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ダンジョンボス

 ダンジョンボスとは、宝物の守り手であり、ダンジョンの主であり、また心臓でもある。ダンジョンボスを倒せばダンジョンは活動をやめ、二度と魔物が生まれることはない。

 しかしダンジョンボスの強さは、どのダンジョンだろうと桁違いだという。


「魔物は下位、中位、上位種の3つにわけることができます。ゴブリンでいえば、普通のゴブリンが下位、ホブゴブリンやゴブリンナイトが中位種にあたります。上位種の個体数は少なく、遭遇することはめったにありません。ですが記録によると、ダンジョンボスは、どのダンジョンも例外なく上位種だといいます」


 ベルカとエリエルはダンジョンを進んだ先に、両開きの扉を見つけた。開くと、その先は空間が歪んでおり、先が見えなくなっていた。

 ここをくぐればダンジョンボスのフロアであり、一度入ればボスを倒すまでは二度と出られないという。


「そんなに強いのか、上位種って」

「少なくとも、魔力レベル4~5が束になったところで、勝てる相手ではありません」

 エリエルはベルカの目を見据えた。

「お友達が心配なのはわかります。ですが、古代宝具(アーティファクト)の力を持つあなたですら、死んでしまうかもしれませんよ」

「それは君もだろ、エリエル」

 エリエルはふっと笑った。

「私は、ベルカ様をお支えすると誓いましたから」

「俺もリーヤのこと、あいつのおふくろによろしく頼まれてるからさ」

 二人は一緒に扉をくぐった。


 広がった光景は、地獄絵図だった。

 かつて人間だったものの破片があちこちに散らばり、たくさんの怪我人が地面でうめいている。それ以外は、迫りくる魔物にやけくそ気味に突撃する者、悲鳴を上げながら逃げ惑う者、戦意を喪失している者。


 そしてその中心にいるのが、ダンジョンボス。燃えるように赤い肌と、ホブゴブリンよりもさらに巨大な体、後頭部から長い白髪が生え、ひげをたくわえ、耳にはオニキスのピアスを長い耳に着けられるだけつけて、手には巨大な両刃斧。また一人の兵士が斧の犠牲となり、ボスは雄たけびをあげる。


 ゴブリンロード。ゴブリンの上位種だ。

 今まで見たどの魔物よりも感じる、圧倒的なプレッシャー。ダンジョンの宝物と思われる足元の大きな宝箱、そんなものを気にする余裕がこのバケモノを前にしてどこにあるというのか。


 すくみそうになる体を必死におさえて、リーヤの姿を探す。すぐに見つかった。リーヤは無事だった。フロアの隅で、倒れた兵士の治療をしていた。リーヤは立派な魔術師の格好をしていて、手には杖型の魔道具を持っていた。杖の先からは白い光が溢れ、怪我人の体を癒していた。エリエルが行っていた優秀な白属性の魔術師(ホワイトメイジ)とは、リーヤのことだったのだ。


「何をしている小娘! こっちだ、早く私を守らんか!」

 別の場所でうずくまっていた小太りの男が叫んだ。他の兵士はみんな鎧を付けているというのに、一人だけパーティーに行くのかというような服装。見間違えるはずもない、コルバ郡主エッセンがそこにいた。

 しかし領主の怒鳴り声は、逆にゴブリンロードの興味を引いてしまった。


「いけない!」

 リーヤは領主の元に駆け寄り、魔術の防壁を張った。次の瞬間にはロードの斧が領主に向かって振り下ろされていた。あたりに衝撃が走り、防壁と斧の間にはエネルギーがバチバチと弾けている。上位種の攻撃を防いでいるだけ、リーヤの防壁は相当のものだった。しかしリーヤも疲れているのか、すぐに押され、防壁にはヒビが入り始めていた。

「もう、だめっ……!」


 障壁が砕かれ、斧がそのまま領主をリーヤ共々圧し潰そうかという刹那、ベルカの六宝剣がそれを防いだ。

「ベルカ!? どうしてここに!?」

「おまえを助けるためだ……よっ!」

 ベルカはゴブリンロードのもつ斧に比べればつまようじのような大きさの剣で、斧を弾き返した。二三歩うしろによろけたゴブリンロードは、驚いたように目を見張ったが、やがて口元をにたりとゆがめた。まるで好敵手を見つけたことを喜ぶかのように。

「貴様あのときの村の!? 役立たずがどうしてこんなところにいる!?」

 尻もちをつきながらわめき立てる領主を、ベルカは鋭く睨みつけて黙らせた。


「作戦は?」

「ホブゴブリンと同じです。私が動きを止めている間に、ベルカ様が攻撃を」

 ゴブリンロードの一撃がベルカに襲い掛かる。エリエルは斧を持った手に向けて、氷の矢を放った。


 命中はした。しかし矢は刺さらず、弾かれてしまった。

「そんな、これほどまでに力の差が……」

 勢いの止まらない斧は、そのままベルカに向けてたたきつけられた。直撃は避けたが、床を砕いた衝撃でベルカは吹っ飛ばされた。


「おのれ、よくもベルカ様を!」

 エリエルは先ほどよりも魔力をこめて、立て続けに矢を放った。ゴブリンロードの体に今度は刺さったが、普段なら凍り付くはずが、上位種故に持っている膨大な魔力がそれを防いでいた。ロードにとってはこの程度の矢を受けたところで、虫に刺された程度しかダメージは入っていない。


 だがダメージはダメージ。ゴブリンの王を怒らせるには十分だったらしい。

 ゴブリンロードは大きく息を吸い始めた。豪奢な甲冑に包まれた腹が、急激に膨れ上がる。

 そして息を吐くと同時に、灼熱の炎が噴き出された。初見の広範囲攻撃に、素早いエリエルもかわし切ることはできず、半身を燃やされた。体に燃え広がるまでにエリエルは簡易な水魔法を自分にかけて消したが、利き手と片足はまともに動かず、弓を握ることも逃げることもままならなくなってしまった。


 倒れている状態から顔だけ上げたベルカは、炎に包まれた惨状を夢でも見ているような気分で眺めていた。もう悲鳴を上げる者はいない。抵抗する者もいない。静まり返り、悪夢が覚めるのを待っている。どうせかなわない、楽にしてほしい、そう思っている。

 その悪夢は、まずエリエルにとどめを刺そうと、ゆっくりと歩いている。


(私は、ベルカ様をお支えすると誓いましたから)

「そう言ったよな、エリエル……っ!」


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