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ゴブリンダンジョン

 居酒屋に戻って開口一番、ベルカはすっきりした顔をしているエリエルに「ベルカ様、勝手に出歩かれては困ります」と怒られた。なんとエリエルは酒を飲んだあとの記憶がなく、自分が酒を飲んでいる間にベルカが勝手に消えたと勘違いしていたのだった。エリエルが酒を飲むと強いと自称するのも、要は酔っているときのことを覚えてないからなのだ。 面倒だからエリエルには二度と酒を飲ませないようにしようと心で誓う。


 ハチの案内でたどり着いたダンジョンは、洞窟の中にあった。入ると獣臭に口一番、ベルカはすっきりした顔をしているエリエルに「ベルカ様、勝手に出歩かれては困ります」と怒られた。なんとエリエルは酒を飲んだあとの記憶がなく、自分が酒を飲んでいる間にベルカが勝手に消えたと勘違いしていたのだった。エリエルが酒を飲むと強いと自称するのも、要は酔っているときのことを覚えてないからなのだ。 面倒だからエリエルには二度と酒を飲ませないようにしようと心で誓う。


 ハチの案内でたどり着いたダンジョンは、洞窟の中にあった。入ると獣臭と酸っぱいアンモニア臭が混ざったようなひどい匂いが漂ってきて、ベルカは同じ匂いを村にゴブリンが襲撃してきたときにかいだことを思い出した。どうやらこのダンジョンはゴブリンがたくさん潜んでいるらしい。


 中は入り組んだ構造をしていて、あちこち分かれ道があった。だが大量の足跡のおかげで、領主たちを追うのは容易だった。エリエル曰く、魔力検査でエリエルが各町村から引き抜いた人数は30人以上はいたという。それが全員駆り出されているとしたら、魔力レベルの高い者だけで構成された、魔道軍団と呼んでいいだろう。

 

 やがて、狭い一本道にさしかかった。ちょうど一人通れるぐらいの道がまっすぐ続いている。

「気を付けてください。こういうところで、やつらは出ますよ」

 エリエルの忠告は現実となる。進んでいく途中で後ろから何かが落ちる音がして、振り返るとゴブリンが何匹もいた。いったいどこから現れたのか――上を見ると、天井に穴が開いていた。

「このダンジョンは蟻の巣のように縦横無尽に広がっているようですね。そして――」


 今度は前方から、ガシャガシャと金属音が聞こえてきた。暗闇から現れたのは、甲冑に身を包んだゴブリンだった。

「こういう一本道で、相手を挟み撃ちにする。狡猾なやり口です」

 片手には長剣、もう片方の手には鉄の盾。ゴブリンのくせに遍歴の騎士のようなその魔物は、見た目通りゴブリンナイトと名付けられていた。ホブゴブリンと同じ、ゴブリンの進化種だ。


「私は後ろを片付けます。ベルカ様は前を」

 エリエルは平然とそういったが、エリエルとゴブリン達の距離はそんなに離れていない。あれらが襲ってくるまでに弓で片付けるのは厳しいのではないか。かといって甲冑をつけた相手に弓が通じるとは思えない。

 

 速攻で片付ける。

 ベルカはゴブリンナイトにむかって飛び出した。やはりとんでもない速さだったが、ゴブリンナイトはベルカの刃を難なく盾で受け止め、長剣で切りかかった。ベルカは六宝剣で受け止め、力づくで長剣を折りにかかる。しかしゴブリンナイトはつばぜり合いを避けるようにさっとベルカの剣をいなし、返す手で再び切りつけようとした。ベルカはいったん後ろに飛んで間合いの外に出た。

 力では古代宝具(アーティファクト)を持つベルカが上、しかし剣術では相手がベルカの1枚も2枚も上を行っているようだ。つい最近までベルカは剣ではなく鍬を振って暮らしていたのだから致し方ないが。


(俺にできることは、農作業で鍛えた体を使ったゴリ押しだけだ)

 ベルカは再度飛び出した。また同じ戦法とは芸の無いやつだとゴブリンナイトは鼻で笑い、盾を構えた。しかしベルカはゴブリンの手前で横に飛び、壁を蹴ったかと思うと、今度は天井を蹴り、地面に戻り、反対の壁に飛び、蹴り、飛び、蹴り、ゴブリンナイトを翻弄する。狭い洞窟だからこそできる、縦横無尽の動きだった。

 そしてゴブリンナイトが気づいた時には、ベルカはゴブリンの真後ろをとっていた。

 兜と鎧の隙間、首がわずかに露出した部分に、ベルカは刃を突き立てた。ゴブリンナイトは膝をつき、黒い霧となって消滅した。


「今度は決まったなあ」

 試練の時の動きと最後がそっくりだったので、思わずそう呟いた。

 そしてすぐに、エリエルを助けなければと顔を上げた。


 そこに立っていたのは、エリエルと、氷漬けになったゴブリンだけだった。よく見るとエリエルは片手にナイフを持っており、ゴブリンのものと思しき紫色の体液が地面にこぼれていた。接近戦もできるとは、やはりエリエルは相当強いようだ。


「こんなのに何回も出くわしたら、領主たちの軍隊はもう結構やられてるんじゃないのか」

「ですが、ここまで兵士の死体が一つもありませんでした。腕の良い白属性の魔術師(ホワイトメイジ)がいるのかもしれません。頼もしいことです」

「じゃあ順調ってことか!」

「ええ、もし順調に最奥のダンジョンボスの元にたどり着いていたら」

 エリエルは、次の言葉を言いかけ、険しい顔をして言うべきか迷い、やがてぽつりとつぶやいた。


「今頃は全滅です」


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