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3.第二皇子の悲願(3)


 融勒は七星亭を出て行った。このまま最禮宮に戻るのだろう。輿を見送った後、紅妍も亭を出る。せっかく北庭園まで来たのだから少し見て回ろうと思っていた。冬花宮から連れてきた藍玉ら宮女たちを呼び、北庭園を歩く。


(秀礼様にどう切り出せばいいか)


 話すだけ、と言いながらも迷いがある。融勒が直接秀礼に話さず、紅妍を通そうとしていることから、融勒側は秀礼とそこまで親しくないのだろう。秀礼が、融勒のことをどう考えているのかはわからない。

 心のうちを憂いが占めている。この後秀礼が来ると聞いているが、それまで楽しみにしていたのが一転している。見上げれば空にも鈍色の雲がかかろうとしていた。


「華妃様、どうなさいました?」


 紅妍の憂いを察したらしい藍玉が聞く。見れば供に連れてきた他の宮女らも不安そうな表情をしていた。


「いや……大丈夫」

「何かありましたら言ってくださいね。空も雲り、風も出て参りました。そろそろ戻りましょうか」


 確かに風も出てきた。槐の葉が先ほどよりも騒がしい音を立てている。この分だと夜には雨が降るのかもしれない。


「では戻ろう」


 そうして踵を返そうとした時だった。同じく北庭園に訪れていたのであろう者が紅妍の方へとやってくる。


「あら。華妃様」


 (しん)琳琳(りんりん)だった。紅妍に恭しく礼をしたが、その目元は華妃である紅妍のことを見下すように冷ややかだった。


「密談は終わりましたの? 華妃様ったら融勒様とも親しくなさっているのね」

「……なぜ、それを」

「とぼけても無駄ですよ。わたし、見てしまったんですから。亭の方で華妃様と融勒様が親しくお話されているのを」


 琳琳の態度が冷たいものである理由はすぐに理解できた。琳琳は紅妍と融勒が七星亭にいるのを見てしまったのだろう。人払いをしていたといえ近くに宮女らが控えていたから、話を聞き取るほど近くには寄れないはずだ。遠くから二人がいるのを見ていたのかもしれない。


「秀礼様につくと思えば今度は融勒様……華妃様は随分と顔が広いのですね」

「何が言いたいの?」

「わたしは見たままを申し上げてるだけです。優柔不断の華妃様は、どちらの皇子が帝になっても良いように動いているのでしょう?」


 琳琳にとっては話の内容はわからずとも『華妃が融勒と密談していた』という現場さえあればいいのである。彼女は密談の内容を好き勝手に想像し、その口で語る。


(厄介な人に見られたのか)


 紅妍は顔を強ばらせた。対する琳琳はというと楽しそうにくすりと笑みを浮かべている。


「……くだらない話はいい、わたしは戻る」


 琳琳を相手にしても無駄だと考え、紅妍は背を向ける。だが琳琳は止まらない。


「今度は秀礼様の元にでも向かうのかしら。嫌ですわ、浅ましい」

「なにを――」

「でも残念なことね。秀礼様にはこの辛琳琳がいますもの。秀礼様をお守りするのはわたし」


 よほど秀礼を慕っているのだろう。攻撃的に紅妍を睨めつけていたまなざしは秀礼の名を語る時だけ甘くなる。陶酔しているのだ。


 そこへ藍玉が間に入った。


「華妃様、参りましょう。お時間です」


 琳琳に絡まれている紅妍に助け船を出したのだ。そのことに心の中で感謝しつつ、琳琳から去る。


(周りの人がどう見るかはわからない、か)


 琳琳はそれ以上追いかけてこようとしなかった。安堵しながらも、気持ちは晴れない。


(面倒なことにならなければいいけれど)


 北庭園の葉が揺れる。鈍色の分厚い雲は次第に空を覆い尽くし、そのうちにぽつぽつと雨粒が落ちてきた。

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