探しにいかなきゃ
「くそ、負けちまった。」
「勝者ブーン。」
観客席からは再び歓声が鳴り響く。
くそ、アサヒにちょっかい出してるこんなチャラいやつに負けるなんて。
負けるつもりなかったんだけどな。
「ユーチャック、早くこっちに来なさい。」
メアリー先生が呼んでいるので、水から這い上がると、そちらに向かう。
「軽く火傷はしてるみたいね。治療」
メアリー先生の手が緑色に光ると、その光を浴びた俺の火傷が治っていく。
「これでよし。」
あっという間に治ってしまった。
やはり、優秀な人だ。この人も噂では学園にくる前はけっこう有名な冒険者だったみたい。
「ありがとうございました。」
「惜しかったわね、次頑張りな。」
俺はそのまま控え室を通過していき、気になったので、さっきアサヒが襲われていた場所を見ることにした。
ブーンがいたらもちろんアサヒを本気を出して守るつもりだ。
「くっくっくっ、やっぱりてめぇはいいな。」
ブーンの声が聞こえる。
まさかもう手を出していたとは。アサヒもなんで来てるんだよ。
俺が二人を視認すると首を捕まれてジタバタと暴れるアサヒを笑って見下しているブーンの姿だった。
まさかアサヒにこんなことをしてるとは。
こいつもう許さん。
俺は異空間から黒いフード付きのコートとマスクを取り出して顔を隠し、刀を取り出す。
「何をしている?離さないか。」
「誰だてめぇは?どうしようが俺様の勝手だろう。」
よし、一応一回は手を差し伸べてやったよ、師匠。悪いやつでも一回は手を差し伸べてみろってのが師匠との約束だ。
ってことで師匠こいつ殺します。
って殺すのはまずいので半殺しにします。
「戦場を駆け巡る金色の一刀」
鞘から抜いた剣は金色に輝きだす。
「閃光の太刀 刹那」
俺の体を光の粒子に変え、光の速度で敵を切り刻む。光速の剣である。
ブーンは血を吹き出しながら倒れる。
まあ急所も外して、ほとんど峰打ちだから、死にはしないだろう。
けど、本人は何が起きたかわかってないだろうな。
「キャーーーー!人殺し!」
「嘘だろ、こんな時に叫ぶのかよ」
アサヒは状況を呑み込めず錯乱したかのように叫びだす。
これは予想外だ。けど取り乱すアサヒも可愛い。
って見とれてる場合じゃないな、名残惜しいけど俺も逃げなきゃ。
せっかく助けたのに正義のヒーローって感じにはならなかったな。
まあ人生そう上手くはいかないか。
叫び声を聞いて人が集まってくる気配がする。
ってことで俺は逃げます。
正体をばらすわけには行かないので無言で立ち去った。
多くは語らず弱きを助ける。俺、今カッコいいんじゃない。
ーーーーー
場を上手く逃げ切った俺は学園ランキングの会場の座席につく。
なんだか上層部がざわざわしている。
ブーン倒したのバレたのかも。まぁ隠すことなくほっといてきたしな。バレて当然だよな。
「学園の生徒が何者かに襲われました。先生たちが状況の確認をしているので、生徒たちはその場から動かないで下さい。」
スタジアム全体に響き渡るように放送が流れる。
想定通りだな。まあ騒ぎになるのは覚悟していた。
「只今鑑識魔法を用いて現場を確認しています。不審人物を見た人は至急先生へ連絡してください。」
鑑識魔法まで使用してるのか。
なんだか本格的だな。
鑑識魔法とはその場に漂う残留魔力を辿ることが出来る魔法で、事件が起きるとよく用いられる。
ただ使うのが難しくて習得してる人は少ない。
「全員逃げ・・ぐぁ」
ん?なんだ今の放送は。
事件は俺がブーンを倒したことじゃないのか?
あれ誰だ?
気が付くとスタジアムの舞台に1人黒いフードを被った人物が立っている。
いかにも怪しい感じだ。先生たちに伝えるか?
って誰もが怪しいと思うよね。まあいいか。
「キャーーーー」
悲鳴の声がした方へと振り返ると複数のゾンビが出現しており、生徒たちを次々と襲っていく。
よく見るとゾンビたちは各所の魔方陣から出現しているようで、次から次へと出てくる。
「助けてくれ~」
至るところで悲鳴や助けを呼ぶ声が聞こえてくる。
この状況で俺が思案した結果、周りを助けることよりも、アサヒを助けることを優先することにした。
みんなはなんとかするだろう。
「全校生徒へと命ずる。武器を取り、敵を掃討せよ。」
放送から校長先生の声が響き渡る。
この声で動揺していた生徒たちも落ち着きを取り戻したようで、武器を構えて戦闘態勢に入る。
さすがは校長先生。士気はこれでだいぶ上がったね。これでこの辺の人は大丈夫だろ。
さぁアサヒを探しにいこう。まだあの場所に居るといいけど。