第十二話 治療
◇ ◇ ◇
咲ちゃんの治療の約束をした日から数日。
四宮家の都合の良い日を聞き、そして現在、俺はある人物達を乗せて車を走らせている。
「へぇーこれが自動車なのねぇ。
馬がいらない馬車って話だったけど、本当なのねぇ、ワクワクするわぁ〜」
英以上のガタイをクネクネさせながら、後部座席ではしゃいでいるのが、ブラードや俺と同じSランク冒険者にして、回復魔法に特化した冒険者のアログリン。
お察しの通り、お兄さんでは無くおネエさんである。
ちなみに馴染みのメンツは別だが、初対面にはアロンちゃんと呼べ、とお願い(脅して)している。
コイツのせいで、うちのギルドにやってくる新人冒険者の八割は辞めていく。
【頂】の第一関門と呼ばれていたのが懐かしい。
補足情報だが、俺は大型二輪の免許を取る際、普通自動車の免許も同時に取得済みである。
そして、車もバイクと同時に買ってあるのだ。
貴金属・宝石売りサイコウ……ぶい。
「それにしてもホント揺れないのね……馬車とは大違いで快適だわ」
もう一人が、ダークエルフのマゼラ。
うちのギルド専属の薬師として働いており、元冒険者でもある。
異世界でも凄腕で有名な二人なので、どちらか一人でも良いのだが、今回は未知な地球の病気という事で、万全の二人体制である。
そして安心して欲しい、マゼラは普通のお姉さんである。
「よし、着いたぞ。
二人とも行くぞ」
「はぁい」「えぇ行きましょう」
その後、無事到着したのだが、四宮家の面々がアロンを見て、固まるというプチハプニングがあったものの、今は二人が治療方法を四宮家に説明している。
「取り敢えず、私が様子を見てみるわ。
状況に応じて、アロンには回復魔法をお願いするわね」
「はぁい、何かあったら言ってね、マゼラちゃん♪」
そして俺は二人の送り迎えだけなので、特に何もする事が無くリビングで和寛の両親と雑談中。
「ごめんね豪ちゃん、あの子今日も豪ちゃんに今の姿見られたくないみたいで……」
「あぁ、前もって和寛から聞いてるから別に大丈夫です。
まぁ気持ちは分からなくはないんで……」
俺は以前、和寛の両親に十年ぶりに顔を見せに家に来たのだが、その時も咲ちゃんには会えなかった。
そして今回も同様である為、アロンにマゼラ、そして和寛が部屋に行っている。
「と言うか、聞いたぞ豪。
お前爺さんの焼肉屋継ぐんだってな?」
ん?そう言えば……和寛の両親には前、寿司屋に行った時も言ってなかったかも……。
「そう言えば、言ってなかったっすね。
ぶっちゃけ働かなくても良いんすけど、何もしないってのも世間的にアレの上、何より暇なんでね。
今の俺がやれる事ったら、正直格闘家か傭兵の二択で悩んでたっすけど、偶々爺ちゃんに店の話されたんで、丁度良いかなって……」
「その二択は……って異世界とやらでずっと戦ってたんだっけか?」
「そっすね、軽く聞こえるかも知れないっすけど、ガチで生きるか死ぬか的な感じでしたね、ハハハ」
お茶を飲みつつ笑いながら話したが、二人の顔が引き攣っていた。
あっ……。
「そんな殺伐としているのか……大変だったんだな」
「いや、ぶっちゃけ安全な仕事もありましたよ?
こっちの……まぁアルバイト的な仕事もね。
ただ、恥ずかしながら異世界に行った時の俺って……」
「ふふっ、豪ちゃんあの時尖ってたものね」
早苗さん……忘れてくれよ。
濁したのにそんなハッキリ言わないでくれ……。
「ハッハッハ、なるほどなぁ。
それで調子乗った感じか?」
「えぇ、まぁそっすねぇ……。
最初は意外といけたんすけど、ランク、まぁ階級みたいな感じですね。
向こうには魔物ってのがいて、基本自分のランクにあった魔物を倒すんすけど、どんどんランクが上がるにつれて手こずりましてね。
ま、自分で言うのもなんですけど、鍛えまくったって感じっすね」
「昔は悪さする度にボコボコにしてたが、今じゃ全く相手にならんだろうな……」
「そうっすねぇ。
多分っすけど殴ったら手、怪我しますよ?」
「……マジでか?」
「マジっす」
和一さんの顔が再び引き攣っている。
早苗さんは楽しそうに笑っている……。
「豪、警察官にならんか?」
「絶対に嫌。」
勘弁してくれ、それに捕まったことは無いが、昔やらかしてた俺が、警察になれるわけないだろ?
なんかあるじゃん、家族で捕まってた人がいると警察なれないとかさ?
俺がお世話になってたのは周知だが、実は母さんも色々凄かったらしい……詳しくは知らん、と言うか教えてくれない。
周りの大人は全員口を揃えて「世の中には知らないほうが良い事もある」としか言わんしなぁ。
本当に、うちの母親は何したんでしょうね?
と、和寛両親と和やかに会話をしていると……。
ドタドタドタドタ!!?!
ガチャッ!!
「うぉっ、どうした!?」
びっくりしたぁ……。
階段から凄い音がしたと思ったら、すごい勢いで和寛がリビングに入ってきたのだ。
「父さん、母さん……咲が……治った」
「なにぃ!!」「えっ!」
ドタドタ!!
バタバタ!!
「うぉっ」
和寛の言葉を聞き、二人は先ほどの和寛の様な勢いで部屋を出て行った。
「豪、すまん、バタバタしてて。
お前も来るか?」
「いや、無事治ったんなら俺は帰るよ……。
落ち着いたら、今度菓子でも持って咲ちゃんに会いに来るから。
あっ、車でタバコ吸って待ってるから、部屋に戻ったらあいつらに帰るぞ、って伝えといてくれ」
「分かった……豪本当にありがとう……」
そう言って、和寛が俺に頭を下げる。
「いいからそうゆうの、この間も言ったが俺が直接助けたわけじゃねーからな?
まぁ、って事でおじさん達にもよろしくなー。
……じゃ、また」
「おう、ありがとうな」
「はいはい」
流石に俺も野暮じゃ無い。
今は家族だけにしてやった方がいいだろう。
これからはいつでも会えるし、このまま居て変に畏まられても面倒だ。
車に乗りタバコに火をつけると、二人がやってきたので、そのまま車を出す。
「二人ともお疲れ。
咲ちゃんは完璧に治ったのか?」
「えぇ、完璧に治ったわよ♪」
「そうね、私の見た感じでも特に後遺症とかもなさそうだったわ」
「そっか、ありがとな」
これで一先ず安心だな。
そういえば、英が居なかったな。
元カップルとはいえあの感じだと、まだ全然好意はあるんだろう……何か予定でもあったのか?
そう思いながら、車を走らせていると目の前から英が走っているのが見えた。
車を止め、パッシングをするとこちらに気付いたようである。
「おう、英、咲ちゃんのことは聞いたか?」
「あぁ…ハァハァ…大学の講義、ハァハァ…抜け出して、走ってきた」
なるほどな、それでそんな死にそうになってんのな。
最寄りからここまで結構あるからな、ずっと走ってきたのだろう。
「送ろうか?」
「いや、大丈夫。
このまま走った方早いから、あと兄貴、帰ったら話あるから」
「おう、気ぃ付けてな」
「兄貴、二人もありがとう」
英が俺たち三人に頭を下げてお礼を言う。
そして、そのまま走って行ってしまった。
「はぁ、慌ただしい奴だな」
「ゴウとはあまり似てないわね」
「そうねぇ、でもどっちも違う良さがあってイイ男よぉ〜」
確かに似てるって言われた事あんまりってか、一度も無いんじゃないか?
そして、アロン、お前は黙れ。
◇ ◇ ◇
そしてその日の夜、いつも通り大人数でガヤガヤと飯を食べた後、外で一服していると、英がやってきた。
「そういや兄貴タバコ吸ってるんだっけ」
「ん?あぁ、異世界にもタバコはあったからな……タバコは吸わない方がいいぞー?
辞めれなくなるからな?俺は辞める気無いだけだけど」
「吸わねーよ、昔兄貴が母さんに怒られてるのを見て育ったんだぞ?」
う、確かに……まさに反面教師ってやつだな。
「そんで、話があるんだろ?」
「うん、こうして改めて言うのめっちゃ恥ずいんだけどさ……咲ちゃんと改めて付き合ったわ」
「ふーん、よかったじゃん」
なんだこいつ?
わざわざそんな事を言いに来たのか?
「あとさ、兄貴……俺、兄貴の所に就職したいんだ……」
「はぁ?」
何言っちゃってんのこいつ?
咲ちゃん治って付き合えたから、舞い上がってんのか?
「いや、俺、経営学部じゃん?
会社について色々学んでるしさ!
兄貴が色々面倒だと思う事、押し付けてくれてもいいんだぜ!?
あと……」
「分かった、分かったから一回落ち着け。
なんで俺の所で働こうと思ったんだ?
別に咲ちゃんのお礼でとかなら願い下げだからな?」
変な所が真面目なこいつの事だから、咲ちゃんを助けてくれた義理でとか思いそうだからな。
「まぁその気持ちが無いって言ったら嘘になる。
でも、兄貴のところで働きたいって思ってるのは本気だぞ?
正直、副業のアクセサリー作りも、プロのラクビー選手もあまりピンと来てないんだ。
このままどっかの会社に就職するくらいなら、兄貴のところで働く方が楽しいと思うんだ。
それに、兄貴や周りの人達がいる環境が普通なわけ無いと思ってるからさ!」
はぁ、目キラキラしやがって……。
俺こいつのこういう所弱いんだよなぁ……。
ん?……てか、お前の副業ってアクセサリー作りなの!?
それでスポーツカー買えるって、才能じゃん最早!
「はぁ、俺に言ってきたって事は、もう父さん達にも言ってあるんだろ?」
「勿論」
「分かったよ、お前の望む職場かは知らんが、これから宜しくな?」
「おう!まかせろ!」
こうして、俺の店の従業員第一号が決まったのであった。
第十二話になります。
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