結成式という名の降下作戦前の移動時間
『結成おめでとうございます、レギンレイヴ小隊。旧渋谷区に出現したアノマリーの情報については、6番チャンネルで公開します』
揺れる輸送オスプレイの中、機械音声が無愛想に告げる。
結成おめでとうございます、といってもまだ結成式はおろか顔合わせも行われていない。それどころか小隊長は式場に到着する前に出動命令が発令されたため、彼を載せたオスプレイはそのまま現場に急行している。
「それで、嬢ちゃんが副長か?」
正面に私と相対して座る男性。年齢は40代半ばと言ったところだろうか。はちきれんばかりに膨れた戦闘服は、その筋肉質な体躯を想像させる。刈り上げされた黒髪と無精髭も威圧的で、歴戦の傭兵であると一目で分かる。
レイン・スコフィールド公安少尉。
彼の一族は戦闘機がまだ複葉機だった時代から何世代も戦闘機に乗っていたらしいが、彼は戦闘機で空を飛ぶのではなく公安局に入りブラスター重機関銃でアノマリーを撃つのを選んだらしい。
「あぁ、オルカだ。階級は中尉。よろしく頼む」
「…ったく、二十数歳も年下の嬢ちゃんに階級を先越されるったぁ俺も堕ちたもんだな」
しかし、単純な殴り合いなどの対人戦では彼の方が強いだろう。アノマリーと戦う公安局においてはほぼ不要な技能であるってだけで。
「士官学校を女性で初めて主席卒業だもんね」
奥からやってきて私の隣に座ったのは私よりも年上らしい女性だった。
赤茶のポニーテールに右目の涙ぼくろが蠱惑的な、おっとりとした長身のお姉さん。
小隊の軍医担当と調理担当を兼ねる特技少尉。
「アイル・アクヴァーよ。よろしくね」
「あぁ」
彼女が微笑むと、その涙ぼくろがより一層強調される。
「もしかして緊張してる?」
「ん、あまり人と話すのは慣れていない」
「その男っぽい喋り方、素なんだ。かっこいいね」
会話しながら彼女はぐいぐいと近づいてくる。
金木犀の香りがふわりと立つ。香水だろうか。
なんというかまぁ、危険な距離である。
「人と話すのに慣れてないくせに副長になったの?」
先程まで端っこの影の中座り黙っていた少年が口を開く。
人事ファイルによると顔立ちの整った、一言で言えば美少年なのだが、物言いが率直にして毒舌で辛辣らしい。
「と言われてもな。私だって上が何考えてるのか分かったもんじゃない。士官学校卒業後いきなり副長として精鋭部隊配属なんて」
「アンタ、何か特技は?」
「ブラスター小銃の精密連続射撃とワイヤーアンカーの三次元戦闘」
「うっわ、あんな自殺志願者が使うような兵装、アンタも使ってるんだ」
ワイヤーアンカーとは歩兵が装備するオプション兵装で、ガス圧の力でワイヤーアンカーを射出し、それを高速で巻き取ることで建造物や敵に自分を引き寄せたり高所に登ったりできる兵装だ。高速で移動できるため敵の撹乱も行えるし行動の自由度が上がる。
聞こえはいいのだがそれも自分の体が追いつけばいいだけの話で、目標に着地する際に体制が悪ければ打撲や脳震盪を起こすしそれだけじゃ済まない場合もある。全体的に体の柔軟性と筋力が必要な兵装だ。故に使っている奴は士官学校の中でも私だけだった。
「僕以外にもいるんだなぁ」
彼が立ち上がり、影の中から抜け出ることによって照明に照らされ彼の全貌が明らかになる。
金髪のボサボサした天然パーマに狐や狼のような澄んだ青色の目。コーカソイドを彷彿とさせる日本人の顔立ちは人事ファイル通り美少年だ。
「僕はアイル・タチバナ。階級は少尉。よろしく」
一年前の士官学校卒業生の、次席である。
「それで、小隊長はどんな奴なんだ?人事ファイル貰ってんだろ?」
「残念ながら副長である私も、小隊長に関する人事ファイルはもらっていない」
普通ありえない話なのだが、上に掛け合ってみると機密保持の都合上人事ファイルの作成すら行っていないらしい。
用意周到にも程があるが、今分かっているのは男性であるということと、私と同年代であること。まぁその情報が本物なのかどうかは怪しいところではあるが。
「情報の壁ってヤツ?」
「かもな」
『レギンレイヴ小隊、まもなく戦闘域に侵入します。降下の用意を』
「それじゃ楽しい楽しい狩りの時間だ。パラシュートの用意はいいな?」
なぜかレインが仕切っているが本人が楽しそうだからまぁいい。
「これよりレギンレイヴ小隊は旧渋谷に出現したアノマリー群を殲滅する」
『了解。武器安全装置を解除。どうか、楽しい狩りを』
はじめまして、あなたの周りを漂う水素分子です。初投稿として好きに書き殴りました。感想等あれば伝えていただけるとモチベに繋がるのでよろしくです。
次の話が投稿されるかどうかはモチベ次第。