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眼鏡を拭いて、微笑みを  作者: しんた☆
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第3話 不穏

お母さんの亡くなり方で心に深い傷を負ったミクちゃん。そんな彼女にさらなる試練が訪れる。葵、助けになってあげて!

     第3章  不穏


 佐伯には歳の離れた兄貴がいる。その人が詳しいらしくて、佐伯はそんな兄貴の恩恵を充分に受けているようだ。サブリミナル効果って言っても、俺達なんかに見つけられるようなモノじゃない。佐伯の様子がおかしくて、兄貴が調べてくれたんだろう。

 それにしても、どうして教授はそんなものを作り出したんだろう。考えていると、パソコンが動き出した。


「人物照合完了。室内探知完了。」


 そろそろこれもやめようか。そんなことを考えながらモニターの前に座った。研究所の井上さんだった。


「やあ、葵君。悪いんだけど、あと一日。続けてバイトに入ってもらえないかな。データ入力の仕事が増えたんだ。今、坂本さんと頑張ってるところなんだけど、ちょっときびしいんだよ。明日は私も法事があるんで休ませてもらうことになってるしなぁ」

「法事って、ご両親の?」

「ああ、一周忌だ。早いもんだね。そういう事なんで、よろしく頼むよ」

「分かりました。…あ、そうだ。井上さんって、四年前も今の研究所で働いてました?」

「ああ、働いていたが、どうかしたか?」


 井上さんは、不思議そうに答えた。


「教授の様子がおかしくなったのって、やっぱ奥さんが亡くなったのが引き金だったんですか?」


 俺は、いきなり本題に入った。井上さんは、ちょっと口篭もった様子だったが、ぼつりぽつりと話し出した。


「そうか。別に隠していたわけじゃないんだが、君達も多かれ少なかれ教授と接触がある以上、影響がないとも言いきれんしな。

教授が精神的に病んでらっしゃるのは、認めざるを得ない事実だろう。私の個人的な見解だけど、奥さんが亡くなるより前から、教授は随分精神的に参っていた様子だったよ。あの頃って、ちょっとした発明ブームだったんだ。どこの研究所でも、しのぎを削って新たな技術の開発に力を注いでいたんだ。立川教授は、それまでから随分特許を取ってらしたからね。それなりに有名な方だった。私も教授の研究所で働けて、とても鼻が高かったもんさ。

 だけど、その発明ブームの真っ最中、教授はスランプに陥っているご様子だった。行き場のないストレスをゲーム開発に持って行かれて、ゲームはすごく売れたんだけど、教授の気持ちを満たす事はできなかった。それどころかとうとう奥さんにまで当り散らすようになって、その頃ここで働いていたみんなは随分心配していたんだ。そんな時だよ。奥さんが急に亡くなったのは。

 あの時の教授の取り乱し様といったら、哀れだったよ。どんなに当り散らしていても、大切に想ってらしたんだね。

 やっぱり葵君から見ても気になるかい?」


 井上さんに急に振られて、俺はちょっと焦ってしまった。


「え、ええ。まあ」

「そうか。君が気になるのは教授じゃなくてミクちゃんの方だね。力になってあげてほしいんだ。私達も、がんばって研究所を盛りたてていくからさ」


 俺は、顔をこすって火照った頬をごまかした。


「井上さん。どうしてあの研究所にこだわるんですか?」

「ん~。やっぱり教授を尊敬しているからね。今はどうであれ、教授はやっぱり凄い偉業を成し遂げた人なんだ。たとえ、今は仕事にならないとしても、教授には充分よくしていただいたから。それに、新たに研究所を構えるととても私達には設立できる金額じゃないからね。ここをお借りしていると思えば、これぐらい、安いもんさ。じゃあ、仕事の事は頼んだよ」


 井上さんは笑顔で回線を切った。そうか、一番辛い時に奥さんを失ってしまったんだ。いくら教授と言っても、やっぱり普通の人だもんな。俺はなんだかやるせない気持ちになってきた。


 玄関で音がした。母さんが帰ってきたんだ。ここはひとつ、ミクのお袋さんの親友である母さんにも事情を聞いておく必要がありそうだ。俺は急いで階段を降りた。


「おかえりー……どうしたの?」


 母さんは俺を見ると、小さく頷いただけで奥の部屋に入っていった。呆然と見送っていると、続いて父さんも帰ってきた。父さんは帰ってくるなり、俺に2階に上がるように言いつけ、母さんに続いて奥の部屋に入っていった。なんだか出鼻をくじかれてしまった。いや、それどころかなんだか不穏な空気が充満している。

なにかあったんだろうか。とりあえず自分の部屋に戻ると、そっと音を立てないように窓を開けておいた。


 一階の話し声は、窓さえ開けておけばおおかた聞こえるもんだ。盗み聞きは良いことではないけれど、同じ家族の一員として聞いておくべきだと俺は思っている。

 初めは俺に気を使ってか、小声で聞えづらかったが、少しずつ声が大きくなってくる。


「じゃあ、どうすれば信じてもらえるのよ! どうしても契約したい時は、ご飯ぐらい付き合うわよ。それが浮気だと言うなら、あなたは潔癖だと言える? 私はそんなことで目くじら立てたりしないわ! これでもあなたを信頼しているつもりよ」

「あんな楽しそうに話していて営業だって言えるのか? あんな顔、俺は随分見せてもらってないがな」

「あなたは疲れているんだわ。疲れてだだをこねてるだけよ。そんなこと、健二だってしないわよ」


 同感だ。最近の父さんときたら、家にいるときでも仕事の事ばっかりだ。のんびりしている姿なんて、長い事見ていない。俺は堪らなくなって階段を駆け下りた。


「今は俺の話しをしてるんじゃない! おまえが浮気していることを白状しろって言ってるんだ!」

「だから、あれは仕事の付き合いだって言ってるでしょ。仕事が終われば真っ直ぐ家に帰って健二と一緒に食事をしてるわ」

「そうだよ、父さん。変な勘ぐりしてないで、ちょっとは自分のことも考えてみてよ」

「健二……。聞いていたのか」

「聞えるさ、そんなでかい声でわめいていたら。俺だって子供じゃないんだ。仕事から帰ってくる母さんを見れば、浮気してるかどうかなんてわかるはずだよ。そんなことより、最近父さんちっともゆっくり家にいたことないじゃないか。そんな風にイライラしたって、何の解決にもならないだろ」

「健二……」


 父さんと母さんは、呆けたように俺をみていた。


「俺…。今、立川教授のことを調べてるんだ。様子がおかしいからって、ミクがすごく心配しててさ。手伝ってやることにしたんだ。それで今日、井上さんから聞かされたよ。立川教授も仕事の事でイライラしてミクのお袋さんに当り散らしてたんだってさ。そんな矢先にお袋さんが亡くなったから、教授も相当取り乱してたって言ってたよ。それを聞いて思ったんだ。家族だからって、甘え過ぎても行けないなってね」


 はあっと深いため息をついて、父さんがつぶやいた。


「いつの間にこんな生意気言うようになったんだか、まったく」

「あなたがお仕事なさってる間によ」


 母さんが穏やかに答えた。


「久し振りに有給でもとるか」


 父さんは、ちょっと照れたように小さく言うと、さっさとお風呂に入っていった。母さんは俺の方に振り向くと、にこやかに頷いた。でも、その目に微かに光るモノが見えて、俺はちょっとうろたえてしまった。

 俺は、なんだか今更ミクのお袋さんの事を聞き出す気にもなれず、すごすごと部屋に戻っていった。


 ベッドに寝そべるとミクの顔が浮かんだ。あいつはどんな思いで両親の言い争いをみていたんだろう。さっきみたいなけんかでも、高校生の俺になら少しは理解できるけど、小学生だったミクには絶望的なモノに見えたんだろうな。


 考え込んでいると、佐伯から連絡が入った。


「葵、やっぱり入ってたよ。で、ちょっと気になることがあるんだが……」

「なんだよ。もったいつけるなよ」

「確証はないんだが、あのゲームに刷り込まれている画像は、未公開のゲームの中の画像らしいんだ。たまたま兄貴の同僚がそのゲームを開発している部署に勤めてて、見る機会があったらしいんだが、他所にはデータを流していないものだから教授がこの画像をいれられる可能性はきわめて低い。だから、だれか他の人間がやったんじゃないかと……」

「そんな……。しかし何のために?」

「まだ今の段階ではわからないけど、相当数入っていたから、意図的なものとしか考えられないな。明日、家に来て確かめてみるかい?」

「ん~、そうしたいんだけど仕事の追加が来てさ。あと二日は研究所通いだよ。佐伯は土曜日は塾だったよな。日曜日に見せてもらおうかな」

「わかった。それまで気を付けろよ」


 佐伯は俺に念を押すように言うと、回線を切ってしまった。気を付けろって言われてもなぁ…。俺は研究所の人達の顔を一人一人思い浮かべた。そんなことしそうな人はいないんだけどな。恐怖と猜疑心を煽って、一体何の目的があるというんだろう。

 翌朝、学校に行くと、佐伯が声をかけてきた。昨日の内に、兄貴とその友人に日曜日の約束をとりつけておいてくれたらしい。佐伯もやる気になってきたってことか。


 放課後、研究所に行くと、いつものようにデータ入力が待っていた。佐伯があんなこというもんだから、なんとなく居心地が悪い。ただ、黙々と仕事をこなすしかなかった。教授の作ったゲームに、サブリミナル効果を生む画像を入れられる人って誰だろう。ひっきりなしに指を動かしながら、ふとそんな事が頭を掠めた。


「葵君、このまえ渡したゲーム、やってみたかい?」


 考えている矢先だったので、全身に鳥肌が出てしまった。振り向くと坂本さんがお茶を飲みに来ていた。


「いやぁ。それが、前のゲームで夢中に成り過ぎて寝不足しちゃったもんだから、お袋に叱られて。今は、友達に先に回してるんですよ」

「そうか。実は私も休憩の合間にちょっと遣らせてもらったんだが、なんだか気持ち悪くなってね。君達に渡したのはいいけど、大丈夫だったのかなって気になってさ。ま、平気そうでよかったよ」


 坂本さんは人懐っこい笑顔でそういうと、奥の部屋に入っていった。そうか、坂本さんも気持ち悪いって感じたんだ。こりゃ本物だな。俺は妙な所で感心してしまった。

 随分遅れてミクがやってきた。


「あれ、遅かったんだな」

「ごめーん。友達と話し込んじゃってさ。あとで、ちょっとだけいいかな」

「えっ……?」


 ミクは明らかに回りを警戒するように小さな声で最後の一言を言うと、お願いっと目で訴えてきた。俺は、微かに首を動かしてOKの合図をすると、ミクがほっとしたように笑った。それにしても、なんだかさっきからいい匂いが漂っている。


「ね。区切りのいいところで休憩しない? 肉まん買ってきたんだ~」


 ミクはちょっと自慢気に袋をちらつかせた。そうか、そう言う事だったのか。


「いいねぇ。ちょうどお腹が空いてきてたんだ。ラッキー!」

「じゃあ、さきに坂本さんに差し入れて来るね」


 ミクは楽しげに奥に入っていった。俺は、後少しで終わるデータシートを置きなおして、大急ぎで入力した。


 ドアがバタンとしまって、ミクはちょっと不可思議な顔をしてすぐに戻ってきた。


「どうした?」

「んー。なんでもないの…。ごめんね。すぐコーヒー入れるから」

「ああ、サンキュー」


 気のない返事を返しているけど、俺は結構この時間が楽しみだったりする。


「お砂糖、ひとつだったよね」

「うん」

「どうぞ」

「サンキュー。ミクのお袋さんとうちの母さんって、親友だったんだってな」

「うん、聞いたことあるよ。それに、小学校の三年生位の時、一緒に遊園地に行ったじゃない」


 すげぇ記憶力だ…。女子ってこういうの覚えるの得意だよなぁ。俺は肉まんにかぶりつきながら感心した。


「だいぶ減ってきたね、データシート。あと一時間位で出来るんじゃない?」

「それが甘いんだよなー。昨日井上さんから電話掛かってきてさ、あと一日延期だって。新たに発注があったみたいなんだ。バイト代が増えるのは嬉しいんだけどね。さーて、もうちょっとがんばるか。肉まん、サンキューな」


 俺が席に落ちついた頃、ミクは流しに食器を片付けに行った。変わりない笑顔を振り撒いているけど、ミクの表情は明らかにこわばっていた。さっきの話に関係する事なのか、それとも、坂本さんとなにかあったのか。誰もいない静かな室内に、時計の音と俺のキーボードの音だけが妙に大きく響いていた。

 取り付かれた様にただ黙々とキーボードを打ちつづけ、ようやく先のデータ入力が終わった。その間、ミクが席に戻った事も気付かないほどだった。ぐっと背筋を伸ばしていると、坂本さんがやってきた。


「出来たかい? じゃあ、今日は帰っていいよ。追加の仕事、まだデータシートが来てないんだ。明日の午前中には来るはずだから、頼んだよ」


 俺はさっさとロッカーから上着を取り出すと、失礼しますと研究所を後にした。門を出て、少し行った所でミクが来るのを待つことにした。どうもミクの様子がおかしい。五分経っても十分経ってもミクが出てこない。なんだか胸騒ぎがして、いそいで研究所に戻ることにした。


「すみませーん。ミク、まだいます?」


 ドアを開け、極力明るく声をかけて入った。目に飛び込んできたのは当惑したミクの顔と笑顔の坂本さんだった。


「あのさ、由紀がこの前のドラマのビデオ撮りした奴、貸して欲しいってさ。学校で言うの忘れてたらしくて、ここに来る時声かけてくれって頼まれてたんだ。実は俺も言うの忘れててさ。あいつ、幼馴染だからってすぐ俺のこと使いまわしやがるんだ。すぐに渡してもらえるんなら、帰りにあいつの家まで持って行くよ」


 ほんの一瞬だったが、ミクが安堵した視線を送ってきたのを感じた。


「ええーっ。それって誰が主演の奴? しょうがないなぁ。あ、じゃあ、私も失礼します」


 坂本さんはどう思ったかわからないが、ミクは後半を坂本さんに言うと、そそくさと研究所を抜け出してきた。ミクの家は門を別に設えられてあるが、建物は研究所と対になっていて、すぐそこにある。自宅の門をくぐる時、ミクはすばやく言った。


「ごめん、このままお芝居続けて!」


 俺はだまって頷くと、ミクの玄関の前で大袈裟に言った。


「早くしてくれよー。今日、宿題多いんだ」

「わかった。ちょっと待ってね」


 ミクは急いで二階に上がるとラジオをつけ、ばたばたと階段を降りてきた。


「これこれ。じゃあ、由紀によろしくね。おやすみー! この先のコンビニで待ってて!」


 後半は小声で言って目配せする。


「じゃあな」


 とりあえずそう言って、俺は玄関を出るとさっさと駅に向かった。最初の角を曲がった所でちょっと振り向いてみた。しかし人の気配はない。一体なにがどうなってるんだか。


 しばらくコンビニで立ち読みしているとミクがやってきた。


「ごめんね。実は今日、お父さんが病院に行ったの。昨日の夜、またいつもの思い込みが出て奴らが来るって大騒ぎしたのよ。それで、お父さんのお兄さんにあたる伯父さんに相談して、本人は凄く嫌がってたんだけどね、無理に病院に連れて行って検査入院させてもらったの。伯父さんがやっている病院だから私も安心だし。そしたらその伯父さんから電話が掛かってきて、なんだか心配な事を聞かされたから……。お願い! 相談に乗ってよ」


 ミクは真剣そのものだった。俺達は、コンビニでおでんとあったかいお茶を買い込んで、店の隣にある児童公園に場所を移した。


 公園の隅にあるベンチに座って、おでんを広げた。なんだか場違いな感じもするが、しょうがない。俺がちくわを頬張っていると、ミクは串刺しのコンニャクを握ったまま考え込んでいる。


「教授の具合、どうなんだって?」


 なんだか黙っていたら固まったままになりそうな気がして、俺のほうから話を振ってみた。


「うん。やっぱり精神的に病んでるって。お父さんって子供の頃からひとつの事を突き詰めてやってしまうところがある人だったんだって。成るべくして成ったって感じだそうよ。だから、伯父さんはあまり動揺してなかった。時間をかけて、ゆっくり治していこうって。ただ……」

「ただ?」

「ん…、伯父さんにもはっきりした事は言えないらしいんだけど、どうもお父さん自身だけの原因でそうなったわけじゃないような気がするって。外から何らかの働きかけがあったとか、環境が激変したとかそういうことが引き金になりやすいんだって。やっぱりお母さんが死んじゃったのが大きかったんだね」


 会話が途切れてしまった。どう言えば良いのか、正直わからない。言葉に詰まって食べかけのちくわを口に入れると、早くも冷めはじめていた。


「さっさと食べないと、冷めちゃうぞ」


 ミクは、えっと驚いた顔のまま俺を見た。


「食べないんなら俺が頂く!」


 俺はヤケクソでミクの持っているコンニャクにかぶりつく振りをしてやった。


「キャッ! もう! 何するのよ。びっくりしたー。だめよ、あげない」


 慌てて俺の口を避けてコンニャクを横にやると、それだけ言ってクスクス笑い出した。


「葵君ったら、へんなの。……ありがとう。元気が出るよ」

「どんなに大切な人だってさ、死んじゃったら戻ってきてはくれないんだよ。生きてる人間でなんとかするしかないんだよな。その伯父さん、治るって言ってくれてるんだろ。それなら大丈夫だ。あの教授のお兄さんなら間違いないさ」

「うん、そうだね」


 ミクはポツリとそれだけつぶやくと、だまっておでんの続きを食べ出した。見上げると綺麗な星空が広がっている。それを自分の吐いた息が霞めては消えて行った。もう、冬になり始めてるんだ。どおりで肉まんやおでんが上手いはずだ。


 星を見上げていて、不意になにかを聞き忘れているような気がした。そうだ、どうして教授の事を坂本さん達に隠そうとするんだ? それが気になってたんだ。俺はそれとなくミクに聞いてみた。


「えっと…。その。坂本さんがね。最近すごく私を意識してるって言うか…。上手く言えないんだけど、好意を持ってくださってるみたいで……弱みを見せたくないのよ。変に同情されたくないっていうか」


 ミクは答えにくそうにして、どう言ったものかと目の前の事実をいろんな言葉でこね回している。聞いているこっちまで胸が苦しくなりそうだ。


「で、ミクはどうなんだよ!」


 俺はなぜかイライラした口調でミクを問いただしてしまった。ミクは驚いたように俺を見て、またしても口篭もる。


「嫌いじゃないけど、好きでもないし。お世話にはなってるんだけど……」


 なんだかよく分からないが、どうやら坂本さんの片思いのようだ。


「なんだよ。びっくりさせるなよ」


 俺はなんだか肩透かしを食らったような気分でつぶやいた。


「今度の日曜に、食事に誘われてて困ってるんだ」

「じゃあ、俺と佐伯の家にでも行くか? ついでに佐伯と俺が揃ってる所でお袋さんのことも聞きたいし」


 ミクの顔がぱっと明るくなった。


「ホント? じゃあ、由紀ちゃんも一緒でいい?」


 な、何なんだ。随分さっきと雰囲気が違うぞ。焦っているとミクもそんな俺に気付いたらしい。


「あのね。由紀ちゃんから相談されてたの。彼女、佐伯君が好きなんだって。だから、この機会にちょっとでも仲良くなれたらいいと思わない?」

「そうか、アイツ俺が動かないとわかったらミクに相談もちかけたのか。だけど、おまえって変な奴だな。こんなに大変な目にあってるのに、友達のこととなると俄然張り切るんだな」


 ミクはちょっと頬を赤くして照れくさそうに笑った。そして、慌てて下を向くと、眼鏡を外してハンカチで拭きだした。俺が覗き込むと、不意に顔を上げた。ミクの目に涙が光っている。な、なんで泣くんだよ。そんな目で見られると困る。誰も居ない公園で、一体誰が俺の暴走を止めてくれるって言うんだ。


「ミク。お前、眼鏡かけてるほうが似合うぞ」


 ぎりぎりのところで、なんとか理性で押さえ込んだ。一体なんだってんだー!


頼りがいのある佐伯ブラザースのおかげで、ゲームについては解明できそう。それにしても、ミクちゃん、今度は坂本さんとモヤモヤ。。。はぁ。どうなることやら。


冬の公園で、友達と食べる肉まんやおでんって、なんだかとっても美味しかったような。。。

すぐに冷めるのが残念ですが。

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