最終話 次代へ
このお話もいよいよ最終話です。
そう、エピローグ的な。。。
第9章 次代へ
あっという間に年が明けた。教授の葬儀には各界の著名人も訪れ、教授がいかに凄い人だったかということを思い知らされた。でも、その辺は教授のお兄さんがうまく取り仕切っていたようで、葬儀は厳かにその全てを終了した。
井上さんの方は上々酌量が認められ、執行猶予がついた。しばらくは謹慎するようだが、坂本さんは井上さんに戻ってきてほしいと話していた。ミクやミクの伯父さんもそれには賛成しているらしい。井上さんも、いろいろあったがあの研究所を盛り立てて行く気持ちにうそはなかったようだ。
学校も新学期が始まった。俺は相変わらず放課後を研究所で過ごしている。最近は坂本さんが俺にプログラムの勉強をしろと盛んに薦めている。
変わった事と言えば、今まで教授に貰っていたゲームのソフトが貰えなくなって、とうとう佐伯がゲーム作りに乗り出した事か。もともと素質があるやつだったから、あっという間に新しいゲームのプロジェクトに組み込まれ、忙しい日々を送っている。もちろん行き先は、佐伯のお兄さんの会社だ。由紀はちょっと寂しそうだが、それでもお弁当を持って押しかけているらしい。最近では、その会社の守衛さんにも顔を覚えてもらって、顔パスになっているのだそうだ。佐伯は今頃になって俺に耳打ちをしてくるんだ。
「あの時葵が言った、きついぞ、の意味が最近やっとわかってきたよ。いやぁ、毎日が刺激的だよ」
俺の目には殆どやせ我慢に見えるが、アイツはコレに耐えてこそ男だと信じ込んでいるらしい。アイツの家庭環境が垣間見れたようで面白かった。
ところで、ミクは年末年始の忙しい時期を母さんにこき使われて、年明け早々に伯父さんを交えて話し合う事になった。
「いつまでもご好意に甘えている事もできませんし、この辺りで一度じっくり話し合うべきじゃないかと思うのです」
伯父さんは医者としてはとても優れた腕を持っているらしいが、それがあだになっていまだに結婚できないでいるらしい。病院の近くのマンションに一人住まいをしていると聞いて、ミクが自分の家に来てほしいと提案した。一緒に住むといっても伯父さんはほとんど病院に詰めているらしい。それでも、ずっと一人で暮らしているより気が楽というものだ。
話はすぐに決まった。世間が正月気分からやっと抜け出した頃、伯父さんはミクの家に引っ越してきた。部屋は教授の所をそのまま譲り受ける形になった。ミクも俺の家から自宅に戻った。女子という奴は、いるとうるさいが居なくなると寂しいモノだとそのときとても強烈に思った。
「なんだか家の中の火が消えたみたいだな」
父さんは食事の度にそれを口にした。
「そのうち息子達がお嫁さんを連れてきてくれますよ」
母さんが笑いながら答えている。兄貴はともかく俺はまだ十六だしなあ。
「正一はふらふらして当てにならないみたいだけど、健二はもう相手が決まったも同然だものねぇ。後はいつ結婚式をするか決めるだけだわ。あははは」
両親が、俺の彼女を認めてくれているということは決して困った事ではないのだけれど、十六歳相手にそこまで話をすすめんでもいいだろうに。
「あら、もうこんな時間! 私、一足先に出かけるわよ。父さんは今日新年会だったわね。私も今日は商談が入ってるし…。健二、あんた今日ミクちゃんとこでごはん食べさせてもらってよ。じゃあね」
「ええっ! そんな…! もう行っちゃったよ、まったく」
呆れている俺の横を、すでに上着をきた父さんがすり抜けて行った。
「健二、ミクちゃんとだったら同居してやっても良いぞ。はっはっは」
「なんだよ、父さんまで!」
俺は顔から火が出る思いだった。だけど、どこかでこの会話を楽しんでいた。これから家族を持つ身になっても、こんな会話が出来る環境であれば良いな。なんでもない平凡な夢だけど、それこそが人が一番求めてるものなんじゃないだろうか。とりあえず、自分にそう言い聞かせて、学生カバンを掴んで飛び出した。
自分の未来に向かって。
(終わり)
いかがだったでしょうか?
推敲しながら、これって、ヤングケアラーの話でもあるんだなぁって、思って見たり。。。
感想、お待ちしております。