然部屋に入ってきた。
『うちら(私達)学校に行きたい!』
「……んー?学校ぅ?」
「そう!JKになりたい!
学校の金は兄貴から貰ったので行けるだろ!
それに、未成年は面倒見てくれるって言ってたじゃん!」
うん、確かに言った。
それにしても学校か……しかもJKって……。
こいつら見事に日本に染まっていますね。
「ん?ってか、お前達今、いくつだ?」
「十五だぞ?」
「ってことは、高校か……」
いやいや、JKって言ってたじゃん。
ってか、もしかしなくても義務教育的に現時点で中学行っとかなきゃいけない感じ?
そこら辺どうなってるんだろ?
「まぁ、取り敢えずお前達の言い分は分かった。
俺から父さんに色々聞いとくから、また決まったら教えるよ」
「はい、よろしくお願いします」
「おう、いつも言ってるがそんな畏まらなくてもいいぞ?」
「いえ、これが素なので……」
今俺にお礼を言ったのがミミ、兎の獣人で真面目な子だ。
さっきのアイナは男勝りで大雑把である。
相変わらず真逆って感じだな。
「……ありがと」
「おう」
今のがコレット、猫の獣人でめっちゃ無口。
そういや、こいつら三人で向こうじゃ【ビーズ】ってパーティーを組んでたな。
「ゴウさん、学校って楽しい!?
ゴウさん高校行ってたの!?」
今のがリィーナ。
俺が定宿にしてた宿屋の娘である。
少し天然の気があるが、とにかく明るい子である。
そう言えば、アイナ達と同い年で仲良かった記憶がある様な……。
「学校かぁ……俺高校上がる前に向こうに飛ばされたから、中学までしか行ってないが。
勉強は好き嫌いあると思うが、色んな奴がいるから楽しいんじゃねぇか?」
その後も次々と質問してくる四人に対して、あれこれ答えていると……。
「ふふっ」
「ん?咲、なんで笑ってんだ?」
何故か目の前で作業していた咲が笑い出した。
「だって、学校サボりまくって喧嘩ばっかしてた豪にいが真面目に……ふふっ」
「えっ!なになに!?
ゴウさん不良だったの!?」
「おまっ、……はぁ、俺の話はいいだろ?
咲お前は余計な事を話すな、リィーナも聞かなくていいからな?
取り敢えず四人とも父さんに色々聞いておくから、それまで適当に過ごしときな?」
『はい!(おう!)』
はぁ……黒歴史ばっかじゃねぇか、今までの俺よぉ。
それに、俺ってもしかしなくても中卒じゃん。
決して中卒が悪い訳じゃないが、高卒認定くらい取っとくかな?
父さんに四人のことを聞くついでに、俺の事も聞いておくかな?
第十四話になります。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
是非評価、感想など頂けたら励みになります。
そして悲報です。
ストックの数が悲しい事になっており、完結まで毎日投稿を一応目指してましたが……いずれは不定期投稿になりそうです。
完結まではめげずに頑張るので、これからも温かく見守って頂くと幸いです。