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ゴブリン襲撃

「天帝も他ならぬあなたにそうされては、さぞ困惑されていることでしょう」

 要領を得ない台詞を、さも当然といった無機質な声色で話すエルフに、ベルカは困惑した。

「魔力レベルがゼロだと、天帝様に祈る資格すらないってことかよ?」

 

 ベルカの解釈は外れていたらしく、エルフはきょとんとした。

「本当に何もご存知ないのですね」

 エルフはベルカの目の前まで歩み寄った。今朝は頭を押さえつけられていたせいで気づかなかったが、こうして向き合ってみると30センチ以上背丈の差がありそうだ。

 

 エルフは、あれをご覧ください、とさっきまでベルカが祈りを捧げていた天帝像を指した。

「あの像の剣は、ただの魔道具ではありません。あれは古代宝具(アーティファクト)、天帝のみが扱える神々の道具(アイテム)。これがその一つ、[六宝剣(りくほうけん)]です」


 エルフはそう言っておもむろに取り出したのは、骨刃すらないただの柄だった。おまけに随分古く、道端に落ちていてもゴミと見分けがつかなそうだ。ただしよく見ると美しい紋様が彫られていて、リカッソには、天帝の紋(エンペレスト)の透かし細工がいれてあった。目の前の天帝像の持っている剣の柄に、どことなく似ている気もする。

「そしてあなたはこの古代宝具(アーティファクト)を――」

 

 夜の静寂を悲鳴が切り裂いた。

「なんだっ!?」

 村の中央へ向かうと、あちこちから火の手があがっていた。女たちは子供の手を引っ張りながら逃げ、男たちは各々武器を持って何かと対峙している。

 

 火の明かりが襲撃者たちの姿を照らす。男たちの背丈の半分もなく、細い体とは不釣り合いに頭が大きく、肌は緑色で、尖った鼻を獲物を前にして楽しそうにひくひくさせている。

 ゴブリンだった。

 

 ゴブリンは人型だが、人間ではなく魔物に区別される。人界と魔境の境に集落を作り、人を積極的に襲うことから、たびたび冒険者に討伐が依頼される。

一体一体の強さは、魔物の中では最弱の部類だ。武器を持った成人男性なら、勝つのに訓練も魔道具も必要ないといわれている。だが――


「ぐああああっ!」

 苦痛の叫びを上げる村人の男の腹には、ゴブリンが突き立てた短剣が深々と刺さっていた。男の背中には、もう一匹のゴブリンが飛びついて羽交い締めにしている。別の場所ではゴブリンに足をしがみつかれ倒れた男が、二匹のゴブリンに棍棒でめった打ちにされている。

 ゴブリンは集団戦に長けている。自分より少しでも強そうな相手に、単独で挑む個体はまずいない。力は無いが俊敏なため、倒すのに手間取るとすぐに増援がやってくる。

 

 そしてもう一つの強みが、狡猾性。

「徴兵があった晩に襲撃――はじめから狙われてたってことなのか!?」

 ゴブリンたちは、魔術が使えなくても、魔力レベルの高い者を本能的に感じ取っている。リーヤほどの魔力レベルがあれば、もし魔術が使えれば、ゴブリンの集団など赤子の手をひねるように滅ぼせる。だからこれまでは警戒して手出しできなかったのだ。それを――


「おまえのせいじゃないか!! おまえが、検査に手を貸さなければ!」

「……返す言葉もございません」

 エルフは悲しそうに目を伏せる。ベルカはすぐに言い過ぎてしまったことを後悔した。彼女は命令に従っただけで、本当に悪いのは領主だというのに。


「責任をとって、ここは私が引き受けます。あなたは隠れていてください」

「あんた一人でどうにかなるのかよ!?」

「きっと、してみせます」

 

 そう言ってエルフは、着ていたローブを脱ぎ捨てた。先ほどまでの魔術師めいた格好と打って変わって、革製の軽装に身を包み、背中には弓を背負った、狩猟師レンジャーの姿へと変貌した。

「私にはこの[虹彩精霊弓セブンズボウ]がついていますから」


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