長老のお願い
村の収穫祭でもお目にかかれないようなご馳走をたらふく食べ、ジンチョウゲの香りがほのかにするふかふかの布団に包まれ一晩を過ごし、ベルカは今までに体験したことがないほど気持ちのいい朝を迎えていた。村では日が昇る前に空腹で目を覚ますのが日常だった。
朝食もごちそうになった後、長老からついてきてくださいと言われ家を出た。外には昨日のエルフ二人が立っていて、長老に朝の挨拶をすると先頭に立って歩きだした。向かった先は昨日も来た里の広場であり、夜とは違い人の往来があった。立ち話をする者、どこかへ急いで走る者、子供を遊ばせている者もいる。皆長老に挨拶をしながらも、ベルカのことを物珍しそうに見つめていた。
「さて、昨日話ができなかった『お願い』なのですが」
きた、とベルカは再び身構えた。しかし豪勢な一宿一飯の恩を受けてしまったため、これはもう大抵の要求は断りづらいなと思う。そのために昨日お願いをしなかったのならば、この人は強かだ。
しかし予想に反して、長老のお願いとは随分と易しいものだった。
「ここを北に行ったところに、天帝時代のものと思われる、小さい朽ちた遺跡があります。そこに古代宝具が埋まっている祭壇のようなものがあります。里の祭具として活用したいのですが、我々ではどうしても抜くことができませんでした。
しかしベルカ様でしたら、それができるやもしれません。ここに古代宝具を持ってきていただけませんか? もちろん、できなければそのままで構いませんので」
できなくてもいいなら、行って帰ってくるだけとそんなに変わらないじゃないか、とベルカは一も二もなく引き受けた。エリエルの案内のもと、長老に見送られて目的の場所に向かった。
そしてベルカは、もう少し人を疑ってかかるべきだと、今回の一件で学ぶことになるのだった。